不器用な父親と息子の絆の物語『とんび』
©2022「とんび」製作委員会

■“話題の一冊”では、小説やコミックを映像化した作品の放送情報を紹介。ドラマや映画を見てから原作を読んで、より詳細な心理描写や物語の背景を楽しんでもよし、先に原作を読んで、思い描いた世界が目の前に広がるのを楽しんでもよし。自分好みに物語を2度味わえる作品たちはこちら!■

『とんび』は父と息子の絆を描いた重松清のベストセラー小説の、初映画化作品。舞台は昭和37年、瀬戸内海に面した小さな町。事故で最愛の妻を亡くしたヤスが、不器用ながら温かな地域の人々に助けられつつ息子アキラを育てていく物語だ。頑固で破天荒だが愛情深い父を演じるのは、唯一無二の個性を放つ俳優・阿部寛。息子役は注目を浴びる若手実力派・北村匠海が演じる。

7月29日にWOWOWシネマ、7月30日にWOWOWプライムで放映予定。

絶妙な心情描写を味わえる小説

b61f6eb9e73b67824413d7c17d33d4d9 - 不器用な父親と息子の絆の物語</br>『とんび』
ー原作紹介ー
■とんび=書名 ■重松清=著者
■KADOKAWA/角川文庫=刊 ■定価704円

重松清は、人間の微妙な心情を描写するのに秀でた作家だ。
例えば、「納得できない」という表現をするとき。
”嘘や強がりを言っているとは思わない。だが、なるほど、とはうなずけない。割り算の「余り」のようなものが、胸の奥にある。”
だいたい納得できているが、何かがひっかかっている様子が感じられる。

”スジは通っている。きれいすぎるぐらい通っているが―それはしょせん「理」のスジだ、とヤスさんは思う。「情」のスジが通らない限り、うなずくことはできない。”
一方、こちらの「納得できなさ」では、理屈としては分かるが心情的に呑み込めないという感情を読み取れる。
このような多様な心情描写によって、誰よりも息子を愛するのにそれを素直に表現できないヤスの心の内ひとつひとつを手に取るように感じられるのが小説ならではの魅力だ。

「親と子」という誰もが経験する関係性だからこそ、多くの人の共感と感動を生み、愛され続けてきた本作。ホリエモンこと堀江貴文は、著書『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく 』(ダイヤモンド社)の中で最も感動した小説として以下のように紹介している。

“刑務所に収監されていた間、僕は1000冊に及ぶ本を読んだ。
小説からノンフィクション、伝記物から歴史物、ベストセラーからマニアックな学術書まで、せっかくの機会だと思ってとことん読み漁っていった。
その中で、僕がもっとも感動した小説はなにか?これは間違いなく、重松清さんの『とんび』である。”

映画オリジナルシーン

昭和ならではの地域で子供を育てていく温かさや、町の人々のつながりが感じられる本作。映画オリジナルの場面として、祭りのシーンがある。地域の人々が混然一体となって繋がっている象徴として、ヤスとアキラが一緒に神輿を担ぐシーンを組み込んだという。

「今は子供を育てるにしても、近所のおばちゃんではなくネットの検索に頼ってしまうような時代。そんな時代だからこそ、直接人と人が繋がる大切さを見直してもらえたら」という瀬々敬久監督の思いが込められている。

さらに映画オリジナルとして、令和のパートが描かれている。昭和の古きよき時代を「いい時代だったね」ということで終わらせず、ヤスの生き方を現代につなげていき、本作の持つメッセージを孫世代まで引き継いでいきたい、という意図ゆえだ。

阿部寛×北村匠海が語る監督の吸引力

阿部は、「過去に2度もドラマ化された作品であり、どうするか悩んだけれど、瀬々監督だからやらせてもらいたいと思った」と本作の完成披露試写会の中で語った。2021年公開の「護られなかった者たちへ」や2000年公開の「HYSTERIC」、2001年公開の「RUSH! ラッシュ」など瀬々監督作品への出演経験がある阿部。過去に出演した瀬々監督の作品では、まるで自分が演じたのではないような、想像できない姿がスクリーンに映し出されていて不思議な感覚だったという。そんな瀬々監督だからこそ、これまでドラマ化された作品でも、また新たな可能性を引き出してもらえると感じ役を引き受けた。

息子役を演じたのは若手実力派の北村匠海。北村が撮影に参加したのは、物語前半は子役が演じているため、クランクイン後しばらく経ってからだった。撮影の後半から現場に入ったが、その時にはすでに『とんび』の世界観ができあがっていたという。だから「僕はそこに飛び込むだけで、アキラになれました」と語る。この作品の持つ“家族を超えた繋がり”というテーマが現場にも充満していた。

このような雰囲気も瀬々監督ならではだと阿部は証言する。
作品をこよなく愛し、ワンカットワンカット妥協せずに粘る瀬々監督。無我夢中で作品にのめり込む監督に引き込まれ、周囲の人間も自然と団結するのだという。

北村も「本当に短いシーンでも、ものすごく熱意を持って撮られているのを見ると『絶対良いシーンにしなければ』と自然と気合が入った」と語った。瀬々監督の吸引力でひとつとなった現場だからこそ生み出された、高度経済成長期の匂い立つような昭和の雰囲気、その中で描かれる泥臭い人間ドラマに注目だ。

あらすじ

時は昭和37年、瀬戸内海に面した小さな町。運送会社で働く破天荒で不器用な男ヤスは、最愛の妻との間に息子アキラが誕生し日々の幸せを噛みしめていた。幼い頃に両親と離別したヤスにとって“家族”は何よりの憧れだった。
ようやく幸せを手にした矢先、アキラをかばった妻が突然の事故死。
ヤスは人情深い町の人々に助けられ、叱咤激励されながら、必死に息子を育てていく。時は流れ、アキラは東京の大学に進学。別居の寂しさを素直に伝えられないヤスは「一人前になるまで帰ってくるな!」と突き放す。その後、久々に再会した2人だったが―。

[映]とんび

放送局:WOWOWシネマ
放送日:2023年7月29日
放送時間:午後8:00~10:30
制作年/国:2022年/日本
監督:瀬々敬久
出演:阿部寛、北村匠海、麻生久美子、杏、薬師丸ひろ子、麿 赤兒、安田顕、大島優子、濱田岳、尾美としのり、木竜 麻生、宇梶剛士、吉岡睦夫ほか





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