戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『15年後のラブソング』
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15年後のラブソング

2020年6月12日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開
配給:アルバトロス・フィルム

【STORY】ある日、「安定」という言葉がふさわしい生活を送っていたアニーのもとに一通のメールが届く。送り主は伝説的なロック・シンガー、タッカー・クロウで…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 “自粛解除”と言っても、まだまだ油断はできない状況。なんとなく憂鬱ですよねぇ。そこで今回は、すっきり気分を晴らしてくれそうなラブコメ『15年後のラブソング』を。
 ヒロインのアニーは、イギリスの地方都市にある古ぼけた郷土史博物館の経営者。15年間も同棲している恋人ダンカンは’90年代に注目された一発屋のロック・シンガー、タッカー・クロウの超オタクで、アニーをほったらかし。30代半ばを迎えたアニーは人生に焦りと疑問を抱きはじめます。見始めたときは「恋人たちの心のズレを描くありきたりなお話?」と思ったのですが、ひょんなことでアニーとタッカーがメル友になってからが面白い! そう、15年間も“行方不明”とされているタッカーが、じつは定職にもつかず結婚離婚を繰り返し、今はアメリカの片田舎にある元妻の家のガレージを間借りして子育てという展開が予想外。
 そんな状況ですから、登場人物のほとんどが「元妻」や「元カレ」を持っていて<ex-〜(元)>という言い方が氾濫しています。たとえばいろいろあってアニーと別れたダンカンと「今カノ」の会話。

ダンカン:This cake is delicious.

このケーキ、おいしい。

今カノ:My ex-boyfriend. He’s a baker.

元カレが作ったのよ。パン屋だから。

 使い方は同様に「ex-wife(元妻)」「ex-husband( 元夫)」「ex-girlfriend(元カノ)」etc., etc.
 タッカーのセリフでは「My son Jakson lives with my ex.(息子のジャックは元妻と暮らしているんだ)」と、省略。事情を知っている相手なら、いちいち<husband>とか<wife>と言わなくても<my ex><your ex>だけでOK。発音は全て「エクス」です。また、ぜひ使って欲しいフレーズがあります。それは、メル友になったタッカーに、アニーが「ジャクソン(息子)は元気?」とたずねたときの返信。

タッカー:Thanks for asking.

聞いてくれてありがとう。

 これは、相手が気遣いを込めて質問をしてくれたときに、必ず返したい「お気遣いありがとう」という礼儀あるフレーズ。
 たとえば「How is your mother ?(お母さんはお元気?)」と聞かれたら「She’s fine. Thanks for asking. ええ、元気よ。ありがとう)」。「She’s fine.」だけでなく必ず付け加えましょう。
 さて、大人になりきれない困ったダメ男だけど、なぜか憎めない。そんなタッカーをチャーミングに演じているのはイーサン・ホーク。彼には『いまを生きる』(’89年)を携えた初来日で一度だけお付き合い。そのとき20歳だったイーサンは、若手の注目俳優というより、ちょっとやぼったいアメリカの大学生の雰囲気。とても初々しい好青年だったのを覚えています。あれからほぼ30年(笑)。着実にキャリアを積んできて、とってもいい俳優になりましたねぇ。ちなみに、『いまを生きる』は、私の大切なお友達だったロビン・ウィリアムズが2度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされてシリアスな演技派としても評価を高めた秀作。懐かしい! 懐かしいといえば、本作の原作は日本でもヒットしたラブコメディ『アバウト・ア・ボーイ』(’02年)と同じニック・ホーンビィ。やっぱり大人になれない男が主人公で、演じたのはロマコメがお得意のヒュー・グラント。私が彼にお会いしたのもこの作品のプロモーションでの来日が初めて。実際の彼はスクリーンのイメージ通りで、ソフトで軽く、夜遊びが大好きなプレイボーイ。東京に着いたその日から東京の夜を満喫して、朝10時ごろからスタートするインタビューではかなり眠そう(笑)。困ったのはカメラ嫌いで、なんと撮影時間はシャッター5回分、5秒くらいで「もうイヤ。ここまで!」と撮影拒否。とはいえ、ユーモアのセンスも抜群だし、チャーミングなのでやっぱり憎めません!

▽ニック・ホーンビィの原作をもとにしたコメディ

『アバウト・ア・ボーイ』より

独身生活を謳歌する男ウィルが、12歳の少年との出会いで精神的に成長していく姿をヒュー・グラントが好演。セリフは、自殺未遂をした少年の母親を乗せた救急車の後を車で追っている場面でのナレーション。ヒュー自身が一番のお気に入りのセリフと証言している。

It was horrible. Horrible. But driving fast behind the ambulance was great.

(自殺未遂なんて)ひどい話だ。ひどい。でも、救急車の後ろを猛スピードで走るのは最高だった。
Point

いかにも自己チュウの軽薄男ウィルならではのhorribleなセリフですが、じつはヒューのアドリブ。このほか、つい吹き出してしまうセリフの数々もヒューのアイデアによるところが多かったそうです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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