戸田奈津子のスターこのひとこと:『aftersun /アフターサン』
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
aftersun /アフターサン

■2023年5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ

【STORY】
11歳の夏休み。トルコのリゾート地を父親と訪れたソフィは、あと2日で31歳になる父カラムにビデオカメラを向け、問いかける。「11歳の時、将来は何をしてると思ってた?」。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 父親と11歳の娘が2人きりで過ごした夏休み。『aftersun/アフターサン』は20年の時を経て、あの夏の父親と同い年=31歳になった娘がきらめく時間を蘇らせます。そこには大した事件や物語もなく、楽しい日々を淡々と映しだすだけ。日常の小さなエピソードをひたすら積み重ねていく、繊細な作品です。
 私が感じたのは、監督自身、あえてドラマチックな描写を避けている。そこに誰もが自分自身を重ね合わせられるような“普遍性”を意識したのではないかと思います。誰でも旅の経験や、誰かとの楽しい思い出があるはず。本作はそんな懐かしい時間や愛おしい時間をふと、蘇らせてくれる優しい映画です。
 ちなみに、誰が言ったかは知りませんが「人間、ひとり1本の映画は撮れる。自分の人生を描けば」とよく言われます。シャーロット・ウェルズ監督の自伝的要素の強い本作は、まさにその1本かもしれません。長編映画初監督作で自身をテーマにこれだけの作品を仕上げたのですから、これから別の題材でどんな手腕を発揮していくのか。2作目が楽しみです。
 最初のピックアップは、別れた妻と電話をした父親の最後の言葉に、娘のソフィは疑問をいだきます。

ソフィ:How come you and mum say “Love you”? Like, on the phone.

パパとママ、なぜ電話なんかで“愛してる”と言うの?

You’re not together, so why would you say it?

もう別れているのに、なんで?

 それに対する父親の答え。「おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさんにも“Love you.”と言うだろ? ファミリーにはみんな“Love you.”と言う。ママとは別れたけれど、今もファミリーだからね」。日本では相手に「愛してる」というのは特別な相手だけで乱発はしませんが、映画を見ているとよく聞くように、向こうでは別れる時、電話を切る時など、挨拶代わりに“I love you.”、または略して“Love you.”と言っているのに気づきます。これは日本人なら「じゃあね」くらいの軽いノリ。つまり、親しい相手なら“Love you.”を挨拶代わりにしていいということ。ファミリーでなくても、親しい友だちにならOKですが、愛情を込めた「じゃあね」の挨拶と理解しておきましょう。
 若い父親と思春期の娘の会話が多いので、ごく日常的な流行表現がたくさん登場します。たとえば、プールで泳いだ帰り道で、父親がアイスクリームを食べようと言う時も。

父親:You want a massive ice-cream?

巨大アイスを食べたい?

 <massive>という形容詞は、普通は「巨大な」「大規模な」「壮大な」など、非常に大きなものを表します。たとえば<a massive shrine(巨大な神殿)>とか<massive damage(大損害)>とか。とてもアイスクリームを表現するものではないのですが、最近ではこのように日常でも使います。おふざけ気分で<big>の代わりに<massive>をつかうと、いまっぽい会話の気分になるかも。
 ポール・メスカルは、本作で父親を演じてアカデミー賞主演男優賞候補になりました。その熱演に堂々と応えたソフィ役のフランキー・コリオの演技力と感性も見逃せません。こういう映画の成否は子役で決まります。そう、天才子役は次々に登場しています。ハリウッドだけでも、ジョディ・フォスター、マコーレー・カルキンなど。みなさんに会っていますが、共通するのは子供ながらにちゃんと自分の言葉で自己主張ができていたこと。まぁ、大成した人もいればキャリアが低迷してしまった人もいるのですが…。行く末はそれぞれですが、せっかく授かった才能なのですから大切に育ててほしいものです。

▽「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでブレイク前の天才子役イライジャ・ウッドの出演作

『8月のメモワール』より

ケビン・コスナー演じるベトナム帰還兵の父親はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と闘いながら必死で子供たちとの絆を取り戻していく。セリフは、イライジャ演じる息子がいじめっ子の言葉にカッとなって手を出そうとした時の父親のひと言。

Sometimes all it takes is a splitting second to do something you regret the whole rest of your life.

人はときどき、1秒の何分の1かのことで、一生後悔するようなことをしてしまうんだよ。
Point

“a splitting second”というところで、ケビンが人さし指と親指で「ほんのわずか」というジェスチャーをする。「1秒の何分の1」「一瞬の」という意味です。こういうジェスチャーと一緒に言葉の表現を覚えるのも、効果的な覚え方のひとつです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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