■“話題の一冊”では、小説やコミックを映像化した作品の放送情報を紹介。ドラマや映画を見てから原作を読んで、より詳細な心理描写や物語の背景を楽しんでもよし、先に原作を読んで、思い描いた世界が目の前に広がるのを楽しんでもよし。自分好みに物語を2度味わえる作品たちはこちら!■
芥川賞作家、柴崎友香の同名小説を『ハッピーアワー』『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が映画化した『寝ても覚めても』。ヒロインと、顔のそっくりな2人の男性との恋愛物語。しかし、明るくハッピーなラブストーリーではない。ときには心をえぐられ怒りさえも覚たり、しかし妙に納得したり…さまざまな思いが去来する苦みの効いた作品だ。そんな大人の恋愛映画を観たいなら、2023年、お正月の明けた1月5日の日本映画専門チャンネルをチェック!
朝子の主観で描かれる原作
映画はヒロインの朝子を中心としながらも、「消えた彼(麦)に瓜二つの男」亮平や、彼らの友人たちの心理も描いている。それに対し、小説は朝子主観で進むため、朝子の心が浮き彫りになっている。映像で見る“フワフワして見えるくせに思い込んだら一直線”な性格の朝子は、モノローグがあるわけでもなく、表情からもはっきりと気持ちが読み取れない。小説では、朝子の周囲の人物たちが映画よりも多く登場することもあり、朝子の人物像や彼女の心の変化をより深く知ることができる。また、映画では東出昌大が一人二役を演じ、同じ顔をしている麦と亮平だが、小説では朝子の思い込みとも受け取れる友人の台詞がある。登場人物やラストシーンの場所も異なる。それらの意味を考えながら読むのも一興だ。
大阪での朝子の人間関係
複雑な恋愛関係は、朝子の大阪時代に端を発する。ある日、謎めいた青年“麦(ばく)”と朝子は、少年たちが鳴らした爆竹のように、衝動的に惹かれ合う。付き合い始めたふたりは、麦の下宿先の息子・岡崎や朝子の親友・春代らとともに過ごすが、4人でクラブへ行った際に朝子に近づいた男を麦が暴力で追い払ったり、バイク事故に遭ったり、そこには危うさが漂う。そして「俺は、朝ちゃんのところに必ず帰ってくるから」と約束していたにもかかわらず、麦はフラリと姿を消したまま戻らなかった。
東京での朝子の人間関係
麦の失踪から2年と少し後、東京に移ってカフェで働いていた朝子は、コーヒーのデリバリーで訪れた会社で、麦と瓜二つの亮平に出会う。ぎこちない態度で「麦?」と呼びかけ、不自然に接近してくる朝子に対し、夢を喰うと言われる動物のバクの話だと勘違いし戸惑う亮平。その後、朝子のルームシェア相手である女優のマヤ、亮平の職場の同僚・串橋を交えた交流が始まる。亮平が麦ではないと知ってからは頑なに亮平との距離を置こうとする朝子だが、亮平は彼女に惹かれ、まっすぐに気持ちを伝える。そんなふたりの関係が変化したのは東日本大震災の日。帰宅困難者があふれる街で偶然出会い、夫婦同然の同棲生活を送りはじめる。5年の年月が流れ、朝子は再会した春代から麦の行方を知らされる。
宮城・大阪で上の世代が語る恋愛観
短いシーンながら興味深いのが、朝子と亮平が震災復興ボランティアで知り合った宮城の平川さん、大阪時代の友人である岡崎の母親・栄子が語る男女関係に関する話。特に栄子の言葉は朝子の行動に大きく影響することになる。
瓜二つの男の間で揺れる彼女にとって“夢”はどちらなのか
2年以上前に失踪した恋人・麦(ばく:東出昌大)にそっくりな男、亮平(東出・二役)と出会った朝子(唐田えりか)。「麦じゃない」ことを知ってからは亮平を極端に避けていたが、亮平からの素直な告白もあり、震災の日を境に付き合うことになる。穏やかで幸せな5年を過ごした頃、離れていた親友の春代(伊藤沙莉)から麦がモデルとして有名になっていることを聞く朝子。追えば消え、追うのをやめれば突然現れる麦に朝子の心はかき乱される。そんな中でも結婚して亮平の転勤についていくと決めた朝子の前に、またもや麦が現れ、「一緒に北海道へ行こう」と手を差し出す。はたして朝子の決断は…?
放送局:日本映画専門チャンネル
放送日:2023年1月5日
放送時間:午後9:45~深夜0:00
再放送:2023年1月25日
制作年/国:2018年/日本
監督:濱口竜介
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事/田中美佐子 ほか