■2022年1月14日(金)全国公開
配給:東宝東和
【STORY】
父が営む運送業で経理を手伝っていたパトリツィアは、とあるパーティで出会った男マウリツィオと意気投合。時間が経つにつれて次第に強く惹かれあい、2人は結婚に至るが…。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
『ハウス・オブ・グッチ』で、老舗ブランド<GUCCI>ファミリーを巻き込んだ殺人事件を描いたリドリー・スコット監督。まずは84歳にして、この2時間39分という濃厚な作品を作ったエネルギーに圧倒されます。さらに、『エイリアン』(’79年)以来SF映画の巨匠として崇められる一方で、『テルマ&ルイーズ』(’91年)、『グラディエーター』(’00年)、『ハンニバル』(’01年)などの傑作を生み出し、80歳になってからも『ゲティ家の身代金』(’17年)、『最後の決闘裁判』(’21年)、そして本作と多岐にわたるジャンルに挑戦。その飽くなき好奇心と土俵の広さには、尊敬するばかりです。
主人公は、レディー・ガガが演じる運送会社の娘パトリツィア。パーティで出会った男性がグッチ家の跡取りマウリツィオと知った彼女はアタックを開始。「エリザベス・テイラーのようだ」という彼のお世辞に答えて。
パトリツィア:I’m way more fun.
あたしの方がずっと面白いよ。
<way more(than)>=「〜より、はるかに〜だ」。普通習う比較表現は<more〜than〜(〜より〜だ)>ですが、<way more than>は、ネイティブっぽい言い回しで意味も強くなります。たとえば、「Masao is way more handsome than Tetsuo.(マサオはテツオより、はるかにハンサムだ。)」という使い方。跡取り息子の気を引こうと一生懸命なパトリツィアのセリフをもうひとつ。
パトリツィア:The night is young. Aren’t you going to ask me out?
まだ宵の口よ。あたしをデートに誘わないの?
<The night is young.>の直訳は「夜はまだ若い」で、つまり「宵の口」。このフレーズは、非常によく使われるオシャレな表現。さらに<ask~ out>も直訳は「外に誘う」ですが、ほとんどはデートに誘うことを意味します。
マウリツィオを演じたアダム・ドライバーは、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(’15年)でハン・ソロとレイア姫の息子ベン・ソロ(カイロ・レン)に抜擢されてブレイク。本作ではそのイメージを一新して典型的な“ミラノ男”になりきっています。そう、舞台となるミラノは特別な街。私も何度か行っているのですが、ミラノほど男性がステキな街はない!(笑)。それも若者ではなく中年・熟年の男性たちがオシャレで、エレガント。本作ではそういう世界のファッション&デザインの中心地として何世紀も息づいてきた街の特徴・雰囲気まできちんと描かれていて、さすがリドリー・スコットです。
最後にピックアップしたフレーズも、ウブなマウリツィオにアタックし続けるパトリツィアが彼に飲み物を注文するシーン。
パトリツィア:I’ll have martini with a twist.
マティーニにレモンをツイストして。
<twist>は「ひねる」「ねじる」ですが、飲み物の場合は、レモンの皮をひねって、レモン果汁を少々しぼり、飲み物に香りをつけること。こういう表現は知っていないとわからないし、自然に使うと“通”の感じがしますよ。
さて、パトリツィアの猛アタックが成功してマウリツィオがプロポーズ。しかし、彼の父ロドルフォ・グッチは結婚に大反対。父親役のジェレミー・アイアンズとお会いしたのはずいぶん昔で、たしか『戦慄の絆』(’88年)で来日した時が初対面。いかにも英国紳士という雰囲気のかたで、どこでもいつでも、鏡に映るご自分を観ていました。“自分は美しい”と思っているし、その“美しい自分”を常に演じることだけに意識を集中している印象が強くて、人間的な思い出は皆無。まぁ、私がこれまでにお会いしたかたの中で、あれほどのナルシストはいませんねぇ(笑)。
▽『ハウス・オブ・グッチ』でアルド・グッチを演じたアル・パチーノの初のアカデミー賞主演男優賞受賞作
『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』より
アル・パチーノ演じる盲目の退役軍人スレードは、ある目的のため苦学生チャーリーを付添人に雇いNYにやってきた。シーンは超高級ホテル<ウォルドルフ・アストリア>のスイートルーム。「ミニバーに隅から隅まで“ジョン・ダニエルズ”を並べろ」というスレードにチャーリーが「ジャック・ダニエルズの間違いでは?」と言うと。
スレード: He may be Jack to you, son, but when you’ve known him as long as I have….
きみには“ジャック・ダニエルズ”かもしれんが、おれは何たって彼との付き合いが長いんだ…。
このやり取りのおもしろさは、「ジャック・ダニエルズ」というバーボンの銘柄と、「英語ではJohnがJackと呼ばれることもある」ことを知っていなくては通じません。かつてはそもそも日本では“バーボン”を知る人が少なく、字幕では単に“酒”とか“ウイスキー”と訳されていましたが、’93年にヒットしたこの映画で、この有名銘柄と英語名前のジョークが浸透しました。
(情報は記事公開時点の内容です)