音楽の魅力を映画を通して伝えたい――そんな思いで始めた、音楽コラムコーナー。今回は、2023年1⽉13⽇(⾦)に公開を控えている映画『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』をご紹介。映画音楽の巨匠・エンニオ・モリコーネの仕事術の秘密が明かされる本作。その半生は決して成功だけではなかった――。
マエストロが遺した永遠のメロディ
2020年7⽉、享年91歳で亡くなったエンニオ・モリコーネ。彼の遺した偉大なる作品は、多くの人の心に残り続けている――。
彼は、500作品以上の映画とTVの⾳楽を⼿掛け、アカデミー賞®には6度ノミネートされ、『ヘイトフル・エイト』(15)で遂に受賞。全功績を称える名誉賞にも輝いた。そんな伝説のマエストロに、弟⼦であり友でもあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が密着。結果的に⽣前の姿を捉える最後の作品となってしまった⾳楽ドキュメンタリー映画が『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』である。
スクリーンの中では、モリコーネ自らが自身の半生を回想、かつては映画音楽の芸術的地位が低かったため、幾度もこの仕事をやめようとしたという衝撃の事実を告白する。クラシック音楽の道へ進まなかった葛藤と向き合いながら、いかにして音楽家としての誇りを手にするに至ったかが、数多の懐かしい傑作の名場面と、ワールドコンサートツアーの心揺さぶる演奏と共に紐解かれていく。さらに、名前を見ただけで息をのむ70人以上の著名人のインタビューによって、モリコーネの仕事術の秘密が明かされる。生まれ持った才能と閃き、貧しかったために働きながら通った音楽院での地道な努力、新しいムーブメントを取り入れる柔軟なセンス、信念に反することは断固拒否するプライドについてのエピソードによって、モリコーネの人生そのものが偉業であったことが証明されていく。
同時に、初公開となるプライベートな映像が、奇才のチャーミングな人間性と妻への美しい愛を浮き彫りにする。「ジュゼッペ以外はダメだ」と、モリコーネ自身が本作の監督に指名したトルナトーレの前だからこそ、最後に口にした芸術の深淵を見た者の言葉とは──。
今も、そしてこれからも、モリコーネのメロディを聴くだけで、あの日、あの映画に胸が高鳴り涙した瞬間が蘇る。同じ時代を生きた私たちの人生を豊かに彩ってくれたマエストロに感謝を捧げる、愛と幸福に満ちた音楽ドキュメンタリーだ。
公開された予告映像は以下より。
この予告映像では、「彼の⾳楽は⾰新的」「現代のベートーヴェンだ」―タランティーノ、イーストウッドら名だたる監督や俳優たちがモリコーネへの惜しみない賛辞を述べるシーンから始まる。ペンと五線譜のみで作曲する天才⾳楽家であり、世界中の映画⼈から認められ、映画⾳楽の巨匠として知られるモリコーネ。しかし、モリコーネ⾃⾝は「最初、映画⾳楽を作るのは屈辱だった」こと、「私の師は“映画⾳楽”をバカにしてた」と、映画⾳楽の芸術的価値が低かった当時の苦しい胸の内を正直に明かす。その後、彼が⼿がけたテーマ曲は⼤ヒットする。
モリコーネが世界的に脚光を浴びるきっかけになった『荒野の⽤⼼棒』(64)のイメージとして、レオーネ監督から⿊澤明監督『⽤⼼棒』を⾒せてもらった時のこと、「逃して悔やむのはこの作品だけ」と未だ残念がるキューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』(71)とのすれ違い、『アンタッチャブル』(87)で3度⽬のアカデミー賞にノミネーションされたにも関わらず、『ラストエンペラー』(87)の坂本⿓⼀らに敗れ、意気消沈する様⼦など“天才”と呼ばれた彼の⼈間味溢れた姿が『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)をはじめ、彼が⾳で命を吹き込んだ傑作の名場⾯と最⾼の⾳響環境で再現された⽇本公演を含むワールドコンサートツアーの演奏の模様とともに映し出される。
「妻に⾔った『映画をやめる』と」「でもやめられない、映画⾳楽のリベンジだ」―『アンタッチャブル』(87)のメインタイトルである“正義の⼒“、『ミッション』(86)より“ガブリエルのオーボエ“、『続・⼣陽のガンマン』(66)からは“ジ・エクスタシー・オブ・ゴールド“、そして『ウエスタン』(69)の“ウエスタン“や『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)のメインタイトル、“トトとアルフレッド“ら、本映像全編に渡って流れる珠⽟の映画⾳楽の数々も眩い、波乱万丈ながらも映画⾳楽への尽きせぬ愛を語る彼の⾔葉も印象的な予告である。
映画と音楽の深い関係性
まず驚くのは、映画音楽の芸術的地位が当時はまだ低かったという事実だ。映画に音楽は必要不可欠なものであり、それによって映画の良し悪しが大きく左右されると言っても過言ではないほど重要性の高いものである。筆者はそう思い続けてきたので、エンニオ・モリコーネの遺した数々の名作などがあったからこその映画音楽であったのかと改めてその功績の偉大さを目の当たりにした。
モリコーネが関わった映画を観たことがないという方も、まずはその楽曲から触れてみるのも悪くはないかもしれない。というわけで、モリコーネのベストをお聴きください。
このコラムでは今まで音楽をテーマにした映画を取り上げてきたが、やっぱり映画は音楽と切っても切れない関係で、たとえ音楽がテーマでなかったとしても、音楽がその映画に残す印象は計り知れない。感動のシーンも、ドキドキハラハラするシーンも、始まりのイントロからエンドロールまで、映画の全編を通して音で感情を揺さぶる。もちろん主題歌も重要ではあるが、それはどちらかという広告塔の役割の方が大きい。やはり映画に完全に寄り添うのは映画音楽ということなのかなと。あくまで自論です。
というわけで、映画音楽とモリコーネを語るには正直修業が足りないので、筆者の好きなモリコーネのラブ・ミュージック・コレクションを最後にお届けして終わります。それでは。
【映画×音楽】連載の過去記事はこちら
2023年1⽉13⽇(⾦)
TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ
ほか全国順次ロードショー
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』
原題:Ennio/157分/イタリア/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松浦美奈 字幕監修:前島秀国
出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノほか
公式HP:https://gaga.ne.jp/ennio/
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