戸田奈津子のスターこのひとこと:『きっと、それは愛じゃない』
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きっと、それは愛じゃない

■2023年12月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開 配給:キノフィルムズ

【STORY】
ドキュメンタリー監督として活躍するゾーイが招かれたのは、とある結婚パーティ。そこで、久しぶりに再会したカズから「僕も結婚する」と告げられる。ところが「相手は未定」で…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 笑えて、泣けて、最後は心がほのぼの……。そんな気分にさせてくれる『ラブ・アクチュアリー』(’03年)。『きっと、それは愛じゃない』は、その傑作ロマンティック・コメディを製作したスタジオの最新映画だけに、同じ系列。監督がパキスタン出身のシェカール・カプールだけに、エスニックなスパイスが効いているところがユニークです。
 ヒロインのゾーイはドキュメンタリーの映画監督。彼女の実家の隣に住むパキスタン人ファミリーの長男カズとは幼なじみであり、それぞれ実家を離れてからも連絡を取りあう仲。そんな2人がカズの弟の結婚式で再会したことから、物語がスタート。
 結婚式が行われた実家の裏庭で会話を楽しむゾーイとカズ。その時、いい年をして親に隠れタバコを吸っているカズに呆れるゾーイにカズが意外な告白を。

カズ:But they’er happy now I’m getting married.

僕、結婚するんだ。親も喜んでいる。

ゾーイ:Who’s lucky lady?

おめでとう。お相手は?

 <Who’s lucky lady(そのラッキーな女性は誰なの?)>は、友人などから「結婚する」というニュースを聞いたときの決まり文句。聞くお相手が女性の場合は<Who’s lucky man?>と変わります
 そして、注目なのはカズの次のセリフ。

カズ:Getting an arranged marriage. Assisted marriage. That’s what we’re calling it these days.

見合い結婚をする。最近の言い方だと“支援結婚”だけど。

 この映画によると、最近では<Arranged marriage>=「お見合い結婚、取り決められた結婚」を<Assisted marriage>=「支援結婚、手を借りた結婚」というのだそうです。私も、この映画を見て初めて知りました。時代も変われば言葉も変わります。たとえば「出会い系アプリ=デート・アプリ」は<a dating app>。たまに耳にするする<マッチングアプリ>は和製英語ですから<a match-making app>など。昔はなかった言葉です。
 そして、物語の終盤。すれ違っていた2人の心を結ぼうと決意するゾーイのセリフ。

ゾーイ:I’m gonna put myself on the line here.

勇気を奮い起こして言うわ。

 <put 〜 on the line>は、「線の上に乗せる」。この「線」は、「最後の一線」「超えてはならない一線」の意味。つまり、「乗るか、そるか」の瀬戸際ということで、「思い切って」「勇気を奮って」となります。例文としては「I put my career on the line.(私はキャリアを懸けている。)」など。
 さて、ゾーイのかなり個性的な母親を演じたエマ・トンプソン。ご本人とお会いしたのは、1996年。自らが脚本を書いた主演作『いつか晴れた日に』(’95年)でアカデミー賞脚色賞を受賞した直後でした。彼女はハリウッドでも大成功を収めたスター女優であり、知的でユーモアもたっぷり。とはいえ、多くのイギリスの俳優さんがそうであるように、気取りもなくてざっくばらん。当時流行していたイッセイミヤケの<PLEATS PLEASE>を楽しそうに爆買いし、私にもブラウスをプレゼントしてくれて……。そういえば、2019年にディム(男性の“サー”)の爵位の授与式に、本来なら礼服で出席のところをスーツ&スニーカーで颯爽と登場したというニュースを知って、来日時を思い出し「いかにも、エマらしいな」と拍手を送りました。

▽ヒュー・グラント、エマ・トンプソンなど新旧の人気英国俳優が織りなすさまざまな愛の物語

『ラブ・アクチュアリー』より

冒頭、クリスマスを前に浮き立つ人々の映像。そこにヒュー・グラントが演じる若き独身の英国首相のナレーションが流れる。その最後を結ぶ言葉が。

If you look for it(=love), you’ll find that love actually is all around.

それ(愛)は探しさえすれば、実際のところ愛はどこにでもあふれているのだ。
Point

<actually>は、「実際」「本当は」の意味で、本当ならそのあとに「~だ」という文章がなくてはいけません。となるとタイトル『Love Actually』は中途半端ですが、じつは冒頭のナレーションが言うところの、「愛はどこにでもある」というこの作品のテーマが隠されているのです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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