戸田奈津子のスターこのひとこと:『フェイブルマンズ』
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フェイブルマンズ

■3月3日(金)より、全国公開
配給元:東宝東和

【STORY】
1952年。まだ幼きサミー・フェイブルマンにとって映画館は怖いところだった。しかし、両親に連れられて映画館へ足を踏み入れると、そこには素晴らしい世界が広がっていて…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 スティーヴン・スピルバーグ監督が自らの少年時代を描いた『フェイブルマンズ』。この作品、「ひとつのことに情熱を燃やせばやがて偉業を成し遂げることも夢じゃない」という、熱いメッセージを伝えてくれます。6歳で映画に魅せられて以来、ひたすら映画作りに没頭。数学も体育も…とにかく映画以外のことには興味もなく、みんなペケ。ここで巨匠と一緒にするのもアレですが、私も子供の頃から映画に夢中になり他のことはペケでしたから、シンパシーを感じます。「好きこそものの上手なれ」と言うではありませんか。好きなことをあきらめずに追い続ければ、それが夢の達成につながるのです。まず原題『THE FABELMANS』から。名字に<the>を付け、最後に<s>をつけると「〜家の人々」という意味に。したがってタイトルは「フェイブルマン家の人々」という意味です。映画はフィクションにするために『The Fabelmans』となっていますが、内容的には『The Spielbergs』とすべきかも。科学者の父バートが転勤となり、一家はカリフォルニアに引っ越しますが新居の準備ができていない。そこで父は子供たちに。

バート:The new house will be ready faster than you can say “Jack Robinson”.

新居は、おまえたちが“ジャック・ロビンソン”と言い終わる前に出来上がっているよ。

 <you can say “Jack Robinson”>は、日本語なら「あっという間に」。つまり、「すぐに」「たちどころに」という意味。ちなみに、私が担当した本作の字幕では「あっという間に」としてあります。さて、なぜJack Robinsonなのか? どういう人物かは古くからの表現なので諸説紛々。有力なのは、「来たと思ったら、“あっという間に”すぐ帰ってしまうJack Robinsonという男がいた」という伝説があるようで、原典はどうあれ、今でも“あっという間に”=before you can say Jack Robinsonと、日常で使われています。ピアニストの母親ミッツィは手を大切にしています。そのため皿洗いをしなくてすむように、食器はすべて紙製。食事が終われば紙のテーブルクロスごと捨てます。訪ねてきたボリス伯父さんがその様子を見てバートに。

ボリス伯父さん:Your wife, she doesn’t like doing the dishes?

君の女房は皿洗いが嫌いなのか?

 <do the dishes>は日常会話で頻繁に使う「皿を洗う」という言い方。文字通り<wash dishes>でもいいのですが、一般的には<do the dishes>のほうがふつう。覚えておきたい日常表現のひとつです。
 スピルバーグ監督とは『E.T.』(’82年)の頃からのお付き合い。その公開時、あるテレビ番組の密着取材にお伴して、映画に登場したたくさんの思い出の小道具(『ジョーズ』のガイコツなど!)が飾ってあるご自宅に伺ったこともあります。取材中には、スピルバーグの “相棒”である作曲家のジョン・ウィリアムズが現れ、グランドピアノの前に座って「『E.T.』にはこういうテーマを考えた」と、今は有名なあの曲を演奏してくれました。今となっては夢のような思い出です。
 『A.I.』(’01年)の字幕を作る時は、秘密厳守のために製作会社アンブリン・エンターテインメントの一室に10日間、缶詰にされたことも(笑)。
 とにかく、長いお付き合いですが、彼は常に映画のことしか話さない! 映画に関することとなれば、彼は生きる百科事典なのです。今回の『フェイブルマンズ』を観れば、そうなって当然だと納得できるはずです。
 「ハラハラ・ドキドキ」の映画を撮る監督で、彼以上の“名人”はいません。今年は自身でメガフォンこそ取っていませんが、『インディ・ジョーンズ』が再登場します。待ちきれない思いなのは私だけでしょうか?

▽黄金トリオが19 年ぶりに復活した人気シリーズ第4弾

『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』より

ジョージ・ルーカス&スティーヴン・スピルバーグ&ハリソン・フォードの黄金トリオが贈るアドベンチャー。米ソ冷戦下の1950年代を舞台に、ハリソン扮する考古学者インディは宇宙の神秘を解き明かす力を秘めた<クリスタル・スカル>の捜索を強要され…。セリフは、相棒の名前が<マット=Mutt(雑種犬)>だと知ったインディが「そりゃ一体、どういう名前だ?」というとマットが。

That’s the one I picked. You got a problem with it?

おれが選んだのさ。文句あっか?
Point

<You got a problem with it?>は、表面的には「何か問題ある?」ですが、じつはムカつくことを言われて、ツッパって言い返す言い方。「だから、なんだよ!」「文句あっか?」という感じです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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