【ネタバレあり】劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン|映画だから描ける愛と手紙の物語【感想とあらすじ】

京都アニメーションによる美麗な映像と心に響く音楽、そして「手紙」を軸に描かれる感動的なストーリーで大きな話題を呼んだアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。その後日譚であり、主人公ヴァイオレットと彼女が慕うギルベルト少佐の行く末を描いた『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、第44回日本アカデミー賞で「優秀アニメーション作品賞」を受賞するなど高い評価を受けた映画だ。公開当時、「必ずハンカチを持っていけ」と言われたほど多くの人を感動させた本作を、少しのネタバレと感想を交えながら書いていく。

はじめに『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とは?

アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、2018年1月~4月にかけて放送された京都アニメーション制作のTVアニメ。
京都アニメーションが主催する「第5回京都アニメーション小説大賞」の小説部門で大賞を受賞した暁佳奈の小説が原作。
幼い頃から兵士として生きてきたため心が育まれてこなかった少女、ヴァイオレット・エヴァーガーデンが、自動手記人形(ドール)と呼ばれる手紙の代筆業を通して、親子愛、兄弟愛、恋愛といった“愛”にまつわるテーマを中心に人の心を学んでいき、かつて戦場で恩人が自分に言った“愛してる”とは何かを徐々に知っていく物語だ。基本的には1話完結型の構成。
作品の特徴として必ずあげられる京都アニメーションによる美麗なアニメーションは、多くのアニメファンを虜にしたことでもしられている。
また、風景や街並み、装飾品などを繊細に描く一方で、キャラクターの心情が変化する瞬間の表情や演出はダイナミックに描いているのも魅力のひとつ。
2019年9月6日には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』が劇場公開されており、TVシリーズを通して成長したヴァイオレットたちの姿が描かれた。
今回紹介する2020年9月18日公開の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、その外伝から少し時間が経った時間軸となる。

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』あらすじ

戦争が終結して数年が経ち、新しい技術によって人々の生活にも変化が訪れていた。
C.H郵便社で手紙の代筆を生業とする自動手記人形(ドール)として働くヴァイオレット・エヴァーガーデンは、これまで数多くの代筆業をこなしてきたことで各方面から依頼が舞い込むようになり、忙しい日々を過ごす。
だが、戦場で行方不明になってしまった敬愛するギルベルト少佐のことが忘れられず、心のどこかでギルベルトが生きていることを願うヴァイオレットの思いは行き場を失うばかり。
そんなある日、ヴァイオレットのもとに、ユリスという少年から手紙の代筆依頼が舞い込む。
依頼を引き受けたヴァイオレットは、ユリスとともに、彼の家族への手紙を書き始めるのだった。
一方、C.H郵便社の倉庫で一通の宛先不明の手紙を見つけた社長のホッジンズは、その筆跡に見覚えを感じ…。

劇場版のテーマは「愛する人へ送る、最後の手紙。」

TVシリーズから少しずつ変わっていく時代と人々

TVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界は、4年間にわたる大きな戦争が集結したという背景がある。
少しづつ平和を取り戻していきながらも、まだ爪痕が残る世界の中で、ヴァイオレットは代筆業を営むことになる。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、戦争終結からさらに年月が経ったことで、街も人も、少しずつ変化している様子が随所に見られる。
TVアニメと劇場版のれた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』でも電波塔を建設している描写があったが、本作ではついに電話が登場。
まだ市場に出回り始めたばかりなのか、ヴァイオレットの同僚であるアイリスが「妙な機械」と称しているのが、時代の過渡期であることを物語っています。

また、変化しているのは街だけでなく人も同様。
ヴァイオレットが働くC.H郵便社の同僚であったエリカが自動手記人形を辞めて小説家になろうとしていたり、当初はヴァイオレットに複雑な感情を抱いていた海軍大佐のディートフリートもTVアニメ最終話を経たことで態度を軟化させていたりと、彼女を取り巻く関係性もTVシリーズとは変化しました。

筆者もディートフリートの変わりようには驚くとともに、TVシリーズでホッジンズ社長がヴァイオレットに言った「してきたことは消せない。でも、君が自動手記人形としてやってきたことも消えないんだよ」という言葉が、ここで効いてくるのだなぁとしみじみ感じました。

同時進行する未来の話がどう絡むのかに注目

本作は、ヴァイオレットたちのストーリーとは別に、彼女たちよりも未来に生きる一人の少女の物語も同時進行しているのが特徴。
作品の世界感を説明するイントロダクションとして、未来の世界を生きるある少女が、かつて存在した自動手記人形という職業に興味をもつ話がスタートし、そこからヴァイオレットたちの時間軸へと展開していきます。

その後、この少女がヴァイオレットの功績をたどっていくインターバルが何度か挿入されるのですが、ヴァイオレットたちが後の時代でどうなっていったのかが徐々に明かされていくため、本筋のストーリーがどう展開していくのか、予想と期待感を盛り上げてくれるのが秀逸。
また、インターバルとして本筋とリンクしながらも、最終的にはその少女の成長を描いたもう一つのストーリーとしても成立している見事な構成となっています。

なお、歴史を辿っていくこの少女の正体は、TVシリーズのある話数で登場した人物の孫。
劇場版を見た人の中には、冒頭から涙腺を刺激されてしまった人も多いのではないでしょうか。(筆者は前情報を入れずに劇場版に挑んだため、見事にやられてしまいました。)

「愛する人へ送る、最後の手紙。」が意味するものとは…?

TVシリーズの頃からファンの心を掴んで離さないのが、その感動的なストーリー。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、ヴァイオレットとギルベルト少佐の行く末に加え、前述のある少女の物語、そしてヴァイオレットに手紙の代筆を依頼する少年・ユリスをめぐる家族愛と友情の物語が描かれます。
そのすべてに共通するキーワードとして「愛する人へ送る手紙」がかかわってくるのです。
これまでさまざま愛を手紙にのせて伝えてきた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の集大成に相応しいストーリーであり、三つの手紙に込められた思いが結実していく様は、そのどれもが自然と涙がこぼれてしまうような優しくて温かいものになっています。

「言葉にするのは難しくても、手紙にすることで伝えられる想いがある」
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の物語が伝え続けた想いを、ぜひこの劇場版で受け取ってください。

「アニメーションは総合芸術」を見事に体現した作品

「アニメーションは総合芸術」と評する人もいるように、アニメ制作には監督、演出、音響、アニメーター、声優など…、一つの作品を創り上げるのに多くの人が関わっています。
今回はストーリーにフォーカスして紹介しましたが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は声優陣の芝居や劇中の音楽など、脚本以外の部分でもかなり高い評価を受けており、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』でもその総合力の高さは健在。
関わった一人一人の熱意とこだわりが何気ない一つのシーンからも感じられ、あらゆる面で高いクオリティの作品となっています。
アニメファンはもちろん、普段アニメを見ないという方も、「アニメーションは総合芸術」を体現したといっても過言ではない本作を、TVシリーズとあわせてぜひ一度鑑賞してみてはいかがでしょうか。

(情報は記事公開時のものです)

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