「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」松本幸四郎&市川染五郎インタビュー

「池波正太郎生誕100年企画」として豊川悦司が演じた映画『仕掛人・藤枝梅安』に続き、松本幸四郎が人気キャラクター、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を演じるテレビスペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」が2024年新春にいよいよTV初放送。叔父である二代目中村吉右衛門の当たり役であったこの役が、今回どう甦るのか。そして若き日の鬼平“本所の銕”こと長谷川銕三郎役に幸四郎の長男である市川染五郎が抜擢され、最強の「二人一役」が実現。それぞれの役に懸けた想いを聞く。

叔父の役を受け継ぐこと/父の若き日を演じること

松本幸四郎 鬼平に関しては「叔父そのもの」、「鬼平=叔父」というイメージで見ていましたので、演じてみたいとか、憧れるとか、そういった次元ではまったくない大きな存在でした。ですが、“役を受け継ぐ”ということは、歌舞伎の世界ではひっきりなしにあることです。お受けするか、お断りするか、という以前に「この私に鬼平を」というお話をいただけたということ、それがすべてですので、演じることに迷いは一切なかったです。以前にも今回のお話について、「根拠はないけど自信はある」と言ったことがあるのですが、それはこういう意味なんです。

市川染五郎 父が鬼平を演じることが決まった時点では、まさか自分も出演させていただくとは思ってもみませんでした。しかも父(平蔵)の若い頃の役で…。父とどういうところが似ているのか、実は自分ではよく分かっていません。意識して父に似せたほうがいいのかどうか、撮影の前は少し迷っていました。

幸四郎 彼が私(平蔵)の若い頃を演じるということで撮影現場を見ましたが、重要な長い殺陣のシーンがあって、それはちょっと羨ましかったですね。映像は舞台と違って一瞬一瞬、何秒かの場面の積み重ねで作っていきますから、ある意味でやり直しも利くというか、失敗するかしないか、そのギリギリの線を攻めながら演じられる。自分自身もそうしたいですし、そういうふうにやっていこう、という話は2人でしました。

染五郎 今回演じさせていただいた銕三郎は、僕と同じくらいの年齢設定です。自信に溢れているところや、怖いものを知らないことの強さなど、この年齢にしかないものはなんだろう? ということを、常に意識して演じていました。先ほど父が「根拠はないけど自信はある」と話していましたが、もしかして銕三郎もそうかなと。すごくやんちゃでギラギラしていて、そこに少し危なっかしさみたいなものがあって。そういう青春時代があってこその鬼平、という姿を見せることができたらと。

幸四郎 「鬼の平蔵」と言われるほどの人です。誰よりも率先して先に動き、誰よりも迫力がある。そんな立ち回りのできる鬼平になりたいと思い、演じました。表情や振る舞いからも、「だから鬼平と呼ばれているんだ!」ということを感じていただきたいですね。

「すべてはひとつひとつの積み重ね」

幸四郎 これは自分なりの鬼平、というよりも監督やスタッフのみなさんとの打ち合わせのなかで決めたことなのですが、叔父は名前を名乗るときに「火付盗賊改、長谷川平蔵である!」と言うのが決め台詞になっていますよね。この最後の「である!」をつけるか、つけないかというところで、私はつけないことにしました。「長谷川平蔵!」と言い切ることで、私なりの決意というか、本気で来たんだぞ、という気持ちを示せたらなと。たった一言なのですが、大きな決断でした。そこで全体の大きな方向性を打ち出せたのかなという気がします。

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染五郎 今回の「本所・桜屋敷」でも、劇場版の『血闘』でも銕三郎の立ち回りが重要な場面になっていたので、すごく緊張してしまいました。その撮影の前に、父が「火付盗賊改、長谷川平蔵!」と名乗る映像を見せていただいたんですね。「あ、鬼平だ……!」と。本当にゾワゾワっと鳥肌が立ちました。父から大きなパワーをもらって、さらに演技に熱を込めることができたと思います。あとは自分のなかにあるもの…言葉ではうまく説明できないのですが、曽祖父(初代松本白鸚)と、大叔父(二代目中村吉右衛門)と、父。そして自分のなかにある血と言えばいいのでしょうか。その感覚を信じていれば、自然と平蔵と銕三郎を同一人物として見ていただけるだろうという想いで撮影に臨みました。出来上がったものをみなさんがどうご覧になるのか、そこが少し気になっています。

