映画『365日のシンプルライフ』本当に大切なものとは？

ヘルシンキに住むペトリは失恋をきっかけに、家具から下着まで、全ての持ち物を倉庫に預けて生活をリセットする。1日1個だけ倉庫から自分が選んだモノを取り出せるというルールを設け、実験的生活はスタートした。映画『365日のシンプルライフ』はシンプルな生活の中にある幸せを問いかける。

すべての持ち物を倉庫へ預ける大胆な実験！

ルール：1日1個だけ倉庫からモノを取り出せる

映画『365日のシンプルライフ』は、雪が積もった寒空の下を全裸で走る男のシーンから始まる。彼こそが大胆な実験の考案者であり被験者のペトリだ。ヘルシンキに住む26歳のペトリは彼女にフラれて失恋したことをきっかけに、急にモノが溢れている自分の部屋に嫌気がさす。モノがたくさんある生活は本当に幸せなのか？　自分の幸せはこの部屋にあるのか―？　そこでペトリは、一度持ち物をすべてゼロにして、本当に必要なモノを見極めるための身を張った実験を行う決意をする。

ペトリが自分に課したルールは次の4つ。
①自分の持ち物すべてを倉庫に預ける
②1日1個だけ倉庫からモノを取り出せる
③1年間ルールを守り続ける
④1年間モノを買わない

家具から靴下、そして下着まで所有する全てのモノを倉庫に預けてしまったので、ペトリは倉庫へモノを取りに行くまで裸で移動をするしかないのだ。途中で道端のゴミ箱にあった新聞紙で身を覆うようにして倉庫までたどり着く。ペトリが初日に倉庫から取り出したモノはロングコートだった。外は雪が積もって素足で歩くのは大変だからと、靴を選ぶ人もいるだろうし、まずは下着を身に着けたいと考える人もいるだろう。ペトリがなぜロングコートを選んだかというと、寝るときにかけ布団のように使えるし、前をボタンで留めれば全裸であることもバレないからである。果たして、すっからかんになった家に、ペトリは何をどんな順番でそろえていくのだろうか？　本作は、身をもって挑戦的実験に取り組んだペトリの毎日の生活を記録した、生活と生き方を見つめ直すドキュメンタリー映画である。

ペトリ・ルーッカイネン
本作の発起人で監督・脚本・主演をつとめたペトリ・ルーッカイネンは1984年生まれで、17歳の頃からTVCMやミュージックビデオを作り始めた。主にドキュメンタリー作品のディレクター、撮影監督、編集などを手掛けており、本作『365日のシンプルライフ』で長編映画デビューを果たした。本作の公開後は多くの若者が同じような実験を行うなど、大きなムーブが巻き起ったという（公式HP参考）。

心に残る祖母の言葉

人生はモノでできていない

この映画の魅力は、自分だったら何を選ぶかを考えさせられるところにある。作中、洗濯機の水漏れで部屋が水浸しになったり、ガールフレンドの冷蔵庫が壊れたりというさまざまなハプニングがたくさん起こる。ルールでは1年間モノを買ってはいけないので、どのように解決していくかも見どころだ。そして、自分だったらどうするのかということを自然と考え、気が付くと自分事としてこの映画に見入っていることだろう。

本作には兄のペトリを心配して食べ物などを差し入れてくれる弟など、実験に協力的な家族も出演している。ペトリは実験中、思い悩んだり行き詰まったりすると祖母の自宅を訪れるのだが、このおばあちゃんがペトリに幸せのヒントを与えてくれるキーパーソンとなっているのだ。実験を始めた当初、ペトリは周りの人たちからバカにされていた。いきなり無謀な実験を始めたのだから無理もないが、現実逃避をしているだけだと嫌味を言われ、友人とは喧嘩をしてしまう。しかし、おばあちゃんだけはペトリを肯定してくれた。「人生はモノでできていない、死んだあとにモノは持っていけない。」戦争を知らない多くの現代人は、生まれたときからモノに囲まれている。人の豊かさとは、幸せとは何か。貧しく、大変な時代を生き抜いたおばあちゃんの言葉には説得力がある。

映画『100日間のシンプルライフ』も公開

本作からヒントを得た続編シリーズ

2013年にフィンランドで公開された映画『365日のシンプルライフ』 は、若者たちに大きな影響を与えた。なかには、この過酷な実験を実践する人もたくさん現れたという。そして、2020年の12月には本作を原案とした映画『100日間のシンプルライフ』も公開された。
本作では、主人公のペトリが1人で実験に臨んだが、『100日間のシンプルライフ』では、パウルとトニーという2人の男がシンプルライフで我慢比べ対決をするようだ（基本的な4つのルールは変わっていない）。公式HPには序盤に2人が選んだものが紹介されているのだが、トニーは8つ目に育毛剤を選んでいる。…大事にするものは人それぞれだ。

おわりに

その人が持っているモノを見れば、その人が大切にしていることがわかる。コロナ禍で家で過ごす時間が長くなり、断捨離などをして身の周りをすっきりさせた人もたくさんいるだろう。自分にとって大切なものはなにか？より豊かに生きるためのヒントを得るために、この映画を観てほしい。シンプルな暮らしを観て身の周りのモノへの価値観や見方が変わるかもしれない。