■全国公開中
配給:東和ピクチャーズ
【STORY】
イーサン・ハントに課せられた究極のミッション。それは、全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が現れ…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
今回ご紹介する『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、トム・クルーズが初めて2部作に挑戦した渾身作。それだけに凝りに凝った内容。トムが演じる極秘諜報組織IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェント=イーサン・ハントが挑むのは、異変の起きたAIによる人類への脅威<Entity/それ>と、それを我が物にして世界を支配しようと目論む者たちとの闘い。PART ONEでは、それにつながる<鍵>の争奪戦が繰り広げられます。
字幕を担当した私としては、詰め込まれた情報をすべて字幕に入れたいと思うのですが、ご存知のように、画面に入れる字幕の文字数には限りがあります。ひとつの画面に横書きでは13~14文字。その制限の中で、瞬時に内容が伝わるようにしなくてはいけない。そして映画を見ている方に、字幕を読んでいることを意識させないことも、翻訳の大切なポイント。それにしては、今作は情報量が膨大でIT用語も満載。どれを省いてどれを活かすか? かなり悩みながらの作業でした。
ご紹介するフレーズは、IT用語が飛び交うセリフのなかでも日常会話に使える言い回しをピックアップ。
IMFの仲間から<鍵>をスリ取ったグレースという女性の技と度胸を見込んだイーサンが、彼女をIMFに勧誘するセリフ。
イーサン:I swear your life will always matter more
誓うよ。僕にとって君の命はどんな時も、
to me than my own.
僕自身の命よりも大切だとね。
<I swear>は「私は誓う」。<I promise>は日本語でも「約束するよ」の意味で普段でもよく使いますが、<I swear>は、もっと強い意味が込められています。たとえば、「I promise I’ll make you happy. I swear!(君を幸せにすると約束するよ。それを誓う!)」のように、最後につけると、決意の強さが倍加します。ちなみに、イーサンにこう言われたら、ほとんどの女性は陥落しますよね(笑)。
グレースもその申し出を受け入れてイーサンのチームに協力。オリエント急行に乗り込んで、後から汽車に飛び乗るイーサンと合流することになったときの会話。
グレース:Promise me you’ll be on that train.
その汽車に乗ると約束して。
イーサン:I will be there…no matter what.
必ず乗るよ…何があろうとも。
<no matter what>は「何が何でも」「何があろうとも」の意味。使い方としては、「I want to marry him, no matter what.(私、何が何でも、彼と結婚したいの。)」。ちなみに、最後の<what>を<how、when、where、who>などに変えると、no matter how=どんなやり方でも、no matter when=いつでもいいから、no matter where =どこでもいいから、no matter who=誰でもいいから、となりますので覚えておくと便利です。
さて今作の撮影中にもトムからたびたびメールが届きました。「いまローマでカーチェイスの撮影をしているよ」とか、「スコットランドの山間部をパラグライダーで飛ぶための練習中」という映像付きのメールもありました。そして、相変わらず「早く日本の皆さんにお見せしたい。必ず行くからね。」と言っていたのですが、ご存知のように、全米俳優組合のストライキによって急遽、来日中止に。彼に近い人の証言では「一番がっかりしているのはトム」とのこと。とはいえ、2024年には次回作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO』が公開予定。来年は<no matter what(何が何でも)>、日本に来てほしいですね。
▽アクションだけでなくスパイの哀しみや切なさもドラマチックに描かれた大ヒットシリーズ第5弾
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』より
伝説のスパイ=イーサン・ハントが激しいカーチェイスの後で、彼の運転する車が転覆。その状況を見ていた仲間が「Are you good?(大丈夫? )」とたずねると。
イーサン:Things got a little out of hand.
いろいろ大変だった。
<out of hand>は<out of control>と同じで「手に負えない」「手に余る」「コントロールできない」という意味。日本語と同じような言い回しですね。ちなみに<in hand>は「手中にある」「コントロールできている」と、逆の意味になりますから対で覚えましょう。
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