映画『鈴木家の嘘』は 野尻克己監督のデビュー作にして数々の賞を受賞した作品。長女・富美を演じた女優は誰? 注目のキャストと、映画のために書き下ろされたあらすじを紹介する。ネタバレがあるので要注意!
映画『鈴木家の嘘』は原作なしのオリジナル脚本
公開年の映画賞を多数受賞!
映画『鈴木家の嘘』は、長男の死というショッキングな出来事により記憶を失った母と、そんな母のために嘘をついた家族が再生のためにもがく姿を、シリアスながら真面目な(?)コミカルタッチで描いた作品。松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画第6弾として制作された『鈴木家の嘘』は、第31回東京国際映画祭、第40回ヨコハマ映画祭、第23回新藤兼人賞、第73回毎日映画コンクール 脚本賞、第33回高崎映画祭、第92回キネマ旬報ベスト・テン、2018年度全国映連賞で各賞を受賞している。家族の死と、そこからの再生という重厚なテーマを扱いながらも、心に沁み入るハートウォーミングなストーリーに仕立てた、まったく新しい家族映画だ。
注目キャスト:富美を演じた女優は誰?
約400人から選ばれた注目女優・木竜麻生
映画『鈴木家の嘘』では、父・幸男を岸部一徳、母・悠子を原日出子(第33回高崎映画祭 最優秀主演女優賞)、長男・浩一を加瀬亮が演じている。また、海外で事業展開する悠子の弟・博を大森南朋、幸男の気が強い妹・君子を岸本加世子が演じるなど、名俳優たちが脇を固めた。
注目は、鈴木家の長女・富美を演じた新人俳優の木竜麻生だ。約400人が集まったワークショップを経て選ばれた彼女は、無名ながらも兄の死と向き合う妹という難しい役どころに挑戦した。木竜のみどころは物語終盤、大切な人を亡くした人たちによる集会のシーンである。亡くなった兄に対する怒りや悲しみ、やるせなさなどが入り混じった複雑な感情を、長回しのカメラワークのなか見事に演じきった。
木竜は本作での芝居が評価され、同年に公開された映画『菊とギロチン』とあわせて、同年の第31回東京国際映画祭 東京ジェムストーン賞、第40回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞、2018年度全国映連賞 女優賞といった数々の映画受賞している。
木竜麻生(きりゅう・まい) 1994年7月1日新潟県生まれ。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍する注目女優。2018年に公開された映画『鈴木家の嘘』、『菊とギロチン』で注目を浴び、その年の新人賞、女優賞を多数受賞した。2022年には加藤拓也監督の『わたし達はおとな』、瀬々敬久監督の『とんび』の公開が控えている。
映画『鈴木家の嘘』あらすじ【ネタバレ】
息子が亡くなり、母は倒れて病院へ
鈴木家の長男で引きこもりだった浩一がある日突然、自室で首をつってこの世を去ってしまった。昼食の用意が済んだ母・悠子は、浩一と食事をしようと部屋を訪ね、亡くなった浩一を発見する。パニックになりながらも、悠子はキッチンから包丁を持ってきて浩一を救おうとするが、自分の手首を傷つけて意識を失ってしまう。そして、帰宅した娘の富美が亡き兄とそばで倒れている母を発見し、母は病院へ運ばれたのだった。
記憶を失った母に長男は生きていると嘘をつく!?
