戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『グッバイ、リチャード!』
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グッバイ、リチャード!

2020年8月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
提供・配給:キノフィルムズ 配給協力:REGENTS


【STORY】実直な人生を送っていた大学教授のリチャードは、ある日「余命180日です」と宣告される。しかし、彼の不運は続き、妻がとある秘密を告白する…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 『グッバイ、リチャード!』は、ジョニー・デップが久しぶりに等身大の男性を演じたヒューマン・ドラマ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズでおなじみの海賊ジャック・スパロウや、「ファンタスティック・ビースト」シリーズの黒い魔法使いグリンデルバルドのようにデフォルメされた役作りも面白いのですが、本作のように自然体のストレート・プレイも味わい深い。本当にうまい俳優だなと、あらためて思います。
 演じるのは、余命6カ月を宣告された大学教授。衝撃を受けた彼は、残り少ない時間を思い通りに過ごそうと決心するのです。
 ピックアップするフレーズは、余命宣告をする医師のセリフから。

Doctor:I won’t beat around the bush. You have stage 4 lung cancer.

ズバリ言うよ。君はステージ4の肺ガンだ。

<beat around the bush>の直訳は「藪(やぶ)の周りを棒で叩く」ということで、藪に隠れ散る鳥を追い出して、捕まえること。つまり、手間がかかること、遠回しに言うことを意味します。そこに<I won’t>をつけて「藪の周りを叩くようなことはしない」ということは、「回りくどいことはせず、即、行動する」ということ。話の場合は、「ズバリ言う」「ハッキリ言う」となります。ややこしい表現だと思いますが、実際に日常生活の中でよく使われる、誰もが知っているフレーズです。
 さて、「本当の自分らしく生きる」と決めたリチャードは、これまで培ってきた誠実で真面目な“インテリ紳士”のイメージを捨てて、やりたいことは即座に実行し、あけすけに物を言い放ちます。そんな彼が暴言連発のスピーチをした後に妻のヴェロニカに出来をたずねます。

Richard:How do you think that(speech)went?

今の(スピーチ)、どうだった?

Veronica : On the scale of one to ten. I would say “four”.

1から10の点数をつけるとしたら、私なら“4点”ね。

<scale>は「尺度」。例えば、「On the scale of one to ten. He was definitely ten as a date.(1から10の点数で言えば、彼はデート相手として、間違いなく10点よ)」。それが変化した使い方もあり、「Tom always dates “sixes”.( トムがデートをする相手は、いつも“6点”の女ばかりだ)」の場合は“six”を複数形にします。お相手が複数いることからも複数形にするほうが英語っぽいですね。
 ジョニーとは『チャーリーとチョコレート工場』のプロモーションで来日した2005年が、初めての会見。すでに『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(’03年)が大ヒットしてマネーメイキング・スターのトップに躍り出ていましたが、いつも自然体で穏やかな人柄。とりわけ素敵だと思ったのは、誠実に言葉を選び出すところ。どんな質問にもホンネで答えようとして、ぴったりの言葉が出てくるまで時間をかけて考える。適当にかっこいいことを言ってごまかそうとしないところに好感を抱きました。それから、「出演した映画はあまり見ていない」という言葉も印象に残っています。そう、彼はあくまで演技に集中するタイプで、カメラの前で全身全霊をかたむけて演技をすることが生きがい。カメラが止まれば、するべきことは終わりなのです。それを知って、同じスターでもトム・クルーズとは対照的だなと思いました。トムは演じることはもちろん、映画作りそのものが大好き。すべてのプロセスに関わっていたいのです。プロデューサーもこなすトムがプロフェッショナルなビジネスマンなら、ジョニーは自分の役作りだけに集中して映画と取り組む純粋なアーティスト。まさに正反対の個性を持つふたりの夢の共演を、いつか見たいと思っています。

▽ジョニー・デップが盗作疑惑をかけられて精神的に追い詰められていく作家を熱演

『シークレット ウインドウ』より

スティーヴン・キングの原作を映画化。セリフは、謎の男から「俺の小説を盗んだ」と執拗に責められイライラが募り禁煙を破ってしまうシーンで。

(Putting a cigarette in his mouth)I don’t care. I’m going to smoke. I’m just going to totally smoke.

(タバコをくわえて)構うことはない。吸ってやるぞ。メチャクチャ吸いまくってやる。
Point

<totally>は、本来「すべて」「すっかり」「全体的に」という意味ですが、「とことん」「メチャクチャ」という感じでよく使われます。応用は簡単で、「I totally love Johnny! (私、ジョニーがメチャクチャ大好き!)」。

(情報は記事公開時点の内容です)

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