映画『ライ麦畑で出会ったら』は、 J.D.サリンジャー の名作小説「ライ麦畑でつかまえて」を舞台化しようと奮闘する高校生・ジェイミーの青春物語。また2019年には『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』がサリンジャーの生誕100年の節目に公開されている。
「ライ麦畑でつかまえて」サリンジャーの名作
2度目の翻訳は村上春樹
映画『ライ麦畑で出会ったら』で高校生のジェイミーが演劇作品として上演しようとした「ライ麦畑でつかまえて」は、青春小説の金字塔として、いまもなお世代を超えて世界で愛されている長編小説だ。
1964年に野崎孝によって翻訳され、2003年には村上春樹が新たに翻訳を行い「キャッチャー・イン・ザ・ライ」として新訳バージョンが発売になっている。余談だが、2019年の大ヒットアニメ映画『天気の子』の作中で主人公の帆高が家出の時に持っていた本として『天気の子』公開時には、売り上げが急増、出版元にも問い合わせが殺到したという。
さて、作者であるJ.D.サリンジャーは、1919年にニューヨークで生まれ、1940年に作家デビュー。その4年後にはノルマンディー上陸作戦に参加し、1951年に「ライ麦畑でつかまえて( キャッチャー・イン・ザ・ライ )」が刊行された。1965年に「ハプワース16、1924年」を発表して以来は一切の活動を停止し、2010年に亡くなった。また、生誕100年を迎えた2019年にはニコラス・ホルト主演で、サリンジャーの謎多き作家人生を描いた『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』が公開されて話題となった。
今回紹介をする映画『ライ麦畑で出会ったら』は、この不朽の名作と出会った青年の成長ストーリーである。学校で居場所のないジェイミーが「ライ麦畑でつかまえて」の主人公ホールデンと気持ちが通じ合ったと感じ、舞台化を熱望する。本作の主人公・ジェイミーには『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でも注目された若手俳優のアレックス・ウルフ。そして、謎に包まれた伝説の作家・サリンジャーには、『アダプテーション』の名優クリス・クーパーがキャスティングされている。
ベースはジェームズ・サドウィズ監督の実体験
青春時代の甘酸っぱさとほろ苦さ
ジェームズ・サドウィズ監督の経験をもとに描かれた映画『ライ麦畑で出会ったら』。実体験故に青春時代ならではの甘酸っぱさとほろ苦さはリアリティに富み、幅広い層から共感をよんだ。
ジェイミーの兄・ジェリーは、女遊びや酒、ドラッグに手を出すやんちゃな男の子だったが、弟のジェイミーは正反対で真面目な性格をしている。しかし、ジェリーが暗闇で女の子といちゃついた話を聞くと、ジェイミーは「男女共学の高校に行きたい!」と即答する。このあたりは真面目なジェイミーの思春期の男の子らしさが前面に出ていて、可愛らしいというか微笑ましいというか。
結局ジェイミーは全寮制の男子高校に通うことになったのだが、生徒たちが実に嫌な奴らなのである。真面目でさえない演劇オタクのジェイミーは、陰湿ないじめを受ける毎日だった。かつては仲の良かった友達も、次第に悪い連中とつるんで遊ぶようになり、ジェイミーは無視されるようになってしまった。耐えかねたジェイミーは学校を飛び出し、トランクひとつだけを持ってサリンジャーに会いに行くことになる。
本作のヒロインであるディーディーは、素朴で素直な女の子だ。サリンジャーに会いに行く道中、ディーディーはジェイミーを助手席に乗せてずっと車を運転しているのだが、車中の2人の会話がいかにも“THE・青春”なのである。ジェイミーははじめディーディーではなくモウリーンというほかの女の子のことを好いていたのだが、ディーディーに正直なことを言えと言われたジェイミーが“正直に”答えると、ディーディーは怒りだしてしまう。そして一言、「男子ってホント うぶすぎる」。これが乙女心ってやつだ、ジェイミー…。そしてジェイミー、ディーディーにばかり運転させてないで途中変わってあげてもよかったんじゃないかと思うぞ。
また、本作はジェームズ・サドウィズ監督の長編デビュー作でもある。海外メディアからも高い評価を獲得したことでも話題となった。散りばめられた郷愁と爽やかな感動は、大人になり忘れかけていた大切な思いをよみがえらせてくれる青春映画の名編といえる。
映画『ライ麦畑で出会ったら』あらすじ
いじめられていた高校生が人生を変える旅に出る
1969年、アメリカ・ペンシルベニア州。学校一冴えない高校生のジェイミーは、周囲ともなじめない孤独な生活を送っていた。そんなある日、若者のバイブルだった「ライ麦畑でつかまえて」に感銘を受け、演劇として脚色することを思いつく。しかし、舞台化には作者であるJ.D.サリンジャーの許可が必要だと知り、ジェイミーは隠遁生活をするサリンジャーを探して旅に出ることを決意する。果たしてサリンジャーに会い、舞台化の許可を得ることはできるのか? 新たな一歩を踏み出したジェイミーの人生を変える冒険が始まる。
2018年公開/97分/PG12