ドラマや映画だけでなく、東京2020オリンピック関連のCM出演など幅広い活躍を続ける綾瀬はるか。そんな彼女の魅力が全開となったファンタジー映画『今夜、ロマンス劇場で』を紹介します。名優・加藤剛の遺作となってしまっただけでなく、2022年には宝塚歌劇団月組によって舞台版が上演されるなど、2018年の公開後も話題の絶えない作品となっています。
舞台は昭和35年ーー日本映画の黄金時代
活気がみなぎる昭和の映画館と撮影所
1964年の東京オリンピック開催を4年後に控えたこの頃の日本は、高度経済成長の真っ只中。
1958年には全国の観客動員数が11億3000万人を記録し、映画人気はそのピークを迎えていました。
次から次へと大量の映画が作られ、そしてすぐに忘れられていく時代でした。
「京映撮影所」で助監督として働く牧野(坂口健太郎)は、行きつけの映画館である「ロマンス劇場」の支配人(柄本明)に頼み、真夜中のスクリーンを貸切にして忘れられた過去の映画を上映するのが趣味。
そこで彼は、運命の人と出逢います。その人の名前は美雪(綾瀬はるか)。
お粗末なB級映画『お転婆姫と三獣士』の中でひとり気を吐く、お転婆なヒロインでした。
運命の人は映画のフィルムの中。牧野は客席から彼女を見つめることしかできません。
しかしある夜、何度も何度も同じ映画を見続けた彼の目の前で、とうとう奇跡が起こります。
突然の落雷とともに、スクリーンから美雪が飛び出してきたのです。
それも、モノクロ映画に映るその姿のままで…。
モノクロのヒロインが現実世界に飛び出すと…?
…と、そこは現代の病院。
年老いた牧野(加藤剛)がひとり寂しくベッドに座っています。
今ではもう、誰も昔の映画のことなど知っている人はいません。
仕事をサボりに来た看護師(石橋杏奈)を相手に彼は、撮影所に勤めていた頃に体験した奇跡を語り始めるのでした。
『今夜、ロマンス劇場で』は良き時代の映画業界を振り返りながら、夢見る見習い助監督と映画の世界からやってきたヒロインの恋を描きます。
ヒロイン・美雪は姿だけがモノクロのまま。
言葉で説明してもうまく伝えることができませんが、これが本作のファンタジー感を演出するのに大きな効果を出しています。
本作のちょうど20年前に制作されたハリウッドのファンタジー映画『カラー・オブ・ハート』(1998年)では、モノクロの画面の中にカラーの人物を配置することで世界が色づいていくのを表現していましたが、本作はその逆のパターン。
彼女がこの世界の人間でないことがバレてしまわないように牧野は一計を案じるのですが、その結果は実際に映画でご確認ください。
ヒントは「透明人間」です。
ヒロイン・綾瀬はるかの魅力とは?
さて、どうにか危機を脱したヒロインは、いかにも昭和の映画スターらしい華やかなファッションでのびのびと撮影所を歩きながら、次々と騒動を起こしていきます。
まったく無意識の行動でたちまち撮影所を混乱に陥れてしまう美雪。
保護者のような立場になってしまった牧野にとってはいい迷惑です。
それでも彼女に対して嫌な感情がまったく湧いてこないのは、『ザ・マジックアワー』『ハッピーフライト』(ともに2018年)などの作品で見せた、綾瀬はるかのコメディエンヌとしての魅力があればこそ。
そして今回はそれに加えて、『海街diary』(2015年)でも見られた彼女の古風な佇まいも存分に活かされています。
どんな格好もピッタリ。昭和に作られた日本映画の名作の中にいても違和感のないその姿は、「もしこの人が昭和の時代に生きていたら、どんな映画に出ただろう?」と夢想させてくれます。
主人公の現在の姿を演じる加藤剛が魅せた名場面
『砂の器』の名優がこの映画に与えてくれる説得力
主人公・牧野の晩年を演じるのは加藤剛(かとう・ごう)。
劇団・俳優座出身で代表作は松本清張原作のサスペンス大作『砂の器』(1974年)。
のちのリメイク版では中居正広、佐々木蔵之介、中島健人が演じた疑惑のピアニストの役でした。約30年に渡って主役を演じた時代劇ドラマ『大岡越前』でも有名です。
自らに残された時間を意識しながらしみじみと思い出を語るその姿の説得力は、実際に昭和のTVドラマ、日本映画で好演してきたキャリアがあってこそ。
本作の公開から4ヶ月後に亡くなり、これが遺作となってしまったことが結果的に役と重なり、往年の作品を知っている人ほど深い感慨を覚えてることでしょう。
本作で描かれた昭和の映画館、撮影所の再現度については昭和の日本映画をたくさん観ている人ほど厳しい意見を持つかもしれませんが、「映画の中のヒロインとの恋愛は果たして成就できるのか?」という非現実的なテーマに、本作の終盤で主人公が出した答えはちょっとした見どころです。
ぜひ最後までご覧ください。
映画『今夜、ロマンス劇場で』作品情報
監督:武内英樹
出演:綾瀬はるか、坂口健太郎、本田翼、北村一輝、中尾明慶、石橋杏奈、柄本明、加藤剛 ほか
制作国:日本
上映時間:108分
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