2020年9月11日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:キノフィルムズ/木下グループ
【STORY】ある日、ハワイ諸島の真珠湾が襲撃されたと報告を受けたハルゼー提督率いる空母エンタープライズ。パイロットたちが日本艦隊を追うが、既にその姿はなく…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
日本軍のパールハーバー攻撃で始まった太平洋戦争。その激戦の歴史の中でもターニングポイントとなったミッドウェイ海戦。戦中派の私ですが、幼くて当時の記憶は曖昧。でもパールハーバー攻撃の際の騒ぎはよく覚えています。あの奇襲攻撃直後の日本は旗色が良かったのに、それが逆転したのがミッドウェイ海戦。その間、劣勢だったアメリカは必死の雪辱作戦を練っていたことが、この映画でよく分かります。逆転を成功させたのはアメリカの情報力。日本軍の暗号は見事、敵に読まれていたことなど、この映画はあの戦争の裏側を映像と共に解き明かしてくれます。
ローランド・エメリッヒ監督には『GODZILLA』(’98年)の宣伝で来日した時にお会いしました。マスコミからは、日本生まれのゴジラのデザインを変えたことへの質問が集中。監督は「そこを突かれることは覚悟の上」とニンマリし、変えた理由をドイツ人らしい几帳面さで説明をしてくれました。本作でも、その几帳面さで徹底的に史実を調べ、ドイツ人という第三者の視点で両国を公平に描いています。プレスのコメントによると、「ドイツ人としての責任感があった。日本人を単なる敵としてではなく、敬意を持って描くことを心がけた」とのこと。これは戦争映画を撮る場合、監督として絶対に必要な姿勢です。さて、今回の英語表現としては、日本軍のマーシャル諸島攻撃作戦を先読みした情報主任参謀レイトン少佐が、あることわざを引用して部下に早期の出撃命令を出したことから、カリスマパイロットのベスト大尉が仲間にこう伝えます。
The early bird cathes the worm.
早起きは三文の得だぞ。日本軍が目覚める前に、こっちはあの島を叩く。
We’re going to hit the island before the Japs have rolled out of bed.
ことわざには不思議と日本語と英語で同じ発想をするものが多いのです。「早起きは三文の得」もその一つで、英語では「The early bird catches the worm.(早起きの鳥は虫=餌をキャッチする)」。ちなみに戦時中であれば、敵を蔑視語で呼ぶことは仕方がありません。<Jap>は日本人、ドイツ人は、彼らが好きなキャベツの酢漬けのサワークラウトに由来して<Kraut>と呼ばれていました。もちろん、今は絶対に使ってはいけない言葉です。
無謀な飛行攻撃も辞さないベスト大尉の妻アンが、夫の上官マクラスキー少佐とダンスホールで会った時の質問にも注目。
What am I missing?
私に全部、正直に話して。
<missing>は「紛失している」「見当たらない」などで、直訳すれば「私は何を紛失している? 見落としている?」ですが、ここでは「正直に話して、私が知らないことを教えて」。アンは戦地での状況を知りたくて、マクラスキー少佐にこう尋ねているのです。
簡単な単語でも思わぬ意味に変わることが多いのが英語の難しさ。戦況の分析で疲れ果てているレイトン少佐をいたわる妻が。
I’ll fix you a sandwich.
サンドイッチをつくってあげるわね。
<fix>は日本人はなかなか上手に使えない言葉なのですが、英語では日常語。「サンドイッチをつくる」というと、「make a sandwich.」と言いたくなりますよね。それも間違いではないのですが、英語的には<fix>。<make>というと、何か大げさなものをつくる感じ。サンドイッチは手軽につくるものだから<fix>が普通です。「お酒を飲もう」という時に「何か飲む? 僕がつくってあげるよ」も「I’ll fix you a drink.」。「素行が悪い人間を立ち直らせてやる」も「I’ll fix him.」。<fix>を上手に使いこなせたら、あなたの英語も本物です。
▽日本のゴジラを斬新なデザインで映像化したローランド・エメリッヒ監督作
『GODZILLA』より
核実験による突然変異で巨大生物ゴジラが出現。しかし、N Yの地下に消えてしまい…。日本の国民的モンスターを『インデペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督が蘇らせた怪獣パニック。セリフは、TVレポーターが同僚に上司の愚痴を言っていると、上司の姿が見えて。
Speak of the devil, he will appear.
悪魔の噂をすると、彼が現れる。
本文で紹介した日本語と英語の同じ発想のことわざで、「噂をすれば影」の英語版。このシーンでレポーターは「Speak of the devil」としか言っていませんが、日本でも「噂をすれば」といえば、あとは通じるのも同じですね。
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