戸田奈津子のスターこのひとこと:『トゥモロー・モーニング』
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トゥモロー・モーニング

■2022年12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給:セテラ・インターナショナル

【STORY】
ロンドンの夕暮れ時。ひとりの男とひとりの女が、愛と人生について、思いをめぐらせていた。ふたりは翌日の朝に離婚調停の審理を控えた、結婚10年目のビルとキャサリンだ。こんな日を迎えるなんて、あの時は夢にも思わなかった。10年前のあの日には…。10年前。テムズ川のほとりで、ふたりで交わした約束。「約束してくれる? たとえ世界が崩れ落ちたとしても、いまこの瞬間の私たちのことを絶対に忘れないって」「約束するよ」…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 イギリスで話題の舞台を映画化したミュージカル『トゥモロー・モーニング』。2006年にロンドンのハムステッドで初演された舞台のオリジナルは、出演者がたった4人。その冒険心は演劇界の先端をいく米英ならではのものです。本作は、初演から15周年を記念した再演がコロナ禍で中止になったのがきっかけで映画化に進展したもの。出演者も増やしてバージョンアップとなったそうです。
 ミュージカル・スターのラミン・カリムルーとサマンサ・バークスが演じるのは、離婚寸前のビルとキャサリン夫婦。その“結婚前夜”と“離婚前夜”を交錯させて、2人の愛の奇跡を綴っていく手法が面白く、楽しめました。「結婚」「夫婦」というのは、人間の永遠のテーマですからね。もちろん、出演者たちのパワフルな歌唱力にも圧倒されます。
 まずは、明日に控えた結婚式のスピーチを考えているビルのセリフから。

ビル: Marriage can be like a walk in the park.

結婚なんて、公園の散歩みたいなものさ。

 「公園の散歩?」……? 日本人はキョトンとするかもしれませんが、英語では<a walk in the park(公園の散歩)>は、つまり「簡単なこと」「楽勝」の意味で、ごく日常的な表現。欧米の町にはどこにでも大きな公園がありますから「公園の散歩」はごく普通のこと。このセリフが意味するのは「結婚なんてラクなことさ」となります。笑えるのは、このセリフには落ちがあって、「~a walk in the park, Jurassic Park.」と続きます。「公園は公園でも、普通の公園ではなく、(結婚は恐ろしい)“ジュラシック・パーク”。」というジョーク。思いついたビル自身も「くだらない。却下!」と笑っています。
 もうひとつの注目は、離婚裁判を明日に控えた夜に、親友ニックとビルが一緒にジムでトレーニングをするシーン。キャサリンに未練を残し、仕事もスランプに陥っているビルにニックが一言。
 さて、みなさんは“a four-letter word”というものを、ご存知ですか? 英語の××××語(汚い言葉、ひわいな言葉、不快な言葉)。いわゆるタブーな言葉はたいていが4文字語。たとえば、映画でよく耳にする<fu××>とか<sh××>とか。そういう口にしてはいけない言葉の総称です。それの意味を念頭に置いておけば、親友ニックが言うジョークに笑えるはずです。

ニック:Do you know the most dangerous four-letter words
    in English? Will you marry me?

英語で一番危険な4語を知ってるかい?
「Will you marry me?=ボクと結婚してください」だよ。

 確かにこのプロポーズの定番文句は4語。この言葉を言うと、その先には波瀾万丈の結婚生活が待っているという、皮肉たっぷりの警告ジョークです。やはりミュージカルは楽しいですね。とはいえ、ミュージカル映画で育ち、ミュージカル大好き人間の私としては、1930年〜40年代にミュージカル映画の黄金期時代を築いたフレッド・アステアやジンジャー・ロジャースやジーン・ケリーが披露する最高峰のダンス。そして『スタア誕生』のジュディ・ガーランドやビング・クロスビーの魅惑の歌声などが、懐かしい限り。その完成されたエンターテイナーたちのハイライト・シーンの集大成『ザッツ・エンタテインメント』(’74年)はたまりません! ちょっと憂鬱なときなど、たった5分足らずのナンバーを見るだけでカラッと気分が晴れますよ。

▽アカデミー賞作品賞をはじめ6部門を制覇した名作

『シカゴ』より

ミュージカルの映画ブームを再び巻き起こした『シカゴ』。1920年代のシカゴを舞台に、ショー・ビジネス界の裏側を、風刺たっぷりに。ショーガールのヴェルマを演じたキャサリン・ゼタ=ジョーンズがノリノリで歌うのが有名な『ALL THAT JAZZ 』の一節。

Come on, babe, why don’t we paint the town? And all that jazz.I’m gonna rouge my knees and roll my stockings down, and all that jazz.

さぁ、ベイビー、夜の街にくり出そうよ。いつものようにさ。ひざにルージュを塗って、ストッキングをずり下ろして。毎晩、やっているように。
Point

<all that jazz>はダブル・ミーニング。背景が禁酒法時代のシカゴで、街中にジャズが流れ「all that jazz=ジャズがいっぱい」。もうひとつは、たとえば何事にもうだうだ文句を並べる人がいると周囲はうんざりして、「あの人って、例によってなんだかんだ言うのよね」。その「なんだかんだ」が<all that jazz>。「あれやこれや」「なにもかも」「などなど」の意味に。ちょっとショービズっぽいオシャレな表現ですが、日常でも使われています。

(情報は記事公開時点の内容です)

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