戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『007 /ノー・タイム・トゥ・ダイ』
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007 /ノー・タイム・トゥ・ダイ

■10月1日(金)より公開中
配給:東宝東和

【STORY】00エージェントを退いたボンドは、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友が助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 

 半世紀を超えて絶大な人気を誇る「ジェームズ・ボンド」シリーズ。私は、13作目『007/オクトパシー』(1983年)から25作目となる最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』までの計12作の字幕を担当させていただきました。思えば、それぞれの時代を反映しつつ、脈々と受け継がれる“ボンドのお約束”も散りばめて、ファンを魅了し続けていることに敬意を評します。最新作はダニエル・クレイグが演じる最後のボンド。5作目ともなれば渋みも増して、やはりかっこいい!
 毎回、名前を聞かれて答えるボンドの定番セリフは「Bond. JamesBond.」ですが、彼が毎回、バーで注文する定番のドリンクは。

ボンド: A vodka martini, shaken, not stirred.

ウォッカ・マティーニ。ステアでなく、シェイクして。

 シェイク(shake)はシェイカーでガシャガシャ振ることですが、ステア(stir)は容器に入れたカクテルの材料を、マドラーで何回か掻き回すだけ。ボンドの超・こだわりの1杯です。
 今回は、引退生活を送っていたボンドが、旧友のたっての頼みで危険な任務に立ち向かう展開。前作『007/スペクター』(2015年)で、恋におちたマドレーヌが再登場。ボンドが彼女に何回も言うセリフは。

ボンド: We have all the time in the world.

僕らには、いくらでも時間がある。

 日本人も「世界一」は使いますが、英語でも「第一」の強意表現に<in the world>をよく使います。たとえば「You are my dearest in the whole world.(全世界でいちばん大切なのが君だよ。)」。
 かつてイタリアで格闘をした相手との再会シーンも注目。その時のことを思い出して。

ボンド: We ran into each other in Italy. That was an eye-opening experience.

やつとはイタリアで出くわした。目からウロコの体験だったよ。

 <eye-opening>は、「目を丸くする、ビックリする」。日本語ならば「目からウロコ」。じつは、この相手の片方の目は義眼なので、ここはボンドお得意のダブルミーニングの駄洒落です。
 ダニエル・クレイグの初来日は『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)の公開直前。ジェームズ・ボンドという大役を引き継ぐのはかなりのプレッシャー。おまけに当時は歴代のエレガントなイメージとは違うワイルドなダニエルの起用にブーイングも多く、“観客の反応待ち”のご本人としてはナーバスなご様子。しかし、蓋を開ければ大好評。次作『007/慰めの報酬』(2008年)で来日した時はスターのオーラが出まくりでした。
 ラッキーなことに、2代目ジョージ・レーゼンビー以外の歴代俳優全員とお会いできまして、初代ショーン・コネリーとはシリーズ外の『ライジング・サン』(1993年)のセットでのご対面でしたが、本当にカッコ良かったです。もちろん、セクシーな声にもうっとり。彼の声は映画界一魅力的だと昔から信じている私です。そして、3代目ロジャー・ムーアは軽妙洒脱で口を開けばジョークを連発。『007/オクトパシー』で3度目の来日を果たした1983年には『笑っていいとも』にも出演。タモリ氏も「ずいぶんひょうきんなんですねぇ」とびっくり。それに比べると、続くティモシー・ダルトンは生真面目で暗めなお人柄。2作だけでピアース・ブロスナンにバトンタッチもうなずけます。ピアースはスクリーンでは素敵なプレイボーイですが、じつは根っからの三枚目。もちろん、みなさん許せないほどハンサムでいい男でしたが、私の“ボンド俳優番付”は、1位はショーン、2位はダニエル。読者のみなさんは、いかがですか?

▽シリーズ21作目!ダニエル・クレイグが6 代目ボンドに

『007/カジノ・ロワイヤル』より

ダニエル・クレイグ演じる新ボンドが、国際テロ組織壊滅の初任務を遂行するまでを活写。シーンは、カジノで大負けしてご機嫌ななめなボンドがバーに行って「A vodka martini(ウォッカ・マティーニ)」を注文。そこでバーテンダーが「Shaken or stirred? (シェイクしますか? かきまわすだけ?)と聞くと……。

ボンド:Do I look like I give a damn?

僕がそんなにこだわる男にみえるか?
Point

本文で紹介したウォッカ・マティーニにこだわりまくるボンド定番セリフ「A vodka martini, shaken, not stirred.」に肩すかしを食らわせる大笑いの場面。“give a damn” は「勝手にしろ」「知るか!」という感じ。「I don’t give a damn!」という使い方をすることが多いです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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