『私をくいとめて』や長編アニメ『この世界の片隅に』の演技が高く評価されている、のんが、主演作『Ribbon』で劇場用長編映画の監督デビューを果たした! 「コロナ禍でエンタメや芸術の優先順位が下がっていくのを感じた」という彼女が、企画・脚本も担当した青春ストーリー。コロナ禍の2020年を舞台に、卒業制作展の中止を余儀なくされた美大生が葛藤する姿を、ユーモアを交えて描く。“映画の先輩たち”の力を借りて完成した本作の撮影秘話を、のんに語ってもらった。
桃井かおりさんから頂いたアドバイスも支えになりました
この映画が生まれたきっかけは、自粛期間中に読んだインタビュー記事です。ある美大生が「卒業制作展ができなくなり、一年かけて作った自分の作品がゴミのように思えてしまった」と話していました。ちょうど私も企画した音楽イベントが中止になるなど、アートやエンタメ全般が“不要不急”と思われていくのが悔しかったんです。だから、その美大生の方の言葉にインスパイアされて今作の脚本を書きました。
ただ、コロナ禍の辛さをハードな映像にしたくなかったので、主人公の落ち込んだ感情を、リボンで視覚化させて表現してみました。“重たさ”が和らいで、感覚的に伝わったんじゃないかな。実はそのシーンは、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督や尾上克郎准監督が協力してくれました。リボンを水槽の中でグルグル回して撮影したり、逆再生を使ってみたり、「そうやって撮るの!?」と、とにかく面白くて勉強になりましたね。
現場では監督として、どうやって撮りたいか説明しなければいけませんが、私は言葉で伝えるのがあまり得意じゃないので、絵を描いたりイメージボードを作るなど工夫しました。演技に関しては自分の経験上「無造作にやった方が、感情が動く時があるな」と感じていたので、あまり細かく決めず、俳優の皆さんにお任せしました。監督としての先輩でもある桃井かおりさんから頂いたアドバイスも支えになりましたね。「どんなことが起こっても、それがどうしたら面白くなるかを一度考えて、作品に活かすのよ。だから『毎日ギフトがもらえる』って考えなさい」って。起きたことを面白がって受け取るようにしていったおかげもあり、本当に良い作品に仕上がりました!
監督と主演を務めたのは、『おちをつけなんせ』に続いて2作目です。以前「監督と主演の両立はすごく大変じゃないですか?」って桃井さんに質問したら、「自分と同じ考えを持った味方がもう一人いるって考えたら、すごく楽なことよ」って答えられて。私は楽ちんじゃなかったんですけど(笑)、確かにそうかもしれないな、と。“こういう風に撮りたい”っていうビジョンがわかっているから、いつかを演じたときはそれに真っ直ぐ向き合う感じでした。一方で、監督目線だと「こういう画で撮りたい」とか作品を通して伝えるメッセージばかり考えてしまっていたので、私を含め役者の皆さんがより表現しやすいように、撮影前に細かいバックボーンを構築し直しました。自分が脚本を書いているので、自分だけがわかった気になってしまいがちで。演出する側でもありますし、それぞれの役柄をより深く追求して修正していきました。
主人公の名前は“いつか”。「きっといつか、アートを作れる日常を取り戻せる」という願いを込めて付けました。なんとか伝わって欲しいという気持ちで作った作品。皆さんに届けば嬉しいです。
2月25日(金)テアトル新宿ほかロードショー
未来を奪われた美大生の再生物語
コロナ禍の2020年。いつかが通う美術大学の卒業制作展が中止になった。いろいろな感情が渦巻き何も手につかず、家族とも衝突。普段は冷静な親友もイライラを募らせている。こんなことではいけない。未来をこじ開けられるのは、自分しかいない―。誰もが苦しんだ2020年。心に光が差す青春ストーリー。
脚本・監督/のん
出演/のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
●「Ribbon」メイキング(仮)
※日本映画専門チャンネルで放送
16日 後5.00~5.15ほか
24時間まるごと のん
NON FES! THE MOVIES
2月22日(火)後10.00~翌後11.10
のんが脚本・監督・主演を務めた映画『Ribbon』が2月25日から公開されるのを記念して、のんが出演した作品を24時間まるごと特集放送。映画作品の本編前後には本人の特別インタビューも!
<放送作品>
■私をくいとめて
22日 後10.00~深0.35ほか
■おちをつけなんせ
22日 深0.50~2.25ほか
■星屑の町
22日 深2.25~4.35ほか
■特撮いかがでしょう?
22日 深4.35~5.35ほか
■8日で死んだ怪獣の12日の物語 -劇場版-
22日 深5.35~翌前7.25ほか
■この世界の(さらにいくつもの)片隅に
23日 前7.25~10.35ほか
★(特集放送されることを聞いたときは)素敵!嬉しすぎる!って思いました。1日中ですもんね…貴重な機会をいただけました。もちろん1日中お付き合いいただけたら一番ですが、全部素敵な作品なので、作品をちらっと見て「あれ、何か気になるな」って最後まで見ていただけたらそれだけでも嬉しいです。(のん)
のん
1993年7月13日生まれ。女優、創作あーちすと。
2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を演じ、高い評価を得る。以降も映画や舞台、ナレーション、YouTubeなど幅広く活動。2021年12月には自身のキャリア初となるZepp Tokyoでのワンマンライブを成功させた。
Photo:菅慎一 Text:水越小夜子 Styling:町野泉美 Hair&Make:菅野史絵 衣装協力:kudos、SHINYAKOZUKA