『そして、バトンは渡された』映画と原作はココが違う!【ネタバレ】あらすじ&評価レビュー
©2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこのベストセラー小説『そして、バトンは渡された』が永野芽郁、田中圭、石原さとみなどの豪華キャストで待望の映画化。血の繋がっていない家族の愛を描いた大感動作品である本作の映画と原作の違いを徹底紹介! 評価レビューや感想作品情報まで。※【ネタバレ】要注意!※

『そして、バトンは渡された』映画と原作の違いを検証!※ネタバレ※

映画『そして、バトンは渡された』を映画館で見ると、あちらこちらからグスグスと涙している音が聞こえてくる。本作を見て涙しない人のほうが少ないのではないだろうか? 映画は血縁関係のない家族愛を描いた感動のヒューマンドラマ作品である。
ただ、原作と異なる点が多々あるので、原作ファンは映画を見て「?」疑問符が浮かぶ点も多かったことだろう。反対に、映画を見てから原作を手にした人にとっては、「原作はこんなに違うのか!?」とある種の感動を覚えるかもしれない。それくらいストーリーや設定に違いがあり、さまざまな感想が飛び交っている。映画には映画の、原作には原作の良さがあるので、ぜひ各々を比較して楽しんで見てほしい!

映画と原作の違い ① みぃたんって誰?

予告映像にも登場する「みぃたん」。原作には登場しないキャラクターで、原作を知っている人からすると誰おま状態。なんとなく、主人公である優子の幼少期だろうと想像した人も多いのではないだろうか。しかし“優子”という名前からなぜ「みぃたん」になったのか疑問である。
映画ではやはり「みぃたん」は優子の幼少期で、2番目の母親である梨花いわく、「みぃみぃ泣くから」との理由で「みぃたん」というニックネームになったそうだ(…世の中の子どものほとんどが「みぃたん」になるやないか、というツコッミを一応しておく)。映画では「みぃたん」=「優子」という設定は物語終盤まで伏せられており、梨花&みぃたん、優子&森宮さんの2つの家族のストーリーが並行して描かれている。
ちなみに原作では、優子の高校時代から話は始まり、要所要所で幼少期へさかのぼって最後に現代へと時系列が遷移していく。

映画と原作の違い ② 原作では梨花は生きている

優子(みぃたん)を溺愛していた梨花だが、ある日突然姿を消してしまう。数年後、高校の同級生である早瀬と結婚することになった優子が、その報告をするために梨花を探す…。というところまでは原作も映画も同じである。
原作では優子が2番目の父親である泉ヶ原に梨花の居場所を尋ね、梨花が入院していることを知る。だいぶ弱っている梨花であったが、優子と早瀬の結婚式にも参列できているのだ。ちなみに結婚式では、優子と早瀬が新しい家族を築くという意味で、タイトルの「そして、バトンは渡された」が効いてくる。森宮さんがヴァージンロードを優子と歩き、優子の手を早瀬へと受け渡すシーンは本作のハイライトだと思う。
一方映画では、梨花が病気で死んでしまったことを泉ヶ原から聞かされる優子。おそらくここで涙腺が崩壊した人も多いのではないだろうか。若い頃から病を患い子どもを産めない梨花が、優子(みぃたん)に注いだ愛の大きさがより感じられる展開となっている。

映画と原作の違い ③ 優子、めっちゃいじめられてる…!

個人的に映画を見ている最中の最初の衝撃は、「優子、同級生女子からすげえいじめられてる…!」だった。たしかに原作でも同級生から嫌味を言われたり、明らかに優子を蔑んだりするシーンもあるので、いじめられていることに変わりはない。しかし、原作では、優子を含めた仲良し3人組が登場したり、優子がいじめられるようになった経緯が描かれている。そのため映画を見ると、可愛い優子を妬んだ同級生女子から慢性的に(?)いじめられてるように見えるので少しびっくりした。卒業式(原作では合唱祭)のピアノ伴奏を担当することになった優子が、クラスでピアノ伴奏と合唱をあわせる場面も非難轟々で、心が痛む…。原作では、関係が回復したクラスメイトたちが優子の演奏を褒めてくれるシーンだった。
さて、原作で優子がいじめられるようになった経緯を簡単に説明すると、

