a54a3e1259f3ea0fa8169d85db6fba47 3 - 橋ものがたり「約束」 片岡千之助&望海風斗インタビュー

藤沢周平の名作短篇小説「約束」を初映像化

 『蟬しぐれ』『三屋清左衛門残日録』など、江戸時代の人々の生活に根ざした作風で多くの名作を遺し、今なお多くの読者に読み継がれている藤沢周平の短篇集『橋ものがたり』。本作の収録作をこれまでいくつもドラマ化してきた時代劇専門チャンネルが新作オリジナル時代劇  橋ものがたり「約束」を制作し、この2月に初放送する。主人公である見習い中の錺(かざり)職人・幸助役を、歌舞伎を中心に活躍を続ける片岡千之助が、そして奉公先の主人の妾であり幸助と秘密の関係を持つおきぬ役を、初めての映像作品への出演となる元宝塚歌劇団雪組トップスター・望海風斗が演じる。それぞれ歌舞伎、ミュージカルの世界を飛び出し、「いい意味で、‟信じられない”」(千之助)、「どうしよう? 本当に私で大丈夫?」(望海)と驚きと新鮮さをもって語り合う2人に、時代劇に挑戦した感想を伺った。

舞台とは違う、映像作品ならではの自然な演技を求めて

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望海風斗 最初の読み合わせ(キャストが揃って台本を通して読むこと)から、「しまった、これは舞台じゃないんだ」と思うことがあって…つい舞台のトーンでどんどん声を張ってしまうんです。読み合わせからきちんと声を張れ! と習ってきたものですから(笑)。映像作品の読み合わせは、みなさん普段と同じくらいのトーンで声を出されるのですが、私は読んでいくうちに声を張ってしまって。

千之助 舞台と映像ではまったく違いますよね。なにが違うか、言い始めたら止まらないくらい。僕も最初は歌舞伎の舞台のようなお芝居になっていました。歌舞伎役者なんだから時代劇で演じるのも簡単だろうと思われがちなのですが、僕はまったく逆です。そこはお稽古の段階でかなり苦労しましたね。これは杉田成道監督が仰っていたことですが、「時代劇だけれども、自然に演じてほしい」と。そんなに考えすぎず、セリフを少しでも自分の言葉になるように演じさせていただきました。

望海 私は監督に「息が流れるように、この空気が止まらないようにやってね」と何度か声をかけていただきました。少し感覚的な言い方に感じるかもしれませんが、でも言葉の意味はわかります。わざと何かを起こそうとするのではなく、いま起こっていることを止めないでおく。その感覚を大切にされているのだなと。舞台は美術がシンプルですし、目の前には客席が広がっているので、演技をしながら想像で埋めていく部分が多いのですが、映像作品はスタッフのみなさんが隅々までこだわり抜いたセットや小道具に囲まれて、すべてリアルなものが広がっている。そこがすごく新鮮で面白かったです。舞台では空を見るにもひとつお芝居が必要ですけど、外にいれば最初からそこに空は広がっていますから、あえて自分が何かしなくてもいい。自分がただそこにいれば成り立つんです。

千之助 ちょうど僕も同じことを考えていました。撮影に入る前日に祖父(片岡仁左衛門)に電話して、「どうしよう? 芝居しすぎているかもしれない」と相談したら、「そやなぁ……まぁ、映像はな、カメラの前に立っているだけで芝居になるからなぁ」と。その一言で、「あっ、そうだった」と思い直しました。そこにいるだけで、カメラに映っているだけでお芝居なんです。それでフッと腑に落ちたというか、また先に進めたような感じがしました。

望海 自分の姿が人にどう見えているかを改めて客観的に見ることってこれまであまりなかったんですよ。舞台はその日にやったらそこで消えていくものですから。でも映像はずっと残りますよね。ある日の現場で自分が残したものが、何日も経った後に「完成しました」と言って目の前に出てくる。それはすごくドキドキします。

千之助 そう。そこはけっこう不安ですよね(笑)。その場で演じたらそれで終わりじゃないんです。そんな経験は今まであんまりなかったですから。実際にみなさんがご覧になって、どう感じるんでしょうね。心のなかが激しく動いていたとしても、人の表情ってそんなに変わるものではないですよね。杉田監督は演技について「こんな表情をしてくれ」とか、具体的なことは仰らないし、僕も特に型を決めてはいきません。自分の気持ちの流れを特に意識していたので、それが自然体というものなのかな。演じながらその感覚を探っていました。

望海 映像作品だからといって何か特別に工夫をしたということはなくて、役作りの流れは舞台と同じです。幸助にとっておきぬがどういう存在なのか。監督ともお話しましたし、自分としてもそこが一番大事だろうと。映像では舞台と違って何回も稽古して自分のなかに役を落とし込むというやり方はできないので、自分が立つセットを見ながら、その雰囲気のなかでじっくり考えて演じていました。実は、撮影のかなり最初のほうですぐこの2人にとって大事なシーンを撮ることになって、あまり考えすぎずに飛び込め! という場面もありました。

