「三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花」へと続く“出会いと縁”
前藩主用人の職を退き隠居生活をおくる武士がひょんなきっかけからさまざまな事件と対峙し解決していく、藤沢周平原作の人気オリジナル時代劇シリーズ「三屋清左衛門残日録」。前作がドイツの国際映像祭で金賞を受賞したことも記憶に新しいなか、最新第7作『三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花』が時代劇専門チャンネルで放送される。今回は主演の北大路欣也に加え、第1作から主人公を的確にサポートする親友・佐伯熊太役でレギュラー出演している伊東四朗を迎えて、最新作について伺った。
40年以上経っても、一緒に仕事ができる喜び
北大路 どのシーンも印象に残っていて、すべてが新鮮でした。シリーズは今回で7作目になりますが、 毎回毎回、伊東さんとご一緒するシーンでは、必ず“なにか”をもらいます。その”なにか”というのは事件解決へのヒントやアドバイスだったりするのですが、それだけではないですね。伊東さんと私が出会ったときに感じる、その一瞬の心。そこにいつも新たな気持ちで反応します。だから、お互いの役柄は変わらなくても、同じことを繰り返しているような感覚は一切ありません。
伊東 清左衛門とは幼なじみで、言いたいことを言い合える関係だから良いですよね。たとえば「聞いたふうな口を利くな」とか「人聞きの悪いことを言うな」というセリフはね、他の人が言うと強い言葉で注意しているように聞こえますが、私たちはお互い子ども同士の関係にたちまち帰り、憎まれ口を楽しく言い合っているだけでして(笑)。ああいうところが、とても好きなんです。
北大路 その2人でやりとりをしながら作る空気感が、清左衛門を本当に支えてくれているのだと思います。熊太がいてくれるだけで安心感がある。だから、彼を目の前にした時の清左衛門の顔をよく見てください。もう嬉しくてしょうがないという顔をしている(笑)。 あの表情はそのままの気持ちなんです。伊東さんとこの作品でまたご一緒できる! という、私の喜びでもあるのです。伊東さんと初めてご一緒したのは、今からもう40年以上前のNHKドラマ『男子の本懐』(1981年)ですね。
伊東 はい、 よく憶えています。私が床屋さんの役でね。
北大路 そうそう。私が濱口雄幸さん(昭和初期の総理大臣)の役。私は昔から、てんぷくトリオ(三波伸介、戸塚睦夫、伊東四朗の3人組お笑いグループ)の大ファンだったんです。テレビの生放送がある時は必ず家に帰って観ていたくらい。大好きな伊東さんと、その時初めてご一緒しました。私は総理大臣の役だったので、床屋にいても偉そうな顔をしているのですが、内心では「うわあ、伊東さんに頭を刈ってもらっているぞ!」とウキウキしていました。
伊東 そうだったんですか?
北大路 ええもう。ファンでしたから(笑)。いま、私は80歳になりましたけれど、伊東さんにお会いできて嬉しいというこの思いは同じです。青春時代の頃からずっと胸に焼きついています。
人生での出会い、ふれあいを大切にする藤沢周平の世界
伊東 私に言わせてもらえば、私はそのもっと前から欣也さんを知っていましたよ。若いスターの写真がたくさん載っている雑誌で、スケートリンクに立っている写真を見ました。たしか欣也さんがまだ中学生ぐらいの頃だったはずです。
北大路 私も憶えています。懐かしい。 あれは「キョートアリーナ」(1975年に閉鎖)というスケート場です。
伊東 私は欣也さんと幼馴染みという役ですから。会話の芝居をするときには、いつもその時の姿を思い浮かべてやっています(笑)。
北大路 嬉しいですね。作品をご一緒できる喜びが倍増します。
伊東 それは私こそですよ。昔、「銭形平次」のドラマで欣也さんに呼んでいただいて、ご一緒しながら時代劇というものを学びました。それはもう、私にとって財産です。本当にありがとうございました。
