戸田奈津子のスターこのひとこと:『オットーという男』
オットーという男

■3月10日(金)より全国の映画館で公開!
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

【STORY】
町一番の嫌われ者、彼の名はオットー・アンダーソン。彼はいつもご機嫌斜めで、曲がったことが大嫌い。近所をパトロールしては、ゴミの出し方や駐車の仕方を指摘したりと説教三昧で…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 トム・ハンクスが嫌われ者の頑固な老人を演じた『オットーという男』。とはいえ、もともと彼自身が“善人さん”ですからねぇ。設定では意固地でいつも不機嫌な顔をしている主人公オットーですが、“じつはイイ人なのね”と最初からわかってしまい、先の展開も想像通りに。もちろんアカデミー賞主演男優賞に2度も輝いた名優トム・ハンクスですから、オットーの喜怒哀楽を巧みに演じて、とても気持ちの良い後味の映画に仕上げています。
 亡くなった最愛の妻ソーニャを忘れられないオットーは、彼女と初めて言葉を交わした日を懐かしく思い出す。偶然、ひと目惚れした彼女の姿を見つけて同じ電車に飛び乗った青年オットーだったが、検札に来た車掌に払うお金がない。それを見かねたソーニャのセリフ。

ソーニャ:Here I have some change.

ほら、わたしに小銭があるわよ。

 <change>は、日本語では「チェンジする」「変える」と反射的に思いますが、「小銭」「お釣り」の意味があることも覚えてください。たとえば、ホームレスなどが寄ってきて「Give me some small change, please.(小銭をめぐんでくれませんか?)」、またはタクシーから降りる時に「Keep the change.(お釣りはとっておいていいよ。)」のように使います。
 曲がったことが大嫌いなオットーはルールを守らない近所の住人に説教三昧。家の前をうろつくノラ猫を追い払いながら。

オットー:You scratch me and I’ll bite you. That will teach you!

わたしを引っ掻いたら、噛みつくぞ。 思い知ったか!

 <That will teach you.>を文字通り訳せば「勉強になっただろ?」ですが、実際はもっと意地悪く「思い知ったか」「どうだ、懲りたか」のニュアンスです。
 そんなオットーの心を開くのは、向かいの家に越してきた陽気な家族。とりわけお節介な奥さんマリソルと心を通わせて、妻が亡くなってしまったことを打ち明けます。

オットー:Sonya passed away.

ソーニャは亡くなったんだ。

 日本語でも人の死には敬意を評して「〜が死んだ」とは言わず、「〜が亡くなった」と言います。英語でも同じ。「〜is dead.」というのは敬意がないので、「〜passed away.」と言わなければいけません。礼儀上、覚えておきたい表現です。
 何回も来日しているトム・ハンクスの思い出はたくさん。『ダ・ヴィンチ・コード』(’06年)を携えて小泉首相を訪ねて官邸に訪問したことも楽しいエピソードのひとつです。じつは、私は首相になられる前の小泉さんと銀座のバーで遭遇し、映画の話に花を咲かせたことがあります。その時に、映画館で上映している作品を私よりたくさん見ておられることにびっくりしました。そんな方ですからトムとの会話も弾んで。首相が『ロード・トゥ・パーディション』(’02年)の名をあげると、トムが「尊敬するポール・ニューマンを“殺さなくては”ならず、演じるのが難しかった」と裏話を披露。「ダ・ヴィンチ〜」についても「多忙で原作を読む時間がない」とおっしゃる首相に、すかさず特別版の原作にサインをして「国会の審議が退屈になったら、こっそりお読みください」とプレゼント。ウイットに富んだジョークに、首相も大笑いしておられました。ちなみに他のビッグスターの首相官邸訪問はトム・クルーズ、リチャード・ギア、ウィル・スミスなど、私は都合4度もお邪魔しました。めったにない役得でしたね。

▽トム・ハンクスがメグ・ライアンと共演したロマンチック・コメディ

『めぐり逢えたら』より

妻を失った悲しみから抜け出せないサムと、その男心にほだされて逢いに行った女性記者に恋が芽生える。そのきっかけは、亡くなった奥さんのことをラジオで語るサムのセリフで…。

サム:We’re supposed to be together. I knew it the very first time I touched her.

一緒になるべき運命だった。彼女と触れあった瞬間にわかったよ。
Point

こんな想いを告げられたら、誰だってクラッときますよね? <supposed to be~>はよく使われるフレーズで、本来は「こういうふうに思われていた」「こういう予定だった」の意味。日常会話では、なくては困る言い回しです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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