カリスマ的な人気を誇る漫画家・中村明日美子。代表作のひとつである高校生同士のボーイズラブを描いた『同級生』は2016年にA-1 Picturesの制作で劇場アニメ化された。公開当初は30スクリーンと小規模公開ながら、興行成績ランキングトップ10入りを果たすなど異例のヒットを飛ばし、BL映画史上で重要な位置づけとなったBLの名作である。
傷つきやすい心を秘めたキャラクターたちが魅力
中村明日美子の原作コミックは流線的な独特のタッチの絵柄で、仄暗いストーリーが展開されるものが多く熱狂的なファンを有している。
『同級生』は打って変わってみずみずしくてキュンキュンするアオハルのラブストーリーだが、傷つきやすい心を秘めたキャラクターはどこか危うい空気を内包していて中村明日美子の世界の住人であることを思わせ、魅力的だ。
あらすじ
接点のなかった2人が徐々に距離を近づけ…
物語のメインは成績優秀だが内向的で1人でいることの多い佐条利人と、バンド活動をしていて女子にもモテる草壁光という接点のなさそうな2人。あるとき、合唱祭の練習の際に佐条声を出していないことに草壁は気づく。佐条は歌が苦手なせいであり、草壁は佐条の自主練に付き合うこととなる。歌を練習してともに過ごす時間を重ね、徐々に心の距離が近づきあって行く2人。佐条が担任の原先生のために歌を練習し始めたのではないかと思い至った草壁は嫉妬を覚え、嫉妬している自分の気持ちにも気づいて…!?
雨の中のキスシーンひとつとっても印象的!
声の出演は佐条役に野島健児、草壁役は神谷浩史という大人気声優が担当し、原作の印象的な数々のときめくシーンを再現。声だけでなく映像も原作の持つ繊細でいて大胆な持ち味を生かしている。
雨の中のキスシーンひとつとっても、ハッとさせられる。相合傘の2人の躙り寄る足元を写し出したかと大きくアングルを変えて俯瞰ショットへ。道端にポツンと写る傘からは2人の体は見えずに彼らが急接近していることがうかがえ、傘の角度が微妙に変わることでキスしたことがわかる。詩的な憎い演出で作品の世界観をうまくすくい取っている。このキスシーンのあと、コミカルなやり取りがあって緩急つけられているところも原作の世界観を表している。