戦後日本の高度経済成長の裏で、多くの人々の生命や健康が犠牲になった数々の公害問題。
なかでも特に大きな被害が発生した「水俣病」の実態を世界に紹介し、その真相に迫ったアメリカ人写真家、ユージン・スミスの健闘をジョニー・デップ主演で描いた映画『MINAMATA-ミナマタ-』が2021年9月23日に公開予定です。
語り継がれるべき歴史だとして、ジョニー・デップ自ら製作・主演を務めた注目の本作。
現在も解決に至っていない水俣病の問題をどう受け止めるべきか?
当事者である我々日本人に強く突きつける映画です。
水俣病の症状と住民たちの長く苦しい闘い
1950年代から確認された水俣病
水俣病は、化学メーカー「チッソ」の工場から流された「メチル水銀」を含む廃液が水俣湾を汚染し、漁村である熊本県水俣市周辺の人々がそこで採れた魚類を日常的に食べていたことが原因となって発生した病気です。
手足のしびれ、視力や聴力の低下、言語障害、痙攣などの症状を起こすほか、意識不明になる人や亡くなってしまう人もいました。
また、妊娠中の母親が汚染された魚を食べたことでメチル水銀がへその緒を通じて胎児の体内に入り、結果として水俣病になって赤ちゃんが産まれてくることもありました。(胎児性水俣病)
水俣病は、病気の原因と工場との因果関係が証明されるまでに長い時間がかかり、被害が拡大してしまったという問題もありました。
1950年代から水俣病の発生が確認されるも、日本政府が公害病として認定したのは1968年になってからです。
水俣病を含めた「四大公害病」と言われる「新潟水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」が相次いで社会問題となり、「公害」の存在がようやく全国に知れわたったこの時期に現地を訪れ、写真というメディアで克明にその実態を記録したのがフォトジャーナリストのユージン・スミスでした。
写真集を原作にした映画『MINAMATA-ミナマタ-』の挑戦
写真に込められたパワーをリアルに感じる映画
映画の原作といえば、通常は小説や評伝などのことを指しますが、この映画は1975年に出版された写真集『MINAMATA』が原作(原案)となっています。
これはどういうことかというと、ユージン・スミスが撮影した写真の前後の状況を1枚1枚ていねいに再現することで成り立っている映画、ということなのです。
もちろん彼が日本へ行くことになった経緯など、写真では残っていない部分もかなり描かれてはいますが、現実に彼が水俣で撮った写真は決して嘘をつきません。
ユージンがシャッターを切り、1枚の写真に込めたパワーを観客はリアルに感じることができる、そういう映画になっています。
ジョニー・デップと共演する日本人俳優たち
美波、真田広之、浅野忠信、國村隼らが活躍
ジョニー・デップと共演したのは、先立って公開されている『モータルコンバット』でも好演し、ハリウッドで活躍する日本人の代表的な俳優となっている真田広之、浅野忠信。
そして韓国映画『哭声/コクソン』の演技で世界に衝撃を与えた國村隼、そしてユージンを支える妻・アイリーン役に抜擢された美波など。
アメリカ映画でありながら、まるで日本映画のなかにジョニー・デップが迷い込んだかのような印象がありました。
それは異文化のなかに果敢に飛び込み、目の前の光景と向かい合ったユージンの姿と重なる部分でもあります。
写真家ユージン・スミスの作品に実際に触れる
クリエイティヴ写真センターがユージンの作品を公開
この映画のエンド・クレジットには、ユージンが晩年に教鞭を執っていたアリゾナ大学にある「クリエイティヴ写真センター(Center of Creative Photography……CCP)」のWebサイトのアドレスが出てきます。
(https://ccp.arizona.edu ※「Online Gallery」→「Artists」から「Smith, W.」を選択)
そこでは、ユージンが生前に寄贈した自身の作品の一部を実際に見ることができ、水俣で撮影された写真も見ることができます。
また、ユージンは太平洋戦争末期に多くの市民が犠牲になった沖縄戦にも戦場カメラマンとして随行しており、そこで受けた深刻な肉体的、精神的なトラウマが本作のなかでも大きなポイントとして描かれます。
このアーカイヴには、沖縄戦の真っ只中で撮影された写真も含まれています。
映画を観る前に、まず彼の生涯について調べてみてはいかがでしょうか。
公開情報
2021年9月23日(木・祝)全国ロードショー
監督:アンドリュー・レヴィタス
出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、ビル・ナイほか
配給:ロングライド
©︎ 2020 MINAMATA FILM, LLC ©︎ Larry Horricks