濱口竜介監督の初期代表作『PASSION』

第94回アカデミー賞作品賞含む全4部門にノミネート。更には第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞ほか全4冠を受賞した、いま話題の作品『ドライブ・マイ・カー』。その監督を務めたのが濱口竜介だ。そんな彼が、東京芸術大学大学院映像研究科の修了制作作品として発表した『PASSION』を紹介しよう。独自の映画を模索し続ける濱口監督らしい初期作品だ!

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『PASSION』(2008年製作)あらすじ

大学時代の同級生たちの久々の再会により…

30歳を目前に、大学時代の同級生である男女数人が久しぶりに集まることに。
その場で、果歩(河井青葉)と智也(岡本竜汰)は結婚することをみんなに伝え、お祝いすることとなった。
だが、その発表により、智也が同じグループの他の女性と過去に浮気していたことが発覚してしまい…。
それぞれの人生における転換期に立たされた彼・彼女らの一夜を描いた男女5人の群像劇。

『PASSION』の魅力:その①

人の“核”を会話によって浮き彫りに

大学時代の同級生たちが数年ぶりに再会したことにより、その同級生グループの男女関係が浮き彫りになってしまうところから物語が始まる『PASSION』。
食事会の後、結婚を発表したカップルはそれぞれ別々で夜を過ごすことになる。
その一夜をメインとして、終始、丁寧な会話劇でそれぞれの人間模様を描いていく。

薄々気づいてはいたが、ずっと見ないようにしていたものと正面から向き合うことになるこの一夜は、とても濃い人間関係が映し出されている。
「恋」や「愛」が絡んだ時、人間同士の関係性や、その人自身がもつ人間性そのもの、つまり「核」となる部分が出てきやすいのではないだろうか。
本作においても、男女5人の複雑に絡み合う人間模様が、会話により浮き彫りになっていく。
その過程が丁寧かつ鮮明に描かれていくことで、人の“核”を映し出す、他にはない魅力をもった映画となっているのだ。

『PASSION』の魅力:その②

会話の重要性を感じるストーリー

前述の通り、映画『PASIION』は、とても深いところで繰り広げられる会話劇が魅力。
物語そのものは、そこまで大きな起伏があるわけではないのだが、互いを理解するために行われていた会話がその人自身を紐解いていき、だんだんと物語の核心に迫っていく。
特に、浮気していた智也がその場にいるメンバーへ提案する「嘘を言わないゲーム」は秀逸。
ゲームという軽いノリで始まりながらも、登場人物たちがそれぞれ自分と向き合わないと言葉にしなかったであろう、本当の気持ちが出てくる見ごたえのあるシーンとなっている。

人と会話することで見えてくる自分の本当の気持ち。
その気持ちを知ってしまった時に、人はどう動くのかも描かれる本作。
誰も予想しなかったであろう最後のシーンでは、核心に迫る会話を通して登場人物たちの気持ちがしっかりと浮き彫りにされたからこそ、観客も思わず深く考えてしまう結末となっている。
人間として、人とのかかわりの中で生きていかなければならないその難しさを、ぜひ一緒に考えてみて欲しい。

濱口竜介監督作品の魅力とは

人と人との関係性構築における“伝える難しさ”の映像化

『PASSION』でもいえることだが、濱口監督の作品では物語展開の大きさよりも、その登場人物をどう描くかに重点が置かれているように感じる。
そのため、人を描くうえで重要な「会話」がいつも大きな役割を果たす。

「何を」「どのように」伝えるのかに着目した脚本と、巧みな台詞まわしから生み出される会話劇を堪能できるのが、濱口監督作品の魅力だ。
人そのものを描き、理解するには、会話をしなければ見えてこない部分も多い。
互いに共通の言葉を持っていないと何も伝わらないが、会話そのものの真実性は、相手を信じることでしか生まれない。
その不確かであり不透明なもので、人物そのものを常に挑戦的に描いているからこそ、濱口監督の作は独自性があり、見ていて引き込まれる作品になっていくのであろう。
初期作から連綿と続く、誰にもまねできない会話重視の濱口監督の作風を、ぜひ一度体験してみてほしい。

『PASSION』作品情報

PASSION

監督・脚本:濱口竜介
公開:2008年
上映時間:115分
ジャンル:恋愛、人間ドラマ
出演:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦 ほか

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