①優子&萌絵&史奈の仲良し3人組がいる
②優子がクラスメイトの浜坂に言い寄られる
③浜坂とは進展しなかった優子だが、萌絵が浜坂を好いていて間を取り持つようにお願いされる
④優子が浜坂に上手く事情を伝えられず、萌絵は優子が保身に走ったと激怒
⑤クラス中から優子は男好きだとされて、いじめられる(嫌味を言われたり、無視されたり)

とこんな流れである。最終的には映画と同じように、複雑な家庭事情を知った同級生たちから同情されてことは収束していく。…萌絵が自分で浜坂に告白すればよかっただけの話ではないのか、、と思ってしまうが、これが青春ってやつなんでしょうねえ(遠い目)。

映画と原作の違い ④ 実は東大卒エリートの森宮さん

原作には、森宮さんが東大卒であると書かれている。ただし映画でもストーリー中に東大卒であることに言及しているシーンはなかったような気がするので、原作と映画で設定が違う、ということではないかもしれない。しかし、原作に描かれる森宮さんと映画の森宮さんはイメージが少し異なって見えたので、一応異なる点として挙げてみた。
まず森宮さんのビジュアルについてだが、原作でも細かく描写されているわけではないが、“切れ長の目”だと書かれている。一方の映画では田中圭の柔らかい目元である。そして原作にある森宮さん独特の、悪意のない悪意に満ちた(笑)特徴的な話し口調は、映画ではマイルドになっていたような気がする。田中圭というキャスティングが森宮さんに与えた影響は大きいだろう。

映画と原作の違い ⑤ 原作では卒業式でピアノ演奏していない

映画では卒業式で涙を流しながら合唱のピアノを演奏する優子の姿が印象的だ。保護者席の森宮さんも号泣していて、またまた観客の涙を誘うシーンである。一方の原作では、優子が一生懸命ピアノの練習をするシーンはたっぷりと描かれているものの、それは卒業式のためではなく合唱祭に向けてのものである。演奏した曲も、映画では卒業曲の定番「旅立ちの日に」であり、原作では「ひとつの朝」だ。原作には合唱祭での演奏の描写はなかった(これから弾くぞ!というところまでの描写にとどまっている)。卒業式では「森宮優子」と名前を呼ばれて「いい響きの名前だ」と優子が4回も苗字が変わってきたことを振り返り、今の名前に満足している様子が描かれている。

映画と原作の違い ⑥ お気に入りの向井先生

本作のキャラクターの中でわたしのお気に入りは、向井先生である。原作でもあまり登場回数は多くないが、芯を突くような発言や、言葉数や感情表現こそ少ないものの、生徒思いの立ち居振る舞いが魅力的な先生だ。個人的には向井先生が映画でもいい味出してくれたら嬉しかったのだが、やはりそれは難しかったようだ。ストーリー全体の大幅なアレンジがある中で、向井先生は流れに馴染むように設定されていた。全体を通してみると、映画では当たり障りのない先生である必要があったのかもしれない。メインに焦点をがっつり当てて、脇は意図的に目立たせないようにしている印象がある(優子と同級生の関係もしかり)。向井先生が気になる方は、ぜひ原作を手に取ってみてほしい!

映画と原作の違い ⑦ 1番目の父・水戸のその後

映画では再婚して田舎に移り住み、新しい家庭を築いていた水戸。ブラジルで仕事をしていた当時、優子(みぃたん)から送られてくるはずたった手紙が、梨花から届けられる。そこに結婚の報告をしに来た優子と早瀬がやってきて、感動の再会となるシーンだ。一方の原作では案外あっさりしていて、優子と早瀬が結婚の報告に水戸を訪れた描写はなく、結婚式当日に優子や森宮さんとのやりとりがあるだけだ。やはりエンターテインメントである映画としては、感情を揺さぶるような展開にするために、実父と娘の再会シーンを盛り込んだのだろう。原作には水戸がどのような生活をしているかは書かれていないので、再婚して田舎に住んでいるというのは、映画オリジナルの設定かもしれない。

