戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『ジュディ 虹の彼方に』
ジュディ 虹の彼方に

配給:ギャガ

【STORY】華やかな栄光の影で、子役スターの頃からすさみきった生活に苦しんでいたジュディは、ようやく手にしたステージの仕事でもトラブルを起こしてしまう…。

 このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランド。かつて、ジュディのおかげで私の“ミュージカル熱”は、より一層高まったと思います。彼女が抜擢されて主演したミュージカル映画『オズの魔法使』(’39年)は素晴らしかった! 劇中で歌った「虹の彼方に Over The Rainbow」はたちまち大ヒットし、スタンダードの名曲として歌い継がれているのはご存知の通り。当時は、まだ10代でしたがバラードも堂々と歌い上げ、歌唱力バツグン。上手さにただただ驚嘆するほどのシンガーでした。彼女の上手さに肩を並べるのは、くしくも、32歳のジュディがハリウッド復帰をかけて出演した『スタア誕生』(’54年)のリメイク版『スター誕生』(’76年)でアカデミー賞を受賞したバーブラ・ストライサンドくらいでしょうか。
 本作は、ジュディが47歳の若さで亡くなる半年前、ロンドンで行われたコンサートの舞台裏を描いています。ハリウッドから追われ、パフォーマーとしての名声も信用も失ったジュディにとっては、生活の糧を得るためのドサ回り。しかし、ステージでは愛嬌を振りまいて。

I just adore London. My home away from home.

私、ロンドンが大好き。第二の故郷よ。

 <My home away from home.>は「家から離れた家」で、つまりは「第二の故郷」の意味でよく使われます。
 ジュディがスターの座から転落した要因は、薬物やアルコールへの依存。その始まりが、映画会社の策略からでした。少女期の太りやすい体質をコントロールするために減量剤や睡眠薬を飲ませられていたのです。彼女のパブリシストのセリフ。

Those pills will take the edge off. Down the hatch.

このクスリを飲めば、イライラが治るわよ。さぁ、一気に飲んで。

 <hatch>は船の甲板にある昇降口。その入り口から下へ降りるのと口から物を飲み込むイメージを重ねて「一気に飲む」を表しています。飲み会などのかけ声で「Down the hatch!」。よく使われる「Cheers!=乾杯」よりも勢いがいい表現で「一気飲み!」という感じ。
 同じようによく使われるフレーズが、幼い息子と娘の親権を争う元夫との会話にも。

Sid(元夫):I want custody during this year.

今年いっぱいは、私が親権をもらう。

Judy : Over my dead body.

絶対にさせないわ。

 <Over my dead body.>は、「私の死体を超えて、そうしなさい」「私の目の黒いうちは、そんなことはさせない」。「〜をさせない」という強い言いかた。映画の中でも頻繁に登場するフレーズですから、チェックしてください。
 さて、満身創痍のジュディを熱演してアカデミー賞主演女優賞に輝いたのはレネー・ゼルウィガー。一見した顔はそんなにジュディに似ていないのに、ふとした角度の表情や、佇まいが激似! 歌も上手い。レネーが歌える女優であることは、『シカゴ』(’02年)で世界中に認知されていましたが、本作ではモノマネではなく心まで歌っていました。ラストのステージでエモーショナルに歌う「虹の彼方に Over The Rainbow」は圧巻です。
 レネーに初めて会ったのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』(’01年)が大ヒットした後。ちょっと太めで開けっぴろげなヒロインのイメージが強かっただけに、実物とのギャップに少々ビックリしました。華奢なボディ、神経質に見えるほどの繊細さ。インタビューを受ける時も、「静かに集中したいから」と、記者さんと通訳の私以外は部屋に入れなかったのです。とはいえ、お人柄はとても良かったのですが。そう、あの時の彼女を思い浮かべると、本作の中でステージに立つ緊張感に耐えられず震えて怯えているジュディとちょっとダブります。私見ですが。

▽レネー・ゼルウィガーがヒロインの会計係をキュートに好演

『ザ・エージェント』より

落ち目のフットボール選手をクライアントに孤軍奮闘するスポーツ・エージェントをトム・クルーズが演じたヒューマン・コメディ。彼と恋に落ちる会計係をレネー・ゼルウィガーが演じて、大ブレイク。ひと言は、主人公が選手を鼓舞するために言うセリフ。

Show me the money!

おれのためにバッチリ稼いでくれ!
Point

直訳すると「おれに金を見せろ!」ですが、意味は「おれのために金を稼いで、その金を見せろ!」。つまり「おれのためにバッチリ稼いでくれ」。ちなみに、公開当時のアメリカでは流行語となり、子供でも口々にするほど流行っていたフレーズです。

(情報は2020年4月の記事公開時点の内容です)

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