配給:ギャガ
【STORY】2016年。FOXニュースのベテランキャスター、グレッチェン・カールソンが同局のCEOをセクハラで告訴。全面否認とともに反撃にあう彼女だったが…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
オスカー女優の初共演が話題となっている『スキャンダル』。シャーリーズ・セロンが演じるのは全米ケーブルで視聴率No.1を誇るFOXニュース・チャンネルのアンカーウーマン、メーガン・ケリー。そしてニコール・キッドマンが演じるのは、巨大メディアのCEOロジャー・エイルズをセクハラで提訴したベテランキャスターのグレッチェン・カールソン。映画は、2016年に全米が震撼した実際のスキャンダルの全貌を2大女優の熱演で暴いていきます。
まずは、原題『Bombshell』に注目。「爆弾」「突発事件」という意味が転じて「魅力的な女性」「セクシーな女性」の代名詞でもあります。いわゆる日本でいうところの“セクシー・ダイナマイト”と同じですね。本作が描くのは「突発的な大事件」であり、その「爆弾」を炸裂させた当事者が「セクシーな女性」たちであると重層的な意味が含まれているのです。
セクハラを受け続けたグレッチェンが当時を振り返って。
I let him get away with it and told him to dream on.
(彼の行為を)見逃してやって、“夢を見てなさい”と言ってやったわ。
ここでの<dream on>は「夢を持ち続ける」というポジティブな意味ではなく、「夢でも見ていなさい!」「なに寝ぼけたこと言っているの」とバカにした言い方。例えば、叶う望みのない恋に夢中になっている友人が「I’m sure he’ll propose me someday.(彼、いつかプロポーズしてくれるわ)」と言ったら、「Dream on.(夢を見ているがいいわ)」。前のセリフ<get away〜(〜から逃れる)>で登場するグレッチェンのセリフをもうひとつ。
I didn’t let him get away with it.
(彼のくどきに)目をつぶらなかった。
こちらは、「そのままにはしない」「覚えておけ!」という強い意志の表れで、すごんだ時によく使われる言い回しです。
どんなことがあっても信念を貫くグレッチェンを演じたニコール・キッドマンとは、2度お会いしています。どちらも元夫のトム・クルーズと一緒の来日で、最初は結婚のきっかけとなった『遥かなる大地へ』が公開された1992年。ニコールは、この作品によって初めて国際的な脚光を浴びたばかり。そのせいもあってか控えめな雰囲気でした。もちろん、非の打ちどころのないプロポーションとまばゆい美しさではありましたが。2度目は1999年。巨匠スタンリー・キューブリック監督とのコラボを熱望したトム&ニコールが、心血を注いだ『アイズ ワイド シャット』のプロモーション。ニコールは、東京のプレミアで「私たちふたりにとって、これは一番重要な映画になるでしょう」とコメントし、ハリウッド女優としての貫禄もたっぷりでした。
さて、主役のメーガン・ケリーを演じて、(原稿を書いている時点では)アカデミー賞の主演女優賞候補になっているシャーリーズ・セロン。彼女とも2度の会見。初のお目見えは『バガー・ヴァンスの伝説』(’00年)。当時はまだメジャー作品の主役をはれるほどではなかったものの、その美貌と知性には好感しきり。彼女は15歳の頃に、酒に酔って暴力を繰り返す父親を母親が射殺したという過酷な体験をしています。しかし、そんな答えにくい過去の質問にもきっぱりと答えるしっかり者で、非常にシャープな頭脳の持ち主でした。2度目は、13キロも体重を増やして同性愛者の女性連続殺人犯を熱演した『モンスター』(’03年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞しての来日。すでにフェミニズムの活動を繰り広げ、そのポリシーに従って出演作を選ぶようにしていると聞けば、本作に惚れ込んでプロデューサーまで担当したのも納得でしょう。ちなみに、そんなシャーリーズの素顔はフランクで超明るい。繰り出したカラオケではABBAの「ダンシング・クイーン」を歌ってマイクを離さず(笑)。あの美しさでの見事な歌いっぷりは、一見の価値あるシーンでした。
▽シャーリーズ・セロン主演のコメディドラマ
『ヤング≒アダルト』より
大人になりきれず自己矛盾だらけの人生を送るイタイ女性を、シャーリーズが絶妙なバランスで好演しゴールデン・グローブ賞の主演女優賞候補に。若作りで言葉遣いもやや幼稚なヒロインが、ゲイの学友に起こった悲劇を聞いて言うセリフ。
It sucks what happened to him.
彼に起こったことって最悪だよね。
<suck>は、少々卑猥なニュアンスが込められた「吸う」ですが、「最悪、最低、不愉快」の意味で使うことが多いのです。例えば喧嘩の後に「you suck!(あなたって、最低!)」とか。「You are terrible.」でもいいのですが、<suck>の方が迫力倍増です。
(情報は2020年3月の記事公開時点の内容です)