映画と原作の違い ⑧ 森宮さんの料理

おいしそうな料理やスイーツが食卓に並ぶ森宮家。森宮さんは料理が得意で、毎日優子のために腕を振るっている。原作の1ページ目には、優子を思って何を朝食に作ろうか思い悩む森宮さんの心情が描写されている。料理がこの作品で重要な役割を果たしているのだと印象付ける書き出しだ。原作では朝からかつ丼を張り切って作ったり、人間関係に悩む優子を元気づけようと餃子を作ったり、受験勉強に励む優子に夜食でうどんを作ったり…。ケーキやおはぎなど、スイーツもたくさん登場する。料理がメインの作品ではないので、全面に料理が押し出されることはないものの、優子と森宮さんの会話はある食卓には、いつもおいしい料理が用意されており、2人をつなぐキーアイテムであることは間違いない。映画でも料理シーンや食事風景はもちろんある。しかし、原作にはもっとある(笑)。読んでいるだけでお腹が減ってくるので要注意。。

映画『そして、バトンは渡された』のみどころ

映画はエンターテインメント作品として見事!

さて、ここまで映画と原作の違いを紹介してきた。細かいところも含めればまだ様々な違いはある。原作ものの映画には、「原作こそが素晴らしい!」という考えが付きまとうものだが、『そして、バトンは渡された』は映画は映画、原作は原作の良さがはっきりとしていて、別作品とまで言わなくても、映画ではエンターテインメントとして違う楽しみ方を見せてくれたのではないだろうか。

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血のつながっていない親子の愛

「困った。全然不幸ではないのだ。」4回も苗字が変わった優子は、不幸な家庭環境で育った可哀想な子に思われることも多い。だが、血のつながっていない親たちに大きな愛情を注がれて育った優子は、明るくポジティブに生きている。映画では原作の魅力をさらに膨らませ、親たちが命がけでついた嘘とあたたかい秘密がドラマチックに描かれる。先行して行われた一般試写会では鑑賞者の「92.8%が泣いた(ワーナー・ブラザース調べ)」という驚異的な数字となり、日本中が優しい涙に包み込まれ、今年最大の感動が訪れること間違いなしの意欲作だ。

キャストには日本を代表する名優たちが集結した。
主演の優子を演じたのは永野芽郁。 永野の母が『そして、バトンは渡された』の原作ファンで、実写化したら演じてほしいと言われていたという。 優子の不幸さを感じさせない明るさがイメージにぴったりだ。また田中圭は、優子とは親子であり親友のような絶妙な距離を感じさせる父親・森宮を演じた。そして本作で初めての母親役に挑んだ石原さとみは、目的のためなら手段を選ばない魔性の女・梨花を華やかに演じている。ほかにも、泣き虫な女の子・みぃたんを稲垣来泉、ピアノの才能に溢れ、優子が思いを寄せる早瀬を岡田健史、愛する娘を残して夢を追いかけ海外へ行く水戸を大森南朋、梨花とみぃたんに裕福な暮らしを送らせた泉ヶ原を市村正親が演じている。

また本作は、ピアノが人々を繋いでいく物語でもある。主演の永野は、ピアノに興味はあったものの演奏の経験はなく、ピアノの才能がある早瀬役の岡田は、まったくピアノに触れたことがなかった。撮影が始まる前から練習を重ねたという2人のピアノ演奏シーンにも注目だ。

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永野芽郁(優子)
1999年9月24日生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(2018)ではヒロインに抜擢され、第43回エランドール賞新人賞を受賞。『ひるなかの流星』『帝一の國』『ミックス。』(2017)、『君は月夜に光り輝く』(2019)、『仮面病棟』(2020)、『地獄の花園」『キネマの神様』(2021)などに出演。
「血の繋がりのない親子でも愛の深さを持てるんだ、感じたことのない愛の種類や温かさを知って、人との繋がりは強くなるんだと気づかされました。」と作品の魅力を語る。