浩一の四十九日の日に、父・幸男と富美は、名古屋で冠婚葬祭会社を経営する幸男の妹・君子、アルゼンチンで事業を始めたばかりの悠子の弟・博とともに、意識を失ったままの悠子の今後について話し合っていた。そんななか、悠子が病室で意識を取り戻す。慌てて駆けつけた4人の姿を見て、悠子はこう尋ねるのだった。
「浩一は?」思わず目を見合わせてしまう4人。そこで富美はとっさに「お兄ちゃんは引きこもりをやめてアルゼンチンに行ったの。おじさんの仕事を手伝うために」と嘘をつき、幸男、君子、博も富美の嘘に話を合わせるのだった。
協力して嘘を貫き通そうとするが…
ずっと引きこもりだった浩一が自分の入院費を稼ぐために、博の仕事を手伝い始めたと思い込んだ悠子は、元気を取り戻していく。富美たちは母についた嘘を貫き通すため、あたかも浩一がアルゼンチンで生きているように見せようと、さまざまな嘘をつくりあげるのだった。
富美は浩一になりすまして悠子宛てに手紙を書いたり、アルゼンチンの友人からのビデオレターを偽造したり。幸男もアルゼンチンからの贈り物として、家族おそろいのTシャツ(絵柄はチェ・ゲバラ)を購入した。博は悠子が浩一のためにつくった特製オムレツや仕送りの品をアルゼンチンへ送り届けたフリをしたり、アルゼンチンに住む友人・北別府に頼んで、富美が浩一になりすまして書いた手紙を絵葉書に清書してもらい、現地の消印をつけて悠子の元へ送ってもらったりしていた。
嘘を守るため家族の団結力が強くなっていったが、なぜ浩一は自ら命を絶ったのか、それは誰にもわからないでいた。そして、各々がその問題と向き合うなかで、次第に葛藤が生まれていくのであった。
保険金の受取人は富美と謎の女・イヴ
ある日浩一の部屋を整理していた幸男は、生前に浩一が生命保険に加入していたことを知る。そして、保険金1,000万円の受取人は富美になっていた。これは浩一と富美が喧嘩をしていたため、謝罪の意を込めて富美に1,000万円が渡るようにしたようだった。そのそしてもう一人、イヴという謎の女も受取人だった。幸男はイヴに会うため、彼女が働いているであろう「男爵」というソープランドに足繫く通った。しかし、「イヴに会いたい」と言い続ける幸男は不審者扱いされてしまい、しまいには警察まで呼ばれてしまう。結局イヴに会うことはできないのであった…。
ついに嘘がバレた…そのとき母は?
博がアルゼンチンの女性と結婚することになり、鈴木家でお手製の結婚式が開かれた。悠子は浩一が働けるようにしてくれた博に感謝のスピーチをしていると、それを撮影していた富美は、とうとう感情をおさえられずに、浩一はアルゼンチンで働いていないことを大勢の前で悠子に告白したのだった。そして、浩一が亡くなった事実を知った悠子。後日、事件当日のことを思い出した悠子は、自分の行いのせいで浩一が亡くなったと自責の念に駆られてしまう。一方富美は、引きこもりの浩一に対して「生きてる意味ないなら死ねば?」と言ってしまったことを後悔し、 富美は川に入って命を絶とうとしたところを悠子に止められるのだった。
まさかのイタコ登場、そしてイヴの正体とは…?
疲弊する家族を見かねたのであろう幸男は、なんとイタコを自宅に招いた。なぜ浩一が自害したのか、その真相を明らかにするべく、イタコ(=浩一)と家族で話をすることを思いついたのだ。
やって来たイタコは浩一を自らに宿し会話を始める。しかし、内容ははっきりしないもので、富美の「わたしは誰かわかる?」は完全スルー、幸男の「イヴちゃんのこと覚えてるか?」という質問に「…犬?」と答える始末(みんな真剣な表情をしているので面白い)。
イタコが帰った後、悠子は幸男に対して「あの霊媒師イカサマね。」と言って笑いだし、家族に和やかな空気が流れたのだった。
ある日、幸男の元に1本の電話がかかってくる。ソープランドの男爵からだった。どうやらイヴについての内容だったようだ。後日、幸男は「3人で押しかけたらイヴちゃん迷惑かな?」と言って家族で車に乗り、出発するのだった。
オリジナル脚本は監督の経験がヒントに
新鋭・野尻克己監督のデビュー作
メガホンを取るのは、本作が劇場映画初監督作となる野尻克己監督。橋口亮輔、石井裕也、大森立嗣など、名だたる監督の映画で助監督を務めた野尻監督が、原作ものではなく自身の経験をもとにオリジナルの脚本を手掛けた。野尻監督は本作で新藤兼人賞・金賞、ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞、高崎映画祭新進監督グランプリ、毎日映画コンクール脚本賞などを受賞したほか、本作はキネマ旬報ベスト・テン第6位に選ばれている。
鈴木家が浩一の死を乗り越えて穏やかさを取り戻し、より強い絆で結ばれるというハートウォーミングな物語だったが、最後まで「イヴ」の正体はわからないままだった。まさか本当に犬…なんてことはないだろうが(笑)、観る人の想像にお任せといったところだろうか。
<作品情報>
公開:2018年11月16日
監督・脚本:野尻克己
出演:岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋、吉本菜穂子、宇野祥平、山岸門人、川面千晶、島田桃依、金子岳憲、政岡泰志 ほか
配給:松竹ブロードキャスティング/ビターズ・エンド
上映時間:133分