『孤狼の血』豪華キャストが凶悪化!実録風サスペンスの傑作
Ⓒ2018「孤狼の血」製作委員会

『仁義なき戦い』の舞台にもなった広島で、またしても傑作が生まれました。対立する2つの暴力団と警察内部の混沌とした有様を描いたサスペンス『孤狼の血』を紹介します。2021年には続編『孤狼の血 LEVEL2』も製作された人気作です。

実話…ではなく“実録風”サスペンス

硬派なナレーションや新聞記事、白黒写真などの手法で再現

現在も革命的な傑作として日本映画史に輝く『仁義なき戦い』は、終戦直後の広島・呉で実際に起こった暴力団の抗争事件を映画化し、「やくざが怖い街といえば広島」という地元の人にしてみれば、まったくありがたくないイメージを映画ファンに定着させてしまいました。
その『仁義なき戦い』や『県警対組織暴力』などの「東映実録やくざ路線」をこよなく愛する白石和彌監督が、激しい暴力描写と緊張感あふれる演出で大きな衝撃を与えた名作の雰囲気を受け継ぎ、警察と暴力団をめぐる新たな抗争劇を作り上げたのが本作、『孤狼の血』です。
結論から言うと『孤狼の血』は実話ではありません。
撮影こそ呉市で行われましたが、映画の舞台も広島市にほど近い「呉原」という架空の街になっています。
本作はニュース映像を思わせる硬派なナレーションや、事件を伝える新聞記事、暴力団関係者が写った白黒のスナップ写真といった「東映実録やくざ路線」で頻繁に使われた手法を現在に蘇らせ、同じ東映の制作で50年前の日本映画が持っていた底知れぬパワーを再現した“実録風”サスペンスなのです。

警察とやくざ、二手に分かれて豪華キャストが凶暴化

悪徳刑事を役所広司が熱演、相棒は松坂桃李

『仁義なき戦い』と並び称される名作『県警対組織暴力』は、『仁義〜』と同じく深作欣二監督、菅原文太主演で作られた「東映実録やくざ路線」の1本です。
しかしこちらの主人公はやくざではなく刑事。
暴力団の抗争を警察の側から描いているのです。
『孤狼の血』も警察側がメインの物語で、『県警対組織暴力』で菅原文太が演じた役と同様、やくざ勢力を押さえるために組に出入りするうちに、やくざのようにイカつくなってしまった悪徳刑事・大上を役所広司が演じています。
暴力団から賄賂を平気な顔で受け取り、情報を得るためなら拷問、放火…どんなに汚いことでもやってのける。
そんな彼に相棒として就くよう配属されたのが、松坂桃李演じる新人刑事・日岡。
大上と行動を共にするなか、「過去に殺人まで犯していたのではないか?」という疑惑が持ち上がり、日岡は敵も味方も信用できない最悪の状況に追い込まれてしまいます。

中村倫也、江口洋介、竹野内豊などの幅広い演技に注目

警察側の新人である日岡と対照的な存在として登場するのが、中村倫也演じる暴力団の末端構成員である若いチンピラ・永川です。
2005年から地道にキャリアを積み上げてきた彼は本作に出演した直後にNHKの朝ドラ『半分、青い』で全国的に知名度が上がり、ドラマ『美食探偵 明智五郎』などで主演級のスターになりました。
本作の登場シーンはそう多くはありませんが、この役で見せた今ではとても考えらない鋭い目つきは、作品のなかで強烈な印象を残しています。
そこで思い出すのは『仁義なき戦い』に下っ端のやくざ役で出演していた川谷拓三。
最初はほとんどモブキャラのような扱いだった彼が、「東映実録やくざ路線」が人気を集めるにつれて徐々に役が大きくなり、ついには主演作ができるほどブレイク。
バイプレーヤーとして確固たる存在となりました。
本作では、フジテレビの「月9 」ドラマに数多く出演したいわゆる“トレンディ俳優“の江口洋介と竹野内豊が、対立する組の若頭をそれぞれ荒々しく演じていることにも注目。
これもまた普段の彼らが絶対に見せることのない顔であり、この映画でしか楽しめない見どころです。

そして、『仁義なき戦い』にも出演していた唯一のキャスト・伊吹吾郎。
過去にあった大きな抗争の落とし前として逮捕され、刑務所に収監されている組長の役です。
菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫…、「東映実録やくざ路線」を盛り上げた名優たちが相次いでこの世を去るなかで、名作のスピリットを直接この映画に注入してくれる重要な役どころ。
出番は狭い檻のなかだけながら、異常なまでの存在感を見せています。

放送情報

東映チャンネル

2021年8月20日(金)22:00~24:30[R15+]
2021年8月29日(日)21:30~24:00[R15+]
2021年9月19日(日)22:00~24:30[R15+]

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