主演映画『ハウス・オブ・グッチ』でかなり攻めた役柄に挑み、名だたる名優たちにも負けない演技を披露するなど、新境地を開拓し続けるレディー・ガガ。そんな彼女は初主演作『アリー/スター誕生』から才能を発揮していたのだ。
翻訳家・戸田奈津子が『ハウス・オブ・グッチ』のセリフを解説!『戸田奈津子のスターこのひとこと』
映画初主演にしてアカデミー賞ノミネート
歌唱だけではない!と見せつけてくれる
ブラッドリー・クーパーと共演し、映画初主演を務めた『アリー/スター誕生』。
映画への出演は2013年公開のロバート・ロドリゲス監督作『マチェーテ・キルズ』でも経験済みだが、その際はスパイで娼婦という強烈な役柄。
今回の『アリー/スター誕生』では、バーのウエイトレスからスター歌手へと駆け上がっていくアリーを、自然体な芝居で演じた。
レディー・ガガの演技への評価がかなり高く、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、全米映画俳優組合賞の主演女優部門にノミネートされたほか、アカデミー賞の前哨戦と呼ばれる放送映画批評家協会賞と米国映画批評会議賞では主演女優賞を受賞している。
映画初主演にもかかわらずこれだけの賞レースに食い込んでいるのは驚くべきなのだろうが、実際に本作を見てみれば、その評価も確かに納得できるものだと分かる。
特に印象深いのが、ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンに手を引かれて、アリーが初めて素の顔のまま客前で歌うシーン。
最初はジャクソンの誘いを断るも、彼によって半ば強引にコンサートステージに連れ出されたアリー。
しっとりとした歌声を響かせながら、途中で観客から喝さいを浴びたことで徐々に自信をつけていき、その歌声も次第に力強さを増していく。
最後は堂々たるパフォーマンスでジャクソンとのデュエットを成功させ、スターへの一歩を踏み出し始めるという、言わばここから物語が始まっていくともいえるシーンだ。
言うまでもなく、レディー・ガガなので歌がうまいし、歌唱の表現力がある。
その歌唱の表現力があるからこそ、歌っている最中にアリーの中で生じた勇気や前向きな思いが表情にもしっかりと見れて、トップアーティストたるレディー・ガガにしかできない名シーンを作り出すことに成功しているのだ。
なお、本作におけるレディー・ガガは、終始自然体な演技が目立つ。
それだけに、レディー・ガガの顔をした女性が、ガガ本人とは異なるスターダムへの駆け上がり方をしていく姿は、彼女のファンであればあるほど、何だか不思議な感覚になってくるのではないだろうか。
真っ直ぐで自然体な演技の『アリー/スター誕生』と、前へ前へと攻めていく芝居で圧倒してくる『ハウス・オブ・グッチ』、この二つだけで見てみても、レディー・ガガの役幅の広さやその才能に気づかされるだろう。
何といっても楽曲が肝!魂揺さぶる名曲「シャロウ」
レディー・ガガが全米で唯一の女性歌手に
『アリー/スター誕生』は音楽映画であるだけに、何といっても楽曲が肝。
挿入歌の一つで、前述のアリーがジャックにステージに挙げられた際に歌った「シャロウ~『アリー/スター誕生』愛のうた」(以下、「シャロウ」)は、劇中で3箇所使用されているだけに、鑑賞後であれば記憶に残っている人もいるのではないだろうか。
その「シャロウ」は、アカデミー賞歌曲賞とゴールデングローブ賞主題歌賞の受賞に加え、グラミー賞では年間最優秀レコード賞ほか計4部門にノミネートされて内2冠を達成するなど、批評家たちからの評価もかなり高い楽曲となっている。
また、「シャロウ」が収録された『アリー/スター誕生』のサウンドトラック盤は、ブラッドリー・クーパーとレディー・ガガの共同制作となっており、全米だけでなく、イギリスやオーストラリア、アイルランドでも初登場1位を獲得。
これによりレディー・ガガは、2010年代に5つのアルバムで全米1位を獲得した唯一の女性歌手となったのだ。
女優レディー・ガガの演技に感銘を受ける作品でもあるのだが、本来のジャンルとしての凄さも十分に詰まった映画だということが、これらのことからも分かっていただけるのではないだろうか。
そしてレディー・ガガだけではなく、監督・脚本・出演・楽曲制作と、本作でいくつもの役割を果たしているブラッドリー・クーパーの多彩な才能にも驚かされること間違いなしだ。
レディー・ガガというトップアーティストと、ブラッドリー・クーパーというマルチな才能をもった人物にとことんまで魅了される、『アリー/スター誕生』とはそんな素敵な作品なので、ぜひ一度鑑賞してみてほしい。
『アリー/スター誕生』あらすじ
人気歌手に導かれて一人の女性がスターへの道を歩んでいく
カントリーロック歌手のジャクソン・メインは、名を馳せながらも酒におぼれる日々を過ごしていた。
あるコンサートの後、ドラァグ・バーに立ち寄った彼は、そこでパフォーマンスをしていたアリーの歌声に心惹かれる。
音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されていたアリーだったが、ジャクソンによってその才能を見出されて、次の彼のステージに起用されることに。
始めは断るアリーだったが、ジャクソンに半ば強引に連れ出される形で出演。
ジャクソンとアリーのデュエットに感動した観客たちは喝采を送り、アリーは等身大の自分のままで新しい世界に飛び込んでいくのだった。
監督・脚本:ブラッドリー・クーパー
出演:ブラッドリー・クーパー、レディー・ガガ、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイヴ・シャペル、サム・エリオット ほか
日本公開:2018年12月21日
制作国:アメリカ
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