戸田奈津子のスターこのひとこと:『ナイトメア・アリー』
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ナイトメア・アリー

■3月25日(金)より全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

【STORY】「世界最大のカーニバルへようこそ」そんな呼び込みに誘われてテントに入ったのはスタントン・カーライル。“ショー”に衝撃を受けたスタントンだったが、とある相談が舞い込み…。

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【プレゼント情報あり】アカデミー賞4部門ノミネート!話題作『ナイトメア・アリー』公開迫る

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 さすがギレルモ・デル・トロ監督だけに、『ナイトメア・アリー』は観客をどう楽しませるかを心得た高点数作品。極上のプロットに最後までハラハラ・ドキドキさせられる映画は、やっぱり楽しい。ちなみに、原作はウィリアム・リンゼイ・グレシャムのノワール小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』。1947年に『悪魔の往く町』の邦題がつけられタイロン・パワー主演で映画化されていました。ここで注目したいのはタイトル。今回の邦題のように単に『ナイトメア・アリー』では、“アリー”は女性の名前で、「アリーの悪夢?」と誤解されそう。とくに、主人公を演じているブラッドリー・クーパーが、『アリー/ スター誕生』(’18年)で監督・主演を務めていたのでそそっかしい人は、あの映画のパート2かと思ってしまうかも!?  原題の「nightmare(悪夢) alley(路地)」は「悪夢にでてくるような薄汚い路地」のこと。このフレーズが登場するのは、主人公スタントンがサーカスの見世物「獣人」をどこで探すのかと尋ねた時のカーニバル・マネージャーの答え。

ボス:Nightmare alleys, train trails, flop houses, you name it.

薄汚い路地、線路脇、安宿、そのたぐいの所さ。

 <you name it>は「思いつくこと何でも」。たとえば、ショッピングをしていて店員に「Do you have T shirts?(Tシャツはある?)」と聞いた時の店員の答え「You name it. We have all kinds.(何でも言って。あらゆる種類があるから。)」というように使います。物語の舞台は移動サーカス。アメリカでは「カーニバル」と呼ばれ、とっくに廃れていたかと思ったら、いまでも小さな町をめぐってきます。私も数年前、ニューヨーク郊外にあるリチャード・ギアのお宅に滞在させていただいた時にカーニバルが来ていて、リチャードご一家と遊びに行きました。かなり小規模なワビしいものでしたが回転木馬や射的があって、子供たちはそれなりに楽しんでいました。まぁ、“リチャード・ギア付き”ですから、何よりゴージャスなカーニバルとも言えますけどね(笑)。
 秘密を抱えてカーニバルに流れ着いたスタントンは、持ち前のルックスと口のうまさでカーニバルのマネージャーから仕事をもらい、徐々に仲間として認められるように。フレーズは、電流ショーで人気の娘モリーを好きになったスタントンの口説き文句。

スタントン:I want to give you the world and everything in it.

君に全世界をあげたい。そこにあるもの全部をね。

 ちょっとオーバーだと思うでしょう? でもあちらでは、これくらいは当たり前。テレることなく口にします。
 もうひとつ、仕事がなく自分もサーカス芸人になってしまったスタントンが、モリーを自分のショーの助手にしようと指導をするシーンに覚えておきたいフレーズが。

スタントン:You gotta(=must) do it with drama and you’re going to save the day.

芝居気たっぷりにやるんだ。大成功するから。

 <save the day>の直訳は「その日を救う」。それが転じて「窮地を救う」「土壇場で成功する」。使い方は、「He saved the day with his wit.(彼の機転が窮地を救った。)」「彼の機転のおかげで助かったよ」などですね。人を惹きつける才能とカリスマ性を持つスタントンを演じるのはブラッドリー・クーパー。共同脚本・主演をつとめた『アリー/ スター誕生』(’18年)で監督デビューを果たした才人で、オスカー候補の常連。作品賞を含む4部門にノミネートされた本作では、主演男優賞候補から惜しくも外れましたが、近い将来、彼がオスカー像を手にするのは確実。才能があって、甘くて渋い。私の好みのタイプ(笑)です。最近の中堅、40代前後の俳優の中では、ピカイチかなあ。

▽アカデミー賞作品・監督・作曲・美術賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督作

『シェイプ・オブ・ウォーター』より

幼い頃のトラウマで言葉を失った女性イライザと不思議な水棲動物“彼”との恋物語。顔見知りの映画館の館主がイライザにチケットをくれるシーンでの売り文句。

I’ll throw in a free popcorn and soda!

タダのポップコーンとソーダも、おまけだ!
Point

<soda(ソーダ)>は、日本では炭酸系をイメージしますが、アメリカではコーヒーや紅茶以外のソフトドリンク類はジュースも<soda>と呼ぶことが多いので、ご記憶を。<throw in>は、「投げ込む」「加える」が転じて「おまけにつける」に。どちらも覚えておけば、戸惑うことがありませんね。

(情報は記事公開時点の内容です)

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