■12月23日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ショウゲート
【STORY】
1992年6月。アメリカ最大級の贋札事件の犯人であるジョンが、裁判を前に逃亡。最長で75年の懲役という父親の罪を、この時初めて知った娘のジェニファーは衝撃を受けるが…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
ショーン・ペンが初めて監督&主演をつとめた『フラッグ・デイ 父を想う日』は、小規模ながらよく出来た作品。原題の『FLAGDAY』は、6月14日のアメリカ国旗制定の日。ペンが演じるジョンは、「この日に生まれた俺は、生まれながらにして祝福されている特別な存在」と信じていたが、農場経営を失敗し、妻子を捨てて逃げだすなど危うい生活の繰り返し……。本作は、実在のジャーナリストでジョンの娘ジェニファー・ヴォーゲルが“愛する父が犯罪者だった”という葛藤を綴った回顧録の映画化。ジェニファーをショーン・ペンの実の娘ディラン・ペンが扮し、父に劣らない熱演を披露。実母で女優のロビン・ライトによく似た美女で、今後も注目したい新星ですね。
フレーズには、いかにも英語らしい言い回しがあります。ジョンは見かけによらずショパンが好き。だから仕事仲間にも、子供も自分に似てロックに興味がないと自慢。
ジョン: My kids don’t like it(=rock music).They got class.
俺の子たちは、そんなもの(ロック)聞かないよ。品がいいからね。
<class>は、学校の「クラス」や「階級」のほかに、「気品」「上品さ」という意味があります。たとえば「She is not a beauty but she has class.(彼女は美人ではないけど、品がある。)」といった使い方です。
刑務所に入っているジョンが、娘のジェニファーがジャーナリストになると知って。
ジョン: I’m told congratulations are in order.I’m super proud of you.
“おめでとう”を言うべきだと聞いたよ。お前のことが超・誇りだ。
<in order> は「整えられる」「準備されている」。「congratulations are in order」を直訳風に言えば「祝福する準備が整っている」ですが、もっと会話風に砕くと「“おめでとう”を言わなきゃ」ということに。もうひとつの注目は<super proud>。最近はなんでも<super>をつけるのが流行り。前号でご紹介した『チケット・トゥ・パラダイス』でも、ジョージ・クルーニーがジュリア・ロバーツ扮する元妻に「I super love you!」と叫んでいます。<love(愛する)>という動詞に<super>をつけるなんて、私の知る限り、これが初めて。<super>がいかに万能か、わかるというものです。
最後のフレーズ。出所したジョンは、ジェニファーを「湖に行こう」と誘います。
ジョン: It is a beautiful lake one phone call away.
とても美しい湖で、電話一本の距離なんだよ。
「電話一本の距離」って、どういうことかというと。たとえば、遠くにいる友人にこう言います。「I’m just one phone call away.」。「私は電話一本のところにいるのよ。」→「電話一本で連絡できるのよ。」→「電話ちょうだいね。」。つまり何かの誘いや、催促の意味。「湖が電話一本の距離にある」ということは「私に電話をくれれば、そこに行けるんだよ」と、行きたくなさそうなジェニファーの気を引く意味があるのです。<one phone call away>、日本語にはない発想ですが、あちらではよく使われる日常表現です。
ショーン・ペン自身にお会いしたことはありませんが、約40年以上のキャリアの中で2度のアカデミー賞主演男優賞を獲得した名優。私としては、若者の頃からの彼を見続けてきたわけで、やはり「年なりに老けたな」って(笑)。同時に「その一本一本のシワの深さに彼の波乱の人生が刻まれているんだろうなぁ」とも思ったりもして。オールドファンとしては、いろいろな俳優さんたちを見ながら、時の流れを痛感する今日このごろです。
▽ショーン・ペンが初のゴールデン・グローブ賞候補になったアル・パチーノ主演作
『カリートの道』より
元麻薬王のカリートは親友の弁護士デイブの尽力で出所する。ところが、マフィアに脅迫されているデイブを助けようとして命を狙われる羽目になってしまい…。
カリート:Dave is my friend. I owe him. That’s who I am. That’s what I am, right or wrong.
デイブは俺の友達だ。彼には恩義がある。俺はそういう人間なんだ。いいのか、わるいのか、とにかく、それが俺なんだ。
日本のヤクザ映画なら、さしずめ「恩義を返さなくては、男がたたない」というところでしょう。カリートはほかの言い回しで表現していますが、「恩義」は<favor>。<favor>は「恩義」と訳すと堅い言葉のようですが、実際はいつでも、どこでも使える日常語。友達になにか頼みたいときは、「Can I ask you a favor?」少し丁寧に頼みたいときは「Would you do me a favor?」がいいでしょう。
(情報は記事公開時点の内容です)