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2つの家族を並行して描く

本作の原作は2019年に本屋大賞を受賞した同名ベストセラー小説である。予告映像が公開されたときには、原作との違いを感じ取ったファンがざわついた。たしかに原作と異なる設定やストーリー展開はあるが、映画には映画のすばらしさがある。原作は優子と親たちとの関係を穏やかに描いている印象がある一方、映画はよりドラマチックに、感動的な作品となっている。原作ファンもエンターテインメントとして昇華された映画を観て、本作の魅力をぜひ体感してほしい。
本作の監督は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)、『老後の資金がありません!』(2021)などを手掛けた前田哲。普遍的な家族の話をどのようにして映画作品として魅力あるものにしていくかという点で、脚本制作は難題だったという。脚本を担当した橋本裕志は、原作が持つエッセンスを揺るがすことなく、映画でどんな仕掛けを用意するのか、監督やプロデューサーと共に熟考を重ねた。映画化における大きな変更点は、2つの物語を中盤まで並行して描いていくことだった。2つの物語が複雑に絡み合って展開することで、愛ゆえの【嘘】と【秘密】は「そういうことだったのか!?」という感動的な驚きとなって返ってくる。

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原作者・瀬尾まいこ
1974年生まれ、大阪府出身。大谷女子大学国文学科卒。2001年に「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本「卵の緒」で作家デビュー。2005年「幸福な食卓」で吉川英治文学新人賞を、2009年「戸村飯店 青春100連発」で坪田譲治文学賞を受賞。2019年「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞。映画『そして、バトンは渡された』を観た瀬尾は、「とてもドラマチックな映画で、原作を書いたことなどすっかり忘れ、ドキドキしながら夢中で見ていました。出てくる人みんな愛情にあふれ魅力的で、見終えるのがさみしくなりました。素敵な映画にしていただき、ありがとうございました。」とコメントを寄せている。

映画『そして、バトンは渡された』あらすじ

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「実は、あなたに伝えておかなければいけないことがあります」

血の繋がらない親に育てられ、4回も苗字が変わった森宮優子。わけあって、料理上手な義理の父親・森宮さんと2人暮らしをしている。そんな優子は、幼い頃に聞いたある言葉を信じてきたことで、いつも笑顔を作ってしまうクセがついてしまった。けれど笑顔でいても、将来のこと、恋のこと、友達のこと、うまくいかないことはある。目の前の問題は、卒業式の合唱で伴奏を引き受けてしまったこと。今はピアノを猛特訓中だ。
一方、梨花は、何度も夫を変えながら自由奔放に生きている魔性の女。いつも「みぃみぃ」泣いているみぃたんのママになった梨花は、血の繋がらない娘にめいっぱい愛情を注いで暮らしているようだったが、ある時、突然姿を消してしまった。愛娘を残して……。
ある日、優子の元に届いた一通の手紙をきっかけに、まったく別々の物語が引き寄せられるように交差していく。「優子ちゃん、実はさ…。」森宮さんもまた優子に隠していた秘密があった。森宮さんが隠していたこととは? 梨花はなぜ消えたのか? 2つの家族がつながり、やがて紐解かれる《命をかけた嘘と秘密》。そして、親たちが隠していたこととは一体何なのか…? 物語がクライマックスを迎え、タイトルの本当の意味を知ったとき、極上の驚きと最大の感動がとめどなく押し寄せる──。

『そして、バトンは渡された』

<作品情報>
2021年10月29日(金)全国ロードショー
原作:瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』文春文庫刊
監督:前田哲
脚本:橋本裕志
音楽:富貴晴美
出演:永野芽郁、田中圭、岡田健史、稲垣来泉、朝比奈彩、安藤裕子、戸田菜穂、木野花
石原さとみ / 大森南朋 市村正親
インスパイアソング:SHE’S「 Chained 」(ユニバーサル ミュージック)
配給:ワーナー・ブラザース映画

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