儚く、美しく、この上なく純粋なラブストーリー
Ⓒ2010「雷桜」製作委員会

■“話題の一冊”では、小説やコミックを映像化した作品の放送情報を紹介。ドラマや映画を見てから原作を読んで、より詳細な心理描写や物語の背景を楽しんでもよし、先に原作を読んで、思い描いた世界が目の前に広がるのを楽しんでもよし。自分好みに物語を2度味わえる作品たちはこちら!■

いまだに海外旅行など気軽には行けない2022年のゴールデンウイーク。自宅でゆったり映画を見るという人も多いだろう。そんな5月、時代劇専門チャンネルでは“時代劇で紡ぐ日本の情景”と題し、日本ならではの美しい自然が印象的な時代劇映画を3作品放送。今回はその中から、育った環境や身分の違う男女の悲恋を描いた『雷桜』を紹介する。時代劇という非日常でありながら、社会の抗えぬ力の中で“自然な自分”を大切に生きようとする主人公たちの姿には、現代に通じるものがあり共感できる。また、主人公たちを心から愛する家族や家臣の言動は哀しくも温かい。普段時代劇を見ない人にもおすすめできる作品だ。

愛に身を裂き一途に生きた女性を描く時代浪漫小説

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~原作紹介~
■雷桜=書名 ■宇江佐真理=著者
■KADOKAWA/角川文庫=刊 ■定価616円

宇江佐真理(うえざまり)は『幻の声』で始まる〈髪結い伊三次捕物余話〉シリーズなど、今も昔も変わらない人情や人生というものが心に染みる時代小説を数多く著した。『雷桜』では下町の人情ではなく、藩の覇権争いにより数奇な運命をたどり、身分制度により引き裂かれながらも愛を貫き一途に生きた女性の人生、そしてその女性によって心を解放され、彼女を生涯慕い続けた男性の人生、彼らを取り巻く人々の人情を描いている。映画と異なる展開もあるため、ぜひ原作も読んでほしい。

粗野だが愛に満ちた山育ちの娘を蒼井優が好演

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Ⓒ2010「雷桜」製作委員会

本作のヒロインは藩の領地争いが原因で赤ん坊の頃に誘拐され、山の中で隠れて育てられた女性。さらった男は彼女を殺そうとしたが、その瞬間、背後の大樹に雷が落ちた。そして藩の命に背いた裏切り者とされながら、彼女に“雷(らい)”という名を授けて育てたのだった。人の世の「あるべき姿」を知らず、自然と共に自由な心で生きてきた雷。しかし兄に存在を知られたこと、育ての父が姿を消したことから、村の実家で“遊(ゆう)”に戻って暮らすことになる。長年ずっと娘の無事を祈っていた母をはじめ、家族からは温かく迎えられたが、“天狗”と揶揄する村人もいた。一方、将軍家の血を引くが心を病んで山へ静養に来た、清水家の当主・斉道(なりみち)。彼との交流から、遊は恋を知る。そんな“雷”であり“遊”であるヒロインの力強さと可憐さを、蒼井優が体現している。

2人の恋を視覚的に印象づける日本の美しい自然

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Ⓒ2010「雷桜」製作委員会
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Ⓒ2010「雷桜」製作委員会

映画全体のイメージとして印象に残るのが、斉道と遊(雷)が出会い、心を通わせる場となった“瀬田山”の風景だ。かつて落雷を受けた大樹にひととき咲き誇る桜、清らかな川の水、雑多な音や声の混じらない自然の空気…。それらは全て、奇跡的に出会った2人の、純粋で、力強いが儚くもある恋物語を、より深く印象づける。

“身分違い”という運命に翻弄された男女の命がけの恋

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Ⓒ2010「雷桜」製作委員会

徳川家に生まれた斉道(岡田将生)は、心を病んだ母から愛情を受けることなく育ち、自身も突然癇癪を起こすなど“気の病”と言われ、孤独で退屈な日々を送っていた。ある晩、家臣の瀬田助次郎(小出恵介)が語った故郷に近い瀬田山天狗の話に興味を持った斉道は、瀬田村へ向かう。一方、瀬田山で育った雷(蒼井優)は、「親父さま」と慕う理右衛門(時任三郎)と自由奔放に暮らしていた。山が乱されないよう、山に入った村人を脅して追い払っていた雷は、村人の間で“天狗”と噂された。
斉道は瀬田村に向かう道中、御用人の榎戸角之進(柄本明)らの制止も聞かず、ひとり山へ馬を走らせる。そこで、斉道は雷と出会う。助次郎に「女の天狗に出会った」と話すと、その天狗は20年前に誘拐された助次郎の妹・だと言う。
雷は村へ戻って遊として生きることになり、斉道と遊は再会。美しくも奇妙な巨木“雷桜”の下、 身分の違いなど意識せず、まっすぐな気持ちで斉道に向き合う遊は、斉道にとって、初めて“殿”という立場抜きに話せる存在となった。互いに惹かれあう2人。しかし、周囲がそれを許すはずもない。
そして男は愛する者のため、別れを決意。そのとき女は、命をかけた勝負に出る。

雷桜

放送局:時代劇専門チャンネル
放送日:2022年5月5日(木)
放送時間:午後8:00~10:30
再放送:22日 (日・祝)
制作年/国:2010年 日本
監督:廣木隆一
出演:岡田将生、蒼井優、小出恵介、柄本明、時任三郎、宮崎美子、高良健吾、柄本佑、大杉漣、ベンガル、池畑慎之介、坂東三津五郎(特別出演) ほか

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