【映画×音楽】“メタル”をエンタメへと昇華した映画『デトロイト・メタル・シティ』を語る

音楽の魅力を映画を通して伝えたい――そんな思いで始めた、元レコ屋の店員が音楽関連の映画を好き勝手にレビューしていくコーナー。今回は2008年公開の映画『デトロイト・メタル・シティ』をご紹介。偏見の目で見られがちなヘヴィメタルの世界を、その偏見のまんまエンタメへと昇華した本作。百聞は一見に如かずということで、観たら本当に面白い。しかし筆者のようなメタル好きからすると実際のところはどうなのか…気になる(?)ところも解説する。

ヘヴィメタルへの偏見

この映画、音楽映画連載で語っていいのか問題があるが――というのも、メタル好きな筆者からすると、ヘヴィメタルという音楽ジャンルへの明確な偏見が詰まりまくっている作品だからである・・・! 初めてマンガを読んだときは理解に苦しんだが、映画化まで実現するほどの人気が出てしまうと、メタル好きとしても見て見ぬふりはできないわけで。はい、面倒くさいんです、メタラーってのは。で、ヘヴィメタルへの偏見と書きましたが、(当時の)世間一般的なヘヴィメタルの認識としては非常に的を得ており、なんならこの作品を偏見の目で見ていたのは筆者の方だったという。

前回のコラムでも記載しましたが、HR/HMが日本でブームだった頃って、主に1980年代で、この作品が世に出てきたのは2005年ごろ。そう考えると、筆者も含めた当時の若者からすると、ヘヴィメタルはすでに過去の産物だし、ロックという大枠のジャンルだけで言っても洋楽で言えばOasisをはじめとしたUKロックだったり、邦楽でもBUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDENといった人気のあるバンドが多数出てきていた。もちろんその間にもHR/HMは様々な進化を遂げていき、多数の派生ジャンルが出現していったわけです。その中の一つに今作でもメインで取り扱っている「デスメタル」なるジャンルもあります。

で、やっぱりあまり多くの人に知られない存在になってくると、どうしても目立つトピックだけが独り歩きしてイメージ定着の要素にもなったりするものですが、ヘヴィメタルもまさしくそう。昔、「トリビアの泉」にNapalm Deathが1秒の曲で出演するなど、やっぱりそういう面白さがないと注目されないよねっていう。まあおよそ縁のない人たちからしたら、何だか近寄りがたいし、色眼鏡で見てしまうのも分からなくはない。今でこそBABYMETALが世界で成功して日本でもようやくまともに「メタル」が浸透している感じはあるけど、2000年代の当時はまだそこまでではなかったのかな。

すみません、例によって長くなりましたが、この映画『デトロイト・メタル・シティ』は、そんな偏見の塊を時代相応の感覚で表現しつつ、その中身はしっかり誰もが楽しめるエンタメとして昇華されているので凄いんです。

ポイントは豪華な出演者&本格的な楽曲

というわけでここからようやく本題。『デトロイト・メタル・シティ』ですが、まずは簡単にあらすじをご紹介。

【あらすじ】

若杉公徳の同名人気コミックを実写化した青春音楽コメディ映画。オシャレなポップミュージシャンを目指し上京した心優しき青年、根岸崇一(松山ケンイチ)。だが、無理矢理デスメタルバンドのギター&ボーカルにさせられてしまい…。

いやもうなんと言っても凄いのは松山ケンイチの演技の幅の広さよ。当時は映画『デスノート』のLのイメージが強くて、本当に凄いな、めちゃくちゃ役者だなこの人、って思った記憶があります。心優しき青年の根岸のときは、下北沢の路上でギター片手に「甘い甘~い」なんて歌いながらくねくねして、デトロイト・メタル・シティ(DMC)のフロントマン「ヨハネ・クラウザーII世」様のときは、「SATSUGAIせよー」なんて叫んでる。

そして意外にも豪華なのが出演者だ。ヒロイン的な立ち位置では加藤ローサ、DMCのメンバーに秋山竜次(ロバート)、細田よしひこ、そして凄まじいのが作品内のブラック・メタルの帝王として君臨するジャック・イル・ダーク役にジーン・シモンズ(KISS)が抜擢されていること。ももいろクローバーZとコラボしてたりとか、結構エンタメ関係でも幅広い活躍をしている印象だけど。他にも大倉孝二、高橋一生、加藤諒、宮崎美子、松雪泰子など名だたる役者が出演。それだけでも見る価値は大いにあるくらいだ。

さらにおすすめポイントとしては、DMCの楽曲が「SATSUGAI」をはじめ、普通にカッコいいということ。ここまで本格的に曲作って、実際にシングルとアルバムまで発売してしまうんだから、徹底的にやったなという感じ。ちなみに「SATSUGAI」を手がけたのはOBLIVION DUST/VAMPSのギタリストK.A.Z。

そんなわけで、それこそ偏見で見なかったら損くらいのレベル感で、筆者みたいにヘヴィメタルはこーであーで、みたいにグダグダと余計なことを考えずに楽しめること間違いなし。で、これがきっかけでメタルの世界にも足を踏み入れているのも悪くないのでは?

では、最後に現代のメタルアイコンの一つでもあるBABYMETALをお届けして終わりにしたいと思います。それでは。

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