心の流れに身を委ねることで生まれる自然さ

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千之助 幸助とおきぬって、身体的な部分ではいちばん距離感の近い関係です。幸助からしたら、年上のキレイなお姉さんが目の前に現れて、彼も年頃なので葛藤がありつつも、吸い込まれるように素直に惹かれにてしまう。人間は誰にでも秘密があるという、その流れに任せて演じました。

望海 心の流れというか、自分ひとりで台本を読んでいるだけではわからない部分は一緒に演じてみないといけないですし、やはり人の温かさみたいなものを感じながら演じるのがいちばんやりやすいです。

千之助 描写的にはそれほどでもないですけど、そもそも異性と官能的なシーンをやったことがなかったので難しかったですね。

望海 そうだよね。私もそうで。

千之助 お互いがそうだからよくわからなくて、倒れ込むシーンは最初、柔道みたいになっちゃって(笑)。

望海 最初の稽古のぎこちなさね。お互いが遠慮しているというか、これまで舞台でやってきたことと逆だから(笑)、どうしたらいいんだろう?って。あれは面白かったです。

千之助 僕は女形を演らせていただくことも多い中、望海さんは元男役ですから。そうそう、そういうこともありました。

望海 最近、感じるようになったのは、身を委ねる楽しさというか、そこに起こっていることに素直に反応して、それを楽しむ、ということ。男役でトップを任されていた時の、ひとりで舞台を背負っていたような気持ちが無意識に残っていて、それをどうやってとっていくのか? を試行錯誤していたのですが、人に身を委ねてみて、その空気感をただ楽しめば、それで場面を成立させることができる。それが今回、特に感じたことでした。

千之助 僕は演じれば演じるほど、「昔の話」という意識が薄れていきましたね。それに関しては歌舞伎での経験が利点になっていたと思います。歌舞伎と時代劇ではお芝居のスタイルは全然違うのですが、最終的に役の気持ちに入っていければいいというのはどちらも同じなんです。だから、「違うけど、一緒」かな。あとは周りの雰囲気に身を任せながら役に入っていく、そんな感覚でした。

望海 やればやるほどわかる部分はあって、最初は正直「イヤな人だな…」と思っていたおきぬが、だんだん憎めない人になっていきました。すごくチャーミングな人で、やっぱり人間らしさがあります。

千之助 僕が演じた幸助はシンプルな性格で、純粋で熱くて、僕自身も憧れる人です。何事にも悔いなく、自分らしく。そういう生き方ができるようになりたいですね。藤沢先生の作品は今の人たちにもすごく共感しやすいと思います。時代劇だからとか、そういうことは取っ払って、とにかく「人の話」。人間のドラマになっています。

片岡千之助 KATAOKA  SENNOSUKE

2000年3月1日生まれ。上方歌舞伎の名門・松嶋屋の家系に生まれ、2004年に初舞台。祖父・片岡仁左衛門と共演した「連獅子」(2011年)のほか、近年では、「仮名手本忠臣蔵」(2023年)大星力弥からおかる、また、「義経千本桜」(2023年)小金吾、「俊寛」(2023年)千鳥と立役から女形、両方の研鑽を積んでいる。映画『メンドウな人々』(2023年)では現代劇に進出し、2024年には出演映画『わたくしどもは。』が公開予定。

望海風斗 NOZOMI FUTO

1983年10月19日生まれ。2003年に宝塚歌劇団に入団し、同年に初舞台。『アル・カポネ —スカーフェイスに秘められた真実-』(2015年)などを経て、2017年から雪組トップスターとして活躍する。退団後は『ガイズ&ドールズ』(2022年)『ドリームガールズ』(2023年)などの名作に出演。2024年1月からは主演ミュージカル『イザボー』が上演中。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』(2023年)の再演も予定されている。

橋ものがたり「約束」

錺(かざり)職人のもとに奉公していた幸助(片岡千之助)は、ようやく8年の年季が明けることになった。幸助は幼馴染のお蝶(北香那)という娘に想いを寄せていた。5年前、幸助とお蝶は年季が明けるその日、刻は暮六ツに、萬年橋で会う約束をしていた。互いに想いながらもこの5年間、幸助は人には言えない秘密を抱えていた。果たして二人は萬年橋で再会することができるのか…。
24年 出演 片岡千之助、北香那、望海風斗、風吹ジュン、橋爪功ほか

時代劇専門チャンネル 2月3日 後7.00~9.30 再放送=25

Photo:平野司 Text:真鍋新一 

ヘアメイク:Eita(片岡千之助)

スタイリスト:菊池志真(望海風斗) ヘアメイク:chie(KIND)(望海風斗)

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