■公開表記:5月12日(金)、 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
【STORY】
リディア・ターに叶わぬ夢などなかった。アメリカの5大オーケストラで指揮者を務め、その後ベルリン・フィルの首席指揮者に就任。さらに作曲者としての才能も発揮し、エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞のすべてを制するほどだ。しかしある日、財団のプログラムでターが指導した、クリスタという若手指揮者が自殺してしまい…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
4回目のゴールデン・グローブ賞主演・助演女優賞に輝いたケイト・ブランシェットの熱演に終始圧倒される『TAR/ター』は、天才指揮者に仕掛けられた陰謀を描くサイコスリラー。
となれば、クラシック音楽界の知識が必要なのは当然ですが、それは巧みな脚本によってなんとかクリア。
そしてもうひとつのポイントは、この映画が、今風の“キャンセル・カルチャー(Cancel Culture)”がテーマであること。<SNS時代>と称される現代には、この手の新語が続々と誕生していますから、追いかけるのが大変。“キャンセル・カルチャー(Cancel Culture)”も、その新語のひとつなのです。
まず、“SNS”ですが、外国人に「SNS」と言っても通じないので、ご注意を! これは<Social Networking Service>の頭文字を並べた「日本語」で、外国の一般的な表現は“Social Media(ソーシャルメディア)”。これからの英会話には絶対に必要な知識です。
さて、前出の“Cancel Culture(取り消された文化)”とは何のことか? それは、「過去に文化とされてきたものが、(SNSなどの外部の圧力で)存在を消されてしまうこと」。もっと詳しく言えば「S N S上で、過去に社会的に不適切な発言や行動などをした著名人を糾弾し、社会から排除しようとすること」。
映画界で例をあげるならば、『アメリカン・ビューティ』(’99年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した名優ケビン・スペイシーが、過去のセクハラ・スキャンダルで映画界から抹殺されてしまった事実があります。いろいろな事情はあるでしょうが、やはり映画界にとっては大きな損失! 私などは、惜しんでも惜しみきれません。
そして『TAR/ター』でも、名だたるベルリン・フィルの首席指揮者にまで上りつめた才能豊かな女性ターが、ケビン・スペイシーと同様に、最後には“Cancel Culture”されてしまうというストーリー。
ことの始まりは、かつてターが指導した若手指揮者の自殺によってS N Sで悪い噂が飛び交い、ある疑惑をかけられたことから。ピックアップするフレーズは、音楽家を目指す生徒に講義をしているシーンで…。
生徒:I am not into Bach.
僕は、バッハが好きではありません。
ター:You’re not into Bach? You’re into Beethoven?
バッハは好きじゃない。好きなのはベートーベン?
<be 動詞+into〜>は「〜が好き」「〜にハマっている」の意味。例えば、「I’m into space adventures. Not so much love stories.(僕が好きなのはスペース・アドベンチャー。恋愛ものはそれほどでもないなぁ。)」といった使い方になります。
じつは、本作で脚本も担当したトッド・フィールド監督とは28年前に、『カットスロート・アイランド』(’95年)を携えて来日したマシュー・モディーンの友人としてお会いしたことがあります。二人は『フルメタル・ジャケット』(’87年)の撮影で知り合って以来のお付き合いだそうで、ともに穏やかな好青年。その時は、お仕事終了後に修善寺の高級旅館『あさば』に宿泊したのですが、素晴らしい庭園や能楽堂にいたく感動しておりました。そういえば、マシューが「トッドが作った短編は面白いんだ。きっといい監督になるよ」と言ったことを思い出しました。まさかあんなに寡黙で物静かな青年が、こんな素晴らしい作品を創るなんて……。おみそれしました!
▽1作目でゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞したケイト・ブランシェットが再び“エリザベス”を好演
『エリザベス:ゴールデン・エイジ』より
政情不安な状況下で、悩みながらも国の平和とその民に身を捧げたエリザベス女王。そんな彼女がある時「私は、支配することに疲れた」とため息。それを聞いた家臣の答えが…。
You eat and drink control.
あなたは支配を生き甲斐にされている方なのに。
<You eat and drink control.>を直訳すれば、「あなたは支配を食べて飲んでいる。」ということですが、「eat and drink=食べて、飲む」は人間にとって生き甲斐のようなもの。それくらいに好きだということです。
(情報は記事公開時点の内容です)