古着屋、古本屋、カフェ、ライブハウス……さまざまな個性と文化が集まる下北沢の街を舞台にフクザツ?な人間模様が展開する『街の上で』を紹介します。監督は『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉。NHKの朝ドラ『おちょやん』(2020〜21年)での好演が話題となった若葉竜也ら、絶賛ブレイク中の若手キャストが偶然にも集結している必見作です。
実はスリルと驚きがいっぱいの日常
小さな失恋の連続が運ぶ物語
映画はいきなり、古着屋で働く主人公・荒川(若葉竜也)と恋人・雪(穂志もえか)の別れ話から始まります。
一方的に別れを告げてきた恋人への想いを断ち切れずにモヤモヤと生きる荒川。
そして彼の生活圏である下北沢に出入りする魅力的なヒロインたちとの日常を、落ち着いたテンポで描いていきます。
これは恋なのか、恋じゃないのか?
恋人と別れたばかりで、かつそれまでの恋愛経験に乏しい主人公は、なにかと新しい出会いに対して淡い期待を抱きがち。
たいていは期待だけで終わってしまう小さな失恋ですが、「この人のこと、好きかも?」と思うか、思わないかの微妙で繊細な感情の動きを、映画をじっくり観ながら読み取っていく。
そんな楽しみ方のできる作品です。
もらい事故ばかりの主人公
面白いのは主人公のキャラクターで、なにも悪くないのに理不尽な非難を受けたり、ややこしい人間関係に巻き込まれたりと、「もらい事故」で損な役回りが次々と降りかってきます。
他人事なのでクスクスと笑って観ていられますが、ひとつひとつの小さな出来事がやがて大きな事件につながったりもする。
実は日々の日常にはスリルと驚きがたくさんあるんじゃないか?
ちょっと迂闊で隙のある主人公の姿を見ていると、そんな視点で自分の身の回りを振り返ってみたくもなります。
注目の若手キャストが偶然集結
『おちょやん』でも共演の成田凌と若葉竜也
おそらく本作の撮影中(2019年)の時点でもっとも世間的に知名度が高かったのは、現在ドラマ『逃亡医F』(2022年)で主演を務めている成田凌。
本作での成田は「NHKの朝ドラに出演してちょっとブレイクした若手俳優」という役柄で、本作の直前に『わろてんか』(2017〜18年)に出演していた彼がこの役を演じることで、作品に不思議なリアリティが生まれています。
本作が撮影されてから公開されるまでの間に、主人公を演じる若葉竜也も『おちょやん』でヒロインの初恋相手を演じて知名度を大きく高めました。
さらに成田凌とは、『くれなずめ』(2021年)、そして同じ今泉監督の『愛がなんだ』と2人の共演作が続いています。
4人のヒロインは人気急上昇中
冒頭で主人公と別れる雪役の穂志もえかは、大きな話題になったドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)に出演。
2022年には、かつて三船敏郎が出演した海外ドラマ『将軍 SHOGUN』のリメイク版に真田広之、浅野忠信らとともに出演が決まっています。
古本屋店員・冬子役の古川琴音は、ドラマ『コントが始まる』(2020年)で有村架純の妹役に大抜擢。
『ドライブ・マイ・カー』(2021年)で世界的に注目されている濱口竜介監督の短編オムニバス『偶然と想像』(2021年)の1エピソードで、主演もしています。
学生の映画監督・町子役の萩原みのりは、深夜ドラマ『RISKY』(2021年)で主演。
2022年は主演のホラー映画『N号棟』の公開も控えています。
特筆すべきはこの3人は菅田将暉と有村架純が共演した2021年の話題作『花束みたいな恋をした』に出演していることで、それぞれ大きな存在感を放っています。
映画のスタッフ・イハ役の中田青渚(せいな)は、本作に引き続き今泉監督の『あの頃。』に出演し、松本穂香と共演した『君が世界のはじまり』(2020年)など、順調にキャリアを重ねています。
本作では主人公と知り合ったその日の夜にすぐ打ち解ける重要な役どころを演じ、約17分間、ほぼカットなしで延々と繰り広げられる恋バナシーンは本作のクライマックスのひとつ。
他人の身の上話を延々と聞かされるなんて退屈だと思う方もいるでしょうが、演技を感じさせないキャストの自然なやりとりもあって、なぜだか飽きずにずっと見ていたくなる名場面になっています。
映画『街の上で』作品情報
監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉、大橋裕之
出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演)ほか
製作年:2019年
制作国:日本
上映時間:130分
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