戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『ポップスター』
ポップスター

近日公開 ※新型コロナウイルスによる影響のため、公開が延期になる場合があります
配給:ギャガ
【STORY】クラスメイトによる銃乱射事件で死の淵から生還したセレステ。姉のエレノアと作った追悼曲が大ヒットし、一躍スターダムへ。それから18年が経ち…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 『ジュディ』を始め『ボヘミアン』や『ロケットマン』のように、このところ実在のパフォーマーを主人公にした作品が多いようです。今回ピックアップした『ポップスター』も、かつて一世を風靡した女性シンガーを主人公に、スターダムから転落した彼女のその後にスポットを当てて描く物語。まぁ、よくあるお話ではありますが、実在のジュディー・ガーランドを描いた『ジュディ』とは違い、架空のキャラクターを主人公にしているだけに、縛りがなく物語は斬新に展開していきます。今作の本当の意図は、波乱の人生を送るポップスターの姿を通して、彼女の生きている世の中の変遷を浮き彫りにすること。多発する銃乱射事件、SNSなど通信ツールの発達による情報拡散の危険性など…。ある種、社会派の色合いが強い作品とも言えます。

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 それを踏まえて観ると、面白いことに気がつきます。主人公セレステと姉のエレノア、そしてセレステの娘アルビー以外の登場人物には個別の名前がないこと。マネージャーもパブリシストも、そのまま。これは、その職業名で呼ばれる不特定の人々の典型的な要素を反映してキャラクターを作っているからでしょう。
 そんなスタッフの一人、PR担当の女性がセレステにライブの仕事を薦めるセリフ。

Live experience is a great way to get your feet wet.

ライブの経験は“足を濡らす=新しいことを試みる”最高の方法よ。

 <Get one’s (my, your, his, her, their)feet wet>は、直訳すれば「足を濡らす」ですが、「新しいことを試みる」「新しい経験を試す」「新しいことを始める」という意味。泳ぐのを怖がる子供に、「まずは足だけ、ちょっと水につけてみれば」というアドバイスをイメージすると、語源の意味がわかりやすいかも。
 また、昔より拡大した意味で最近よく使われているのが<solo>。娘のアルビーをランチに誘ったセレステが、隣にいる姉のエレノアに言うセリフ。

Can I take Alby for a solo girl’s lunch?

アルビーと女だけのランチに行ってもいい?

 <solo>はこれまで、ソロ・パフォーマンスのように「ソロ演技」「ソロ演奏」「ソロ・ホームラン」など「単独」や「ひとり」として、主にパフォーマンス関係で使うイメージがあり、会話で「ひとり」という時は「alone」や「by myself」が通常でした。マコーレ・カルキンの有名なクリスマス映画も『Home Alone(ひとりでお留守番)』とか。ところが、最近は上記のセリフのように、日常的に<solo>がひんぱんに使われます。例えば、「You can join our dinner, solo.(私たちのディナーに来てもいいわよ。でもひとりでね)。また「I plan to spend the vacation solo.(休暇はひとりで過ごすつもり)。言葉は生き物ですから、使い方も変わってくるのです。

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 さて、映画のラストにはレディー・ガガのような華麗なパフォーマンスを披露するヒロインを演じたのはナタリー・ポートマン。鮮烈な映画デビューを果たした『レオン』(’94年)を携えて初来日した時は、まだ14歳。映画雑誌の企画で着物を着た可愛い姿を思い出します。あの時は『ブラック・スワン』(’10年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞して大物女優の仲間入りをするとは思いもよりませんでした。とはいえ、『Vフォー・ヴェンデッタ』(’06年)を携えての2度目の来日では、知性と強い信念を持った女性であることはわかりました。そう、名門ハーバード大学を卒業した24歳の彼女の言葉の端々から、いかに深くものを考えて、いかに多くの本を読んで勉強しているかが伝わってきたのです。それにスター扱いをされることも「なんか、自分が“物”になったみたいで、大嫌い」という気さくさもあって、とても感心したのを覚えています。やはり、大スターになる人は、違いますねぇ。

『ポップスター』Motion Picture ©2018 Vox Lux Film Holdings, LLC. All Rights Reserved

ナタリー・ポートマンが「スター・ウォーズ」シリーズの美しくも強いヒロインの一人を好演

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』より

 不滅のSFシリーズ最終章。ナタリー・ポートマン演じるアミダラ姫と禁断の恋に落ちたジェダイの騎士アナキン。彼はその心に闇を抱いたことから、ダース・ベイダーへと変貌していく。セリフは、映画のオープニングに。

This is where the fun begins.

さあ、お楽しみはこれからだ
Point

いざ、空中戦開始の時にアナキンが言うセリフは、みなさんがすぐに使える言い回し。「ここからが苦しいんだよね」なら、「This is where the torture begins」とひと言換えるだけでOKです。


(情報は記事公開時点の内容です)

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