すぐに現実逃避するフリーターの裕一を描いた映画『そして僕は途方に暮れる』で主人公を演じた藤ヶ谷太輔。本作は藤ヶ谷が主演した同名舞台の映画化で、舞台も手掛けた『娼年』などの三浦大輔監督と再タッグを組んでいる。藤ヶ谷は自分に都合が悪くなるとその場しのぎで逃げ出すクズ男の裕一を力演。これまでのイメージを覆して新境地を見せた藤ヶ谷に、演じた苦労や撮影秘話、本作への思いを聞いた。
難役を演じる挑戦
「裕一は中途半端ではなく突き抜けたクズ男で生半可な気持ちではできない」
舞台のときには思ってもみなかったので、映画化すると聞いたときは嬉しかったです。映画は多くの方に見てもらえて映像として残りますから。裕一は自分の中にはないキャラクターでやり甲斐があるし、裕一にまた会えるということも嬉しかったです。ただ、手放しで嬉しいというだけではなかったですけど(笑)。裕一は生半可な気持ちではできないキャラクターなので。
裕一は中途半端なクズ男ではなくて突き抜けてるんですよね。とても純粋な人で、僕は一周回って裕一のことがカッコいいとさえ思いました。だからといって観客に共感部分がないと、ただのクズでダメなやつになってしまう。そうしないために裕一の一生懸命に生きているところを大事に演じました。当初は裕一の役どころがなかなかつかめなかったんですが、ある時ふと三浦監督を観察して取り入れてみたんです。監督から「つかめたね」と言ってもらえたので、監督を観察したことを伝えたら「僕の分身だからね」って笑ってました。
三浦監督のチューニングに合わせる
「常に緊張感があって、そういう意味でも追い込まれました」
三浦監督はこだわりがあって1カットに何時間も掛けることがあるんです。何度やってもなかなかOKがもらえず、こだわりがどこにあるのかつかむのが難しかった。「もう少し怒って」と指示があっても「もう少し」がどのくらいなのか、三浦監督のチューニングに合わせるためにミリ単位の調節が必要なんです。他の仕事もあるなか撮影期間中はその感覚を維持しなくてはいけなかったので常に緊張感があって、そういう意味でも追い込まれました。
でも、クライマックスの撮影では1テイク目で上手くいったんです。撮り始めてからカットがかかることはなく、シーン後半の照明やカメラの準備は万端ではなかったんですが、三浦監督は僕の演技を見てこのままで行こうと思ってくれたようです。いつもはカットがかかるとすぐさまもう1回と言われるんですが、そのときは撮り終えたあと三浦監督が「120点以上が出た!凄いよ!」と言ってくれました。結局、その後何テイクか撮ったんですが、本編には1テイク目が使われていて嬉しかったです。
自身にとってのターニングポイントに
「アイドルっぽさというものを引き剥がして、新しい自分と出会うことができました」
裕一を演じるということは、これまでグループ活動を通して培ってきたアイドルっぽさというようなものを引き剥がす作業でもあって、新しい自分に出会うことができました。
一方でキラキラなアイドルっぽさを引き剝がしたのはいいんですが、例えば翌日に歌番組やライブがあったら「もっとアイドルっぽく」と要求されることがあって苦労しました。映画の撮影ではいらなかったものが、別の現場では必要とされる。そういう意味ではジャニーズって大変だなって思いました。だから言葉では説明しにくいのですが、いまの自分のスタンスが一番やりやすいですね。30歳を過ぎてから肩の力が抜けてきたので。もともと僕はキラキラを目指していないし、これまでかっこよさをあまり作り込まずにやってきていました。特に30代から自然な感じでやっていて、こういう人がいても面白いと思います。
自分自身が楽しむためにも、今後はいろんな役に挑戦したいです。何やっても同じっていうのは自分としては面白くなくて、“藤ヶ谷太輔”のイメージが100人いれば100通りある方が理想です。例えばサイコパスみない役もやってみたいし、自分にはないヒモ男みたいのもやってみたい。ヤン・イクチュンさんの映画『息もできない』や韓国ドラマ「追跡者〔チェイサー〕」、映画『素晴らしき世界』みたいな世界観が好きなんです。そういうハードなジャンルもやりつつ恋愛モノも演じていきたい。いろいろなところに出ていって、「この人は次は何をやるのだろう」と興味を持ってもらって、そしてソロ活動をグループに還元できればいいと思います。今回でいうと「三浦監督が好きで映画を観たけど、この藤ヶ谷というのがよかった」と感じて、そこからKis-My-Ft2を知って他のメンバーも好きになるみたいな流れが理想ですね。
本作はとても思い入れが強く、僕にとってターニングポイントとなった作品です。逃げて逃げて逃げる裕一の姿は若い方の心にこそ刺さるんじゃないでしょうか。スマホを通して繋がっている人間関係を切って彼はどうなるのか、ぜひ見守って欲しいです。
TAISUKE FUJIGAYA
1987年6月25日生まれ。
2011年にKis-My-Ft2のメンバーとしてC Dデビューを果たす。アーティスト活動のほかバラエティ番組やC Mなど幅広く活躍。役者としてもキャリアを重ね、近年の出演作にドラマ「ミラー・ツインズ」「やめるときも、すこやかなるときも」などがある。
Text:入江奈々・エムクラ編集部
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、些細なことをきっかけに恋人と言い合いになり、荷物をまとめて家を飛び出してしまう。それから親友、大学時代の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとすぐ逃げ出して…。
監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔ほか
●2023年1月13日(金)全国ロードショー
(情報は公開時点のものです)