2021年公開のギリシャ映画『テーラー 人生の仕立て屋』は第45回日本アカデミー賞で優秀外国作品賞に選ばれた注目映画! スーツしか作ったことのないアテネの寡黙な50歳の仕立て屋が倒産寸前のピンチを乗り越えるために立ち上がる。初めてのオーダーメイドでのウエディングドレス作りに苦戦しながらも、世界に1着だけのドレスは人々に幸せを運ぶように。監督のセンスが光る最小限のセリフと美しい映像で語られるアート性の高いヒューマンドラマ! 感想&レビューや作品・上映情報をお届け。
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映画『テーラー 人生の仕立て屋』のみどころ
仕立ての作業音がポップな音楽に!
最初のセリフが発されたのは、本編が始まってからどれくらい経ったころだろうか? 映画の冒頭は、ミシンを小気味よく踏む音、布をはさみで裁つ音…仕立ての作業音と一体化した音楽が、作品にポップでユーモアあふれる印象を与える。
倒産の危機にあるシリアスな状況にもかかわらず、音楽や主人公・ニコスと父のコミカルな会話も繰り広げられ、すんなりと作品に入り込めた。
物語は最小限のセリフで進んでいく。セリフのない映像シーンも多く、中には退屈に感じてしまう人もいるかもしれないが、話を追うのに迷子になることはなかった。役者たちの表情や一つ一つのシーンを見逃さなければ、「あぁ、きっとこうなったんだろうな」「こういう心境なんだろうな」と十分理解できる。ニコスの採寸をした後の嬉しそうな顔や、結婚パーティーでのヴィクトリアの大人びた表情、ニコスを手伝うオルガの夫の嫉妬心むき出しの振る舞いなど、印象的だったシーンがたくさん! セリフからの情報が少ないため、ぜひ映像や音の一挙手一投足に集中して観てほしい。
ハッピーエンドかと思いきやまさかの展開⁉
ニコスを待ち受ける意外な結末
アテネで紳士服一筋で真面目にスーツ作りと向き合ってきたニコス。そんな格式高い店が倒産の危機に陥ってしまい、ニコス起死回生の糸口を探すために思い切って路面でスーツを売り始めるのだった。しかし、なかなか上手く行かずに落ち込んでいると、「娘のウエディングドレスは作れる!?」と突然新婦の母親からオーダーメイドでウエディングドレスをお願いされ、勢いで請け負うことに。
初めてのウエディングドレス作りだったが、さすがは一流のテーラー! お隣の奥さん・オルガと娘のヴィクトリアにも協力してもらい、あれよあれよと世界に1着しかないドレスを完成させる。
だんだんとドレスやスーツ以外の一般的な洋服の売り方も板についてきて、口コミでドレス作りの評判も広がり始め、新しい仕事は軌道に乗り始めた。
そして、オーダーメイドのドレスで人々に幸せを届け続けたのでした……という結末かと思いきや!
え? そういうお話!? と最後はびっくりしてしまう展開に。物語の舞台となるギリシャ・アテネのきれいな風景とゆったりとした時間の流れを感じる美しい映像に浸っていると予想外の話に面食らってしまうかもしれない…!
映画『テーラー 人生の仕立て屋』には“貧困問題”という裏テーマも
監督は社会学を学んだソニア・リザ・ケンターマン
テッサロニキ国際映画祭、ベルガモ・フィルム・ミーティング、サンフランシスコ ギリシャ映画祭などで数々の賞を受賞し世界中で高い評価を得た本作。監督は本作で長編デビューを飾ったソニア・リザ・ケンターマン。彼女は実は社会学者でもある。そんな彼女の作品の多くには、“貧困問題”という裏テーマがあるのが特徴だ。
「本作ではもちろんギリシャを激しく襲った経済危機下の貧困を描いていますが、それと同時に時代遅れになっていく昔ながらの職業についても描きたかった」と語るソニア監督。“貧困問題”という視点で本作を観ると、また違う感想を持てるだろう。
映画『テーラー 人生の仕立て屋』あらすじ
崖っぷちの仕立て屋が思いついたのは“移動式テーラー”!?
アテネで36 年間、高級スーツの仕立て屋店を父と営んできた寡黙なニコス。だが不況で店は銀行に差し押さえられ、父は倒れてしまう。崖っぷちのニコスは店を飛び出し、手作りの移動式屋台で仕立て屋を始める。だが道端で高級スーツは全く売れず、商売は傾く一方…。そんな時、思いがけないオファーがくる。「ウェディングドレスは作れる?」これまで紳士服一筋だったニコス。思い切ってオーダーメイドのドレス作りを始めるが―!?
一歩を踏み出した生真面目な仕立て屋。彼が作る色とりどりのドレスが、新たな出会いと幸せを繋いでいく、希望溢れる感動ヒューマンドラマ!
公開:2021年9月3日(金)
新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督:ソニア・リザ・ケンターマン
脚本:ソニア・リザ・ケンターマン、 トレイシー・サンダーランド
出演:ディミトリ・イメロス、タミラ・クリエヴァ、タナシス・パパヨルギウ、スタシス・スタムラカトス、ダフネ・ミチョプールー
製作国:ギリシャ・ドイツ・ベルギー
製作年:2020年
上映時間:101分
配給・宣伝:松竹株式会社
© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
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