2021年12月10日に公開された『あなたの番です 劇場版』。2019年4月から始まったTVドラマの放送時は、Twitter上で2クールにわたる「交換殺人ゲーム」の考察ブームを巻き起こし、“あな番”の略称でも親しまれた。映画では、主演の田中圭や原田知世といった座組は変わらないものの、ドラマとは違うパラレルワールドの物語が描かれる。そんな「あな番 劇場版」をネタバレ込みであらすじや感想レビューを交えながら紹介。
『あなたの番です 劇場版』あらすじ
もしもあのマンションで交換殺人ゲームが始まらなかったら…?
「キウンクエ蔵前」というマンションに引っ越してきた年の差カップルの手塚翔太(演:田中圭)と菜奈(原田知世)。
引っ越し初日に開かれた住民会に菜奈が参加すると、そこで交換殺人ゲームという物騒な話が提案される。
その日から、マンションの住民を巻き込んだ恐ろしい日々が始まり…というのがTVドラマ版。
劇場版では、この住民会に翔太が参加したことで、交換殺人ゲームは未遂に終わる。
2年後、翔太と菜奈は晴れて結婚!
住民会を通して仲良くなった、管理人の床島(演:竹中直人)、田宮ご夫婦、シンイー御一行といったマンションの住民たちを招待して、豪華客船での船上ウェディングパーティーを開催することに。
幸せいっぱいのクルーズ旅になるかと思った矢先、船に招待していた床島の死体が発見され…。
逃げ場のない船上で、いま再び連続殺人の幕が上がる。
TVドラマ『あなたのです』未視聴の方へ
TVドラマ版を見ていない人は前提知識が必須です
見出しの通りなのだが、TVドラマ版を見ていない人は劇場版を見ても置いてけぼりになるだけなので、まずは前提の知識を調べておくことをお勧めする。
劇場版はTVドラマのパラレルワールドのため、一部変更になっている設定もあるのだが、基本的な人物相関が改めて説明されることはない。
加えて本作は、手塚菜奈を演じる原田知世と翔太役の田中圭によるW主演と銘打たれているものの、劇場版のストーリーは西野七瀬が演じる黒島沙和を中心に進んでいき、彼女の人物像を知っていないと意味不明な展開や描写が続く。
そうした点からも前提知識は必須となるのだ。(断りを入れておくと、劇場版の犯人が黒島だというわけではない)
また、中盤あたりからは黒島の恋人である二階堂忍(演:横浜流星)にフォーカスしたシーンが増えてくる。
その活躍っぷりに、初見の人は「主人公って横浜流星のやつだったの?」となってしまう可能性が高い。
実際、TVドラマ版を見ていた筆者からしても、「劇場版はほぼ黒島と二階堂の話で、他の住民はおまけ程度だったな」というのが鑑賞後に抱いた感想だった。
手塚夫婦はあくまでも探偵役としての側面が強いため、この2人のドラマがフィーチャーされることはあまり多くない。
一方で黒島と二階堂はドラマチックなシーンが多いため、「黒島と二階堂の物語」という印象が強くなり、結果的に二階堂=主人公の雰囲気が出てしまっているのだ。
あえて劇場版を先に見てからTVドラマを見て違いを楽しんだり、劇場版で気になった住人を探しておいてTVドラマでチェックする楽しみ方もあると思うが、基本的には登場人物の役割や関係性を理解しておくためにも、劇場版の前にTVドラマを見ておくことを勧める。
完全新撮ドラマは見ないとダメ?