幸四郎 彼は周りのキャスト、スタッフ全員から良いところを引き出していただいて、思い切り演じていたなぁ、と思いましたよ。今回、幼馴染の親友という役柄で共演させていただいた山口馬木也さんは実際に私と同世代でして、ドラマのなかでも自分たちの若い頃を思い出したりするのですが、回想シーンとなる我々の若い頃の場面を撮影している様子をのぞきながら、「若さって、武器なんだね」と話していました。若い頃の役だから若々しく見えるんじゃなくて……実際に彼らは若いじゃないですか(笑)。待ち時間に入ると我々はすぐ座ってしまいますけど、彼らは立ちっぱなしでも平気ですしね。

染五郎 銕三郎の場面をクランクアップ(=最後の場面の撮影を終了)したときは少し寂しくて……あともう1回くらいは銕三郎になりたいな、という想いは個人的にはありますし、このシリーズが長く続いてほしいと思っています。また銕三郎として撮影所に戻ってきたいです。

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幸四郎 銕三郎がメインになってしまうわけにはいかないですからね(笑)。私は私でがんばっていこうと思います。叔父は長い年月でたくさんの作品を残しましたけども、それもすべてはひとつひとつの積み重ねでしたから。今回の「本所・桜屋敷」も、長くあるうちの始まりだとは捉えていません。「鬼平犯科帳」というすでにある傑作がさらなる傑作になるよう、まずはこの一作をとにかく良いものにできたらと思って、作品と正面から向き合いました。どういうものが正統な時代劇なのか、いろいろとご意見はあるかと思いますが、ド正統の時代劇でビックリしてもらいたい。それが目標です。まず我々にとってはこれが正統なんだと。そういう想いを懸けたつもりです。

松本幸四郎 KOSHIRO MATSUMOTO

1978年、ドラマ 「黄金の日日」に子役で出演し、翌1979年に初舞台。1981年に七代目市川染五郎を襲名後、舞台『アマデウス』(1993年)、映画『阿修羅城の瞳』『蟬しぐれ』(2005年)など、多くの作品に出演。2018年、十代目松本幸四郎を襲名。2024年1月の歌舞伎座公演『壽 初春大歌舞伎』では松本白鸚も交えた親子三代での共演が実現する。

市川染五郎 SOMEGORO ICHIKAWA

2009年に初舞台を踏み、2018年に八代目市川染五郎を襲名。劇場アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021年)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022年)、映画『レジェンド&バタフライ』(2023年)など、近年は舞台以外にも活躍の場を広げる。2024年公開の劇場版『鬼平犯科帳 血闘』のほか、2月には博多座『二月花形歌舞伎』での親子共演も控えている。

Text:真鍋新一 Photo:平野司

スタイリスト:川田真梨子 ヘアメイク:林摩規子 衣装協力DbyD*Syoukei(松本幸四郎)

スタイリスト:中西ナオ ヘアメイク:AKANE 衣装協力: BARENA (市川染五郎)

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©日本映画放送

時代劇専門チャンネルで独占初オンエア
1月8日 後1.00~3.00  再放送=8・28
テレビスペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」
長谷川平蔵(松本幸四郎)は本所界隈を見廻り中に、親友の岸井左馬之助(山口馬木也)、本所の無頼者・相模の彦十(火野正平)と再会する。左馬之助から、かつて二人が憧れた娘・おふさ(原沙知絵)が嫁ぎ先を離縁され、悪御家人の御新造になっていると知らされる。彦十がその御家人の身辺を探ると、平蔵、左馬之助の青春時代の恩師(松平健)に繋がる因縁と悪事が明らかになる。
24年 出演:松本幸四郎、市川染五郎、山口馬木也、原沙知絵、松平健

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