戸田奈津子のスターこのひとこと:『カモン カモン』
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『カモン カモン』

■4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ

【STORY】
ラジオジャーナリストのジョニーはある日、9歳になる甥のジェシーの面倒をみることに。ユニークな性格のジェシーに少し戸惑うジョニー。2人は次第に打ち解けていくが…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 独身の伯父ジョニーと9歳の甥っ子ジェシーの数日間の同居生活を描いた『カモン カモン』。子供を育てたことも、一緒に暮らしたこともない私としては「やっぱり、子供って大変だなぁ」とは思いましたが(笑)。それはさて置き、作品自体はとても面白かったです。伯父がアメリカ中を飛び回って子供たちにインタビューをしているラジオジャーナリストという設定も秀逸で、いくらでも話が広がる。伯父が甥っ子を連れて訪れた各地の子供たちのナマの声がたくさん挿入されていて、未来とは? 大人とは? 子供とは? といった問いかけがストレートにされています。
 まずタイトル『C’mon c’mon』。<c’mon>は=come onの短縮形。意味は「おいで」「行こう」ですが、物理的な動きだけではなく、催促にも使えます。相手がなかなか話の核心に触れず、ジリジリしたら「C’mon c’mon.(さっさと話せよ。)」ということに。本作では、ジェシーが不安な自分自身に言い聞かせるかのように「C’mon c’mon.」とつぶやきます。ここの字幕には、「心配するな。きっと大丈夫だから、先へ進め。」といったニュアンスが込められています。
 ジョニーは、妹ヴィヴが精神的に病んでいる夫と息子の世話をする生活に疲れ果てていることを知っていて…。

ジョニー:I know you’re stressed out but just hear me out.

君がストレスに参っていることはわかるけど、ボクの話を聞いてよ。

 <stressed out>は「ストレスで参る」「ストレスでイライラする」の意味。ストレスは現代人の“持病”とも言われますから、これはよく耳にする表現。たとえば「This job is stressing me out.(この仕事で神経がクタクタだわ。)」。“out”をつけるとずっと強い意味になります。ジョニーのセリフの<Hear me out.= Listen to me.>も<out>がつくことで意味が強くなります。
 さて、ジョニーを演じているのはホアキン・フェニックスですが、彼は『ジョーカー』(’19年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した演技派。本作では狂気に満ちた“ジョーカー”とは真逆のナイーブな伯父役に説得力あり。そして、彼と見事なアンサンブル演技を披露したのは子役のウディ・ノーマン! 英語のシナリオには“聞き取り不能”という箇所が多く、かなりのアドリブで複雑な子供の内面を演じていることがわかります。すごい才能です。

 そう、彼のように、世にいう“天才子役”はこれまでもたくさんいて、私も何人かお会いしています。古くは『ペーパー・ムーン』(’74年)のテイタム・オニール。当時10歳くらい。とてもマセていて、いかにもハリウッドのわがまま二世スターという感じでした。『E.T.』(’82年)のドリュー・バリモアは、初来日は7、8歳ごろ。雑誌の撮影で着物を着て大はしゃぎ。すごく可愛らしかったのに、その数年後にはお酒、タバコ、ドラッグも、何でもアリという転落人生。しかし成人してからはそれらの依存症を克服し、再び来日したときには、革のベルトも身に着けないハードなエコロジー信者に。しかも、十数年の間の浮き沈みの激しさを悪びれることもなく、ケロッと他人事のように話す姿には、いささかびっくりしました。
 そして『シックス・センス』(’99年)で少年のコールを演じてブレイクしたハーレイ・ジョエル・オスメントは11、12歳ごろ。共演者ブルース・ウィリスとの共同会見では、先輩に敬意を示しつつ、撮影がいかに楽しくて、勉強になったかをよどみなく的確に表現。ブル―スは前回の来日で直前に取材拒否をしたり、カウチに寝そべりながらインタビューに答えるなどの行儀の悪さが評判でしたが、今回はハーレイのお利口さんぶりに感化されて、じつにサービス精神旺盛。記者たちも「別人?」と笑っていました。そのハーレイも30歳を過ぎた現在は巨漢になって、あの愛らしいルックスは何処へ。“子役は大成しない”のジンクスを覆しているジョディ・フォスターのように常にスターであり続けるのは至難の技。となれば、本作のノーマンの今後はいかに?

▽ハーレイ・ジョエル・オスメントが天才子役と称賛されたサスペンス・ホラー

『シックス・センス』より

M・ナイト・シャマラン監督が贈るスーパー・ナチュラル・サスペンス。彼と心を通わせる小児精神科医をブルース・ウィリスが好演。セリフは、学校の劇でうまく芝居ができなかったことに落ち込んでいるコールのひと言。

I sucked big time.

ボク、超ヘタだった。
Point

<suck>は「吸う」ですが、そこからちょっと下品な連想が生まれて「最低」「ムカつく」という意味を持つように。<big time>は、「デカく」「超~」に使う会話表現。これを応用すると、「The movie scared me big time.(この映画、超コワかった!)」など、生きた会話ができます。

(情報は記事公開時点の内容です)

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