北大路 いやぁ、とんでもない。私も先人から同じように教わりながら育ったものですから…。私は13歳でデビューして、本当に最初はなにもできませんでした。今回、重要な役を演じてくれた一ノ瀬嵐くんがちょうど当時の私と同じくらいの歳でね。本当になんでもできる。私のデビュー時とは全然違うなぁ!と思って(笑)。それで、現場で彼に「先輩!」と呼びかけたんですよ。私は13歳でデビューしたけれど、 あなたはもっと早くにデビューして、こんなにいろんなことができるのだから、私にとっては大先輩なのだよという話をしました。彼はポカンとしていましたね(笑)。彼がいてくれたことにも、出演者のひとりとして本当に感謝したいです。
伊東 演技の上手い子役さんを見るとびっくりしますよね。私がいつまでも憶えているのは、今回も小料理屋の場面に出てくれている小林綾子ちゃん。彼女には「おしん」の時にびっくりさせられました。
北大路 伊東さんがお父さん役でしたね。
伊東 何回稽古しても必ず毎回真剣で、その都度、私のセリフを初めて聞いたという顔をしていました。彼女と今回もご一緒できたのが嬉しいです。お互いの年齢を計算してみてびっくりしますが(笑)。成長を感じますね。小料理屋の場面では、女将さんの麻生祐未さんも素敵ですね。あのシーンがとても癒しになっている。
北大路 毎回、本当にほぐしてもらっていますね。心地良い雰囲気ができていて、私たちはリラックスしてあの空気に浸かっている…そういう現場です。もちろん私たちが毎日仕事ができるのはスタッフのみなさんに支えていただいているからですし、これまでの人生での出会いも、今回の仕事のなかでの出会いも、すべてのふれあいの時間を本当に大切にしたいですね。
伊東 それに清左衛門はそういう出会いや縁を大切にする、とにかく心の優しいお侍でしょう。そこも好きなところです。私がなにかをするたびに彼の優しさが際立ってくれたらいいなと思いながら毎回演じています。
北大路 その優しさというのはやはり藤沢先生の世界だと思います。人と人との関わりのなかでの優しさが、藤沢先生の作品の中にはあるのです。
【プロフィール】
北大路欣也 KINYA KITAOHJI
1943年2月23日生まれ。
13歳でデビュー。時代劇スターとして活躍し、大河ドラマ「竜馬がゆく」(1968年)などの時代劇で主演を務める一方、現代劇でも活躍。代表作に映画『戦争と人間 第二部・第三部』(1971~73年)、『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)、『八甲田山』(1977年)など。近年は「三匹のおっさん」シリーズ(2014~2019年)、「刑事7人」(2015年~)など。現在は日本テレビ系ドラマ「厨房のありす」に出演中。
伊東四朗 SHIRO ITO
1937年6月15日生まれ。
てんぷくトリオのメンバーとして活躍後、喜劇役者としてだけでなく、「おしん」(1983〜84年)など、実力派俳優として数多くのドラマ、映画、舞台に出演。「伊東家の食卓」(1997年〜)などの人気番組でも知られる。今年6月からは新橋演舞場での舞台・熱海五郎一座『「東京喜劇「スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~」 』に出演予定。
時代劇専門チャンネル
3月9日 後7.00~9.00 再放送=31日
初秋のある日、道場の少年たちの喧嘩の仲裁に入った清左衛門(北大路欣也)は、事の起こりとなった少年のことを気に掛ける。その父である柘植孫四郎(甲本雅裕)は、8年前、剣の腕を見込まれて要人の護衛を引き受けたものの、刺客に襲われて任務に失敗。さらには妻と離縁するなど、心に大きな傷を抱えていた。清左衛門が、8年前の事件には「もうひとつの死」が関わっているのではと疑念を抱き真相を調べ始めた矢先、新たな事件が起きる。
23年出北大路欣也、優香、金田明夫、麻生祐未、伊東四朗ほか
『三屋清左衛門残日録』(文春文庫刊)
「山姥橋夜五ツ」(文春文庫『麦屋町昼下がり』所収)
Ⓒ日本映画放送/J:COM/BSフジ 藤沢周平Ⓡ
Photo:平野司 Text:真鍋新一