実は『あなたの番です 劇場版』の公開日である2021年12月10日に、「劇場版公開記念!『あなたの番です』完全新撮スペシャル!!」という新撮ドラマが日本テレビ系でOAされた。
朝の情報番組「スッキリ」とコラボして、スッキリMC陣があな番出演者に質問などをしながら、劇場版までの空白の2年間を描いた5つの完全新撮ドラマを見ていくという構成の番組で、「このドラマを見れば、『あなたの番です 劇場版』がもっと楽しめる」という触れ込みだった。
結果から言うと、この完全新撮ドラマを見なくても劇場版は楽しめるので特に問題ない。
この完全新撮ドラマは、「『あなたの番です』のスタートから劇場版までの空白の2年間を描く」というもの。
少しややこしいかもしれないが、TVドラマ『あなたの番です』は、物語のスタートとして「キウンクエ蔵前」というマンションの住民会で交換殺人ゲームが起こり、話が進むごとに次々と犠牲者が出てくるというストーリー。
一方で劇場版は、“交換殺人ゲームが起こらなかった世界”の話なので、つまるところ新撮ドラマで描かれる空白の2年間というのは、“ただの日常”なのだ。
一応、登場人物たちの関係性をある程度は知ることができたり、劇場版で登場しない住民たちの補完になっていたりはするものの、これを見ないと劇場版が理解できないという内容では決してない。
また、TVドラマ第2クールから登場した南(演:田中哲司)は新撮ドラマにも登場しないが劇場版には登場するし、劇場版から登場する浦辺(演:門脇麦)といった新キャラクターも新撮ドラマには出ない。
【まとめ】結局、知っておくべき情報は?(TVドラマのネタバレを含みます)
いろいろと書いてきたが、とりあえず前提知識として押さえておけば良い情報は以下の通り。
① 手塚菜奈と手塚翔太は新婚夫婦でミステリー好き。主人公ではあるものの劇場版では探偵役を務めるため、この2人のドラマは少ない。
② 黒島沙和は殺人衝動を抱えていて、過去に殺人を犯している。劇場版ではこの殺人の過去が物語の鍵に。
③ 黒島は高知出身で、高知にいた頃に殺人衝動が芽生えている。
④ 黒島と二階堂忍は同じ大学に在籍していて恋人同士。お互いに数学が得意なので、数学になぞらえたセリフを言ったりする。
⑤ 黒島は同じマンションに住む赤池幸子というお婆さんの隠し孫。
⑥ 幸子の義理の娘である美里は黒島が隠し孫であることも殺人衝動を抱えていることも知っている。
上記の通り、大体が黒島まわりの情報だ。
劇場版が黒島にフィーチャーした作品であることが分かってもらえるかと思う。
その他の住民は押さえておく必要はないのかと言えば、おそらくは大丈夫だ。
榎本早苗(演:木村多江)や田宮淳一郎(演:生瀬勝久)、藤井淳史(片桐仁)や久住譲(袴田吉彦)など、TVドラマ版では重要な役割の人物もいるのだが、劇場版に関しては「変わった人だなぁ」程度の認識で問題ないだろう。
TVドラマでそのキャラクター性が話題となった尾野幹葉(演:奈緒)が劇場版でもクセの強さを見せるが、前提知識が必要になるようなキャラクターではないので、物語を引っ掻き回す人物として楽しめばOKだ。
ここまで書いたことで気づいた方もいるかもしれないが、『あなたの番です 劇場版』はTVドラマが好きだった人に向けたファンディスクとしての側面が色濃い。
「あな番はミステリーだって聞いたから見てみよう」という印象で見るには向かない作品なので、TVドラマ版を未視聴で劇場版を鑑賞する際は、是非とも前提知識を十分にいれてからをお勧めする。
TVドラマ『あなたのです』視聴済みで劇場版を見る方へ
劇場版の犯人特定は多分無理
既出の通り、『あなたの番です』と言えばTVドラマ放送当時に、Twitter上で視聴者による犯人探しの考察が盛り上がった作品。
