■“話題の一冊”では、小説やコミックを映像化した作品の放送情報を紹介。ドラマや映画を見てから原作を読んで、より詳細な心理描写や物語の背景を楽しんでもよし、先に原作を読んで、思い描いた世界が目の前に広がるのを楽しんでもよし。自分好みに物語を2度味わえる作品たちはこちら!■
母が記憶を失うたびに、僕は思い出を取り戻していく―。
『百花』は、母が認知症を患ったことをきっかけに、母との過去の記憶に向き合っていく息子の姿を描いた感動作。原作の著者・川村元気が自らメガホンを取り映画化した。記憶を失っていく母を原田美枝子、息子を菅田将暉が演じる。
6月17日にWOWOWシネマ、6月18日にWOWOWプライムで放映予定。
著者の実体験から出発した小説
『百花』の著者・川村元気は、26歳で映画『電車男』を企画・プロデュースしたことを皮切りに、『告白』『悪人』『モテキ』、さらに日本映画の歴代興行収入2位となった『君の名は。』など数々の大ヒットを放ってきた映画プロデューサーだ。
2012年に『世界から猫が消えたなら』で小説家デビュー。彼の小説の特徴は、それぞれテーマがあることだ。第一作目『世界から猫が消えたなら』では命、二作目『億男』ではお金、三作目『四月になれば彼女は』では恋。四作目の『百花』では「記憶」をテーマに選んだが、今までとは成り立ちが違う。
ある時、母方の祖母の認知症が発覚し、久しぶりに会ったら「あなたは誰?」と言われた。ショックだったと同時に強い興味を覚える。
『君の名は。』では互いの名前を忘れてしまう話をファンタジーとして描いたが、それが目の前に現実として現れたのだ。
それを小説家の吉田修一氏に話すと「それなら、認知症の人が見た世界を書くといい」と言われ、書こうと決めた。
それから祖母の元に通い、たくさんの話をした。
誰だかわからない人たちの連絡先、二度ど見返さないであろう写真を沢山スマホに保存している自分に対して、いろんなことを忘れていく祖母の姿が清々しくも見えたという。
一方で、そんな昔のことを覚えているのか、と驚かされることも。
ある時、「海で一緒に釣りをしたよね」と話すと、祖母が「湖だよ」と。確かめてみると本当に湖だった。自分がいかに記憶を改ざんしているかに気づき、そこから記憶を失っていく母親と、思い出していく息子の物語が書けるのではないか、と着眼点を得る。
中でもシングルマザーの家庭に設定したのは、「濃い血縁関係で逃げ場のないものにしたかったから」だという。
多くのシングルマザーとその子供に取材をし、また十か所ほど介護施設を巡りながら認知症の方々にも多く会った。彼らから聞いたひとつひとつのエピソードから得た気づきが、この小説に組み込まれている。
あらすじ
レコード会社に勤務する主人公・泉は社内結婚し、まもなく子どもが生まれようとしていた。そんな折、ピアノ教室を営みながら女手一つで育ててくれた母・百合子が認知症を患う。それまで泉は、過去に母が突然いなくなった「空白の一年」をきっかけに母との心の溝を埋められないまま過ごしていた。
そんな中、百合子が不可解な言葉を発するように。
「半分の花火が見たい…」
認知症が進行し、次第にピアノも弾けなくなっていく百合子。やがて、泉の妻・香織の名前さえ分からなくなってしまう。皮肉にも、百合子が記憶を失うたび、泉は母との思い出を蘇らせていく。そして母との時間を取り戻すかのように、母を支えていこうとする。
ある日、泉は母の部屋で一冊の日記を見つける。そこには、忘れられずにいた「空白の一年」の真相が綴られていた。
一方、百合子は「半分の花火がみたい…」と繰り返しつぶやくように。
「半分の花火」とはなにか?
ふたりが一緒に「半分の花火」を目にし、その謎がとけた時、息子は本当の母の愛を知ることとなる―。
放送局:WOWOWシネマ
放送日:2023年6月17日
放送時間:午後8:00~10:00
制作年/国:2022年/日本
監督:川村元気
出演:菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ、北村有起哉、岡山天音、河合優実、永瀬正敏ほか