戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『ダニエル』
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ダニエル

■2021年2月5日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャイン(池袋)ほか全国公開!
配給:フラッグ

【STORY】 孤独な幼少期を過ごしていたルークの唯一の心の支えは、自分以外には見えない“空想上の親友”ダニエル。しかし、とある事件をきっかけに自ら彼を封印することに。時は経ちルークは大学生になったが、人付き合いが苦手なことからふさぎこんだ日々を送っていた。そこに、精神病を患っていた母親の症状悪化が重なり、自分も同じようになるのではと不安が高まっていき…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 今回ご紹介する『ダニエル』は、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガーと、ティム・ロビンス&スーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンスによる豪華な<2世共演作>。じつは、それ以外の予備知識もないままに観始めました。とはいえ、原題は『Daniel isn’t Real』ですから、現実には存在しないダニエルがキーパーソンとなるお話であることは想像がつきました。そして、予想通りスタートは孤独で心に深い傷を持つ少年ルークが空想で作り出した架空の親友ダニエルに癒やされていくのですが、ある危険な出来事によって<ダニエルの封印>を決心する展開。ところが、成長したルークの前に再びダニエルが現れて……。もう、ここからどんどんホラーっぽくなって、びっくり。そして意外な結末まで来たときに、「原題の意味がもうひとつあった」と気づきました。本作だけではなく、原題によっては内容を匂わせたり、ネタバレ的な要素を含んでいる作品も多いですから、要チェックです。
 本作は、「心の病」に起因する物語なので、それに関した表現が多いです。心を病んでいる母親に育てられたこともあって、ルークは大きくなっても精神不安定。

ルーク:I get stressed out by college.

大学に行くのが、ひどいストレスなんだ。

 <stress>に<out>がつくと「ストレスがひどい」「ストレスが、もう限界」の感じ。たとえば、「As I’m so busy, I’m totallystressed out.(あまりに忙しくて、ストレスが限界状態。)」とか、「Her nagging stresses me out.(彼女のグチで、神経がイカれそう。)」など。
 あまりにエキセントリックな行動を繰り返す母親のクレアに困惑するルークは、いつ“異常”が始まったのかを尋ねます。

ルーク:When did it start for you?

母さん、いつ頃から始まったの?

クレア:When did I start to lose my mind?

私がいつ頃からフツーじゃなくなったかと言うこと?

 <lose one’s mind>を直訳すれば「心を失う」ですが、<mind>には「心」や「精神」という意味だけではなく「知性」や「判断力」「正気」といった意味もあります。これは、病的な意味だけではなく、普段の会話でも、冗談っぽく「あなた、正気なの?」「頭がヘンじゃない?」という感じで使います。興奮して冷静さを失った相手に、「Are you out of your mind?(頭がおかしいんじゃないの?)」とか「You are out of your mind!(正気じゃないわね。)」とか、軽い気持ちで言うことがあるでしょ?
 このコーナーで何度も言っていますが、簡単で慣れた言葉でも、つながると「特定の意味」を表すことが多いもの。それが英語の難しさでもあります。
 精神状態がますます深刻になってきたルークのセリフ。

ルーク:He is taking over my body.

あいつが僕の体を乗っ取ろうとしている。

 「take」も「over」もそれぞれよく知っている単語ですが、つながれば「乗っ取る」「受け継ぐ」「引き継ぐ」、ビジネスの場合は「買収」の意味にもなります。たとえば、アメリカの状態を例にとると、「Mr. Biden took over the presidency.( バイデン氏が大統領職を引き継いだ。)」ですね。

 さて、予想外の展開にびっくりした本作ですが、もっと意外でびっくりしたこともあるのです。それは、ルークを演じたマイルズ・ロビンス。じつは8年ほど前に、彼が日本旅行にやってきたときに、何度かお会いして新宿の焼き鳥屋などでお食事をしているのです。当時、大学を中退したマイルズは、「僕だけの卒業旅行として日本に行きたい」と母のスーザン・サランドンに相談。それを受けて、スーザンは親友の故ロビン・ウィリアムス夫人に「日本のお友達を紹介して」とお願いをし、ロビン亡き後もお付き合いのある私のところに連絡があったのです。あのころ20歳になったばかりのマイルズは、パパ似の長身。素直で礼儀正しいところに、育ちの良さが伺えました。大学を辞めてから、母が経営するニューヨークのピンポンバー(卓球のできるバー)でディスクジョッキーをしたり、バンド活動をしているとのことでしたが、演技にはあまり興味のない様子だったので、名優の両親の才能を受け継いでいるかもしれないのに、もったいないなぁと、思ったものです。それが、なんと本作では堂々の主役。繊細でちょっと幼い風情のルークを巧みに演じていて、かつてのイメージからは想像もできませんでした。やはり、血は争えないものですね(笑)。ちなみに、マイルズが帰国して数年後に訪れたニューヨークでスーザンにもお会いして、丁寧なお礼と素敵なプレゼントを頂いております。

▽スーザン・サランドンがリチャード・ギアと夫婦役を演じた笑いありのロマンス

『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』より

周防正行監督の邦画のハリウッドリメイク版。人生の虚しさを感じて社交ダンスに夢中になる中年弁護士ジョンをリチャード・ギアが演じ、やがてスーザン・サランドンが演じる妻との夫婦愛を再確認する物語。夫が内緒でダンスを習っていることを知って傷ついた妻が夫を責めるセリフ。

Why didn’t you tell me,Jhon? You’ve got to answer that!

なぜ私に言ってくれなかったの、ジョン? はっきり答えて!
Point

<have to~>に<got>を加えた<have got to~>ですが、意味は同じ。どちらも「~をしなければならない」という義務やする必要がある場合によく使われます。「~をしなければならない」の<must>と同じと考えてください。

(情報は記事公開時点の内容です)

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