そのため劇場版でも、犯人が誰なのかを推理しながら見るのを楽しみにしている人もいるかもしれない。
だが、犯人を特定することは多分無理だろうというのが筆者の感想だ。
なぜならば、劇中で提示される材料だけでは、犯人を特定するための情報として不充分だと言わざるを得ないからだ。
劇場版ではTVドラマ版のように、次々と連続殺人事件が起こっていく。
同じ犯人の連続犯行のようにも思えるし、もしかしたら複数の事件が絡みあっているだけかもしれないようにも思える作りは面白いのだが、最後に犯人を特定するシーンでは、数々の証拠を重ねて犯人を見つけ出すのではなく、便利アイテムが登場して結果的に犯人が見つかったという印象がぬぐえない。
また、最初に殺された人物については、「殺害したのは恐らくあの人なんだろう」というのはわかるものの、「いつどこで殺したのか?」というところはハッキリと描写されない。
第2の殺人については、被害者も加害者も物語全体を通してみれば必要な人物だったのか怪しいところ。
黒島が何か秘密を抱えていることに二階堂が気づくという“演出上の殺人”といった感がある。
筆者としては、『あなたの番です 劇場版』をミステリーだと思って見ない方がよい、というのが正直な感想だ。
TVドラマ版を見ていた人ならば比較的早い段階から気が付くだろうが、劇場版は黒島と二階堂を中心とした恋愛ドラマが基本なのだ。
あくまでミステリー部分はプラスアルファとしての要素だと思っておくと、素直に見れるのではないかと思う。
とはいえ、当然ファンならば楽しめるポイントもあって、登場人物たちの関係性がTVドラマ版とは少し変わっていることもその一つ。
例えば、黒島と二階堂は最初から恋人同士として登場するし、刑事の神谷(演:浅香航大)も実はある人物と深いかかわりが追加されている。
また、TVドラマ版から名前が登場していた早川教授(演:酒向芳)もついにその姿を見せるのも、ファンなら嬉しいはず。
他にも、何かと奇行が目立つ尾野ちゃん(演:奈緒)や黒島の信奉者である内山(演:大内田悠平)といったクセの強いキャラクターたちが、劇場版ではどう仕掛けてくるのかも見逃せない。
TVドラマ版ファンの方は、そうした登場人物たちの変化を楽しんでみてはいかがだろうか?
【まとめ】劇場版は肩ひじ張らずにストーリーを追えばOK
これまで述べてきた通り、『あなたの番です 劇場版』はミステリーというよりも恋愛ドラマとしての色が濃い作品で、TVドラマ版が好きだった人に向けたファンディスクのような映画という感じだ。
公開からかなりの時間が経っているため、TVドラマからのファンは鑑賞済みの方が多いとは思うが、もしこれから見ようと思っている方がいたら、肩ひじ張らずにストーリーをただ追うくらいの気持ちで臨むと良いだろう。
もっとも、「犯人を特定するのが多分無理」と言われたからこそ、逆に犯人探しに勤しんでみるのも楽しいかもしれない。
いずれにせよ、「これから頑張ってTVドラマ版を見て、劇場版も追いつこう」とするような作品ではなく、「TVドラマは見ていたから映画も見てみようかな」くらいの感覚で気軽に見る作品であることには間違いないはずだ。
作品情報
公開日:2021年12月10日より全国ロードショー
監督:佐久間紀佳
脚本:福原充則
原案:秋元康
出演:原田知世、田中圭、西野七瀬、横浜流星、浅香航大、奈緒、山田真歩、三倉佳奈、大友花恋、金澤美穂、坪倉由幸(我が家)、中尾暢樹、小池亮介、水石亜飛夢、井阪郁巳、荒木飛羽、前原滉、大内田悠平、バルビー、袴田吉彦、片桐仁、真飛聖、和田聰宏、野間口徹、皆川猿時/門脇麦、酒向芳、田中哲司、徳井優、田中要次、長野里美、阪田マサノブ、大方斐紗子、峯村リエ、竹中直人/木村多江、生瀬勝久 ほか
主題歌:Aimer「ONE AND LAST」
配給:東宝
(情報は記事公開時点のものです)