永遠の名優・高倉健を一躍スターにしたことで有名な人気シリーズ「網走番外地」。1965年公開の第1作から、1972年公開の第18作まで、東映のドル箱シリーズとして日本映画界に君臨し続けました。しかし、1年に2本以上の驚くべきハイペースで作られたため、健さんファンでもシリーズを初めから終わりまですべて観ている人は少ないのではないでしょうか。前後編に分けて、各作品のあらすじと見どころを振り返ってみたいと思います。
大人気 シリーズ「網走番外地」
罪を犯して網走刑務所へ送られた男を高倉健が演じる人気シリーズ。 主人公・橘真一(高倉健)が喧嘩、いじめ、脱獄……刑務所内のあらゆるトラブルや、出所後に流れ着いた土地で待ち受ける事件と戦うことに。
シリーズではあるものの、各作品に前後のつながりがないのが大きな特徴で、主人公の名前と物語の基本的な流れだけが同じこと以外は舞台も設定は異なり、どの作品から観ても楽しむことができる構成。
あるときは吹雪の中での大アクション、あるときは馬に乗って草原を爆走、またあるときは九州でお祭り騒ぎと、内容は毎回バラエティに富んでいます。
シリーズ前半となる10作品は、個性的な作風で現在も映画ファンから根強い支持を得ている石井輝男監督が、たった1人で全10作の監督と9作の脚本を手がけています。
健さんが自ら歌う同名の主題歌が必ずオープニングに流れ、レコードも大ヒットしました。
シリーズ第1作『網走番外地』(1965年)
共演:南原宏治、丹波哲郎、安部徹、田中邦衛、待田京介、嵐寛寿郎
義父からのいじめに耐えかねて家を飛び出した橘真一(高倉健)は、やくざになって罪を犯し網走にやってきた。故郷で帰りを待つ母のために真面目に働いていたが、仮釈放を前にして脱獄計画に巻き込まれてしまう…。
何十年と監獄で暮らし続けている男を、戦前からの時代劇スター・嵐寛寿郎が圧倒的な迫力で演じました。シリーズ唯一のモノクロ映画で、白い雪原と浅黒い男たちの顔の強烈なコントラストの中でハードなアクションが展開します。
シリーズ第2作『続網走番外地』 (1965年)
共演:瑳峨三智子、室田日出男、三原葉子、中谷一郎
前作の公開からわずか3か月後に公開された第2作。なんと刑務所の場面はなくなり、出所から間もない橘が、些細なきかけで凶悪な宝石強盗に命を狙われてしまう犯罪サスペンスとなっています。
健さんの窮地を救うのは、アラカンこと嵐寛寿郎の演じる「8人殺しの鬼寅」。当たり役として人気を博し、第9作まで毎回登場することに。
脱獄アクションだった前作とはまったく異なる軽妙洒脱さと、男気あふれる橘のキャラクターの魅力も盛り込んだ見事な一作です。
シリーズ第3作『網走番外地 望郷篇』 (1965年)
共演:杉浦直樹、待田京介、田中邦衛、中谷一郎、桜町弘子
網走から出所して九州・長崎にやってきた橘は、かつて世話になった組で港の仕事を手伝っていたが、そこでまた新たなトラブルに巻き込まれてしまう。
肺病持ちのニヒルなヤクザを杉浦直樹が熱演。また、当時は駆け出しの若手で大きな役につくことのなかった小林稔侍と石橋蓮司が健さんに喧嘩を売るチンピラの役で活躍しています。
シリーズ第4作『網走番外地 北海篇』(1965年)
共演:大原麗子、杉浦直樹、藤木孝、安部徹、小沢栄太郎
獄中で病に倒れた男との約束を守るために釧路にやってきた橘は、トラックに乗って危険な雪道を荷物を運ぶことになる。しかし、凶悪なギャングを乗せ、ケガをした少女を乗せ、道中は危険度を増していき…。
1965年8月から12月で4本も作ってしまう恐るべきこのハイペースさは、いかにシリーズの人気が高く、勢いづいていたかを物語っています。
シリーズの準レギュラーとなり、その後も晩年まで幾度も健さんと共演することになる名女優・大原麗子が初登場しました。
シリーズ第5作『網走番外地 荒野の対決』(1966年)
共演:大原麗子、田崎潤、三原葉子、細川俊夫、谷隼人
出所した橘はあてもなく北海道の牧場に流れつき、そこで敵対する牧場同士のトラブルを知り、怒りを爆発させる。
仔馬と健さんの心温まる交流や、まるでハリウッドの西部劇のような射撃対決も大きなみどころ。
シリーズ第6作『網走番外地 南国の対決』(1966年)
共演:大原麗子、谷隼人、三原葉子、千葉真一、吉田輝雄
世話になった親分の死の真相を探るために沖縄へやってきた橘は、現地の情報屋と網走の仲間たちの助けを借り、陰謀を打ち砕くために立ち上がる。
アメリカから返還される前の沖縄の様子が記録された貴重な映画でもあります。
シリーズ第7作『網走番外地 大雪原の対決』 (1966年)
共演:大原麗子、吉田輝雄、内田良平、小松方正、上田吉二郎
北海道の東端・ノサップを舞台に、石油の利権をめぐって悪さを働くやくざたちを、橘は道中に知り合った風来坊と一緒に戦うことになる。
人気キャラクター・鬼寅の名を騙る悪役まで登場。西部劇の定番パターンを踏襲して映画の面白さのツボを押さえ、シリーズが安定した人気を保っていたことが伺える一作です。
シリーズ第8作『網走番外地 決斗零下30度』 (1967年)
共演:大原麗子、田中邦衛、三原葉子、吉田輝雄、田崎潤、丹波哲郎
出所後、行くあてのない橘は汽車の中で出会った少女を故郷へ送り届けることにしたが、鉱山で地獄の労働を就くことになってしまう。
第1作以来となる丹波哲郎が出演しました。
シリーズ第9作『網走番外地 悪への挑戦』 (1967年)
共演:真理明美、川津祐介、谷隼人、三原葉子、前田吟
九州へやってきた橘は、地元の不良少年たちを更生施設で指導している鬼寅親分を手伝うことになる。元囚人の橘は教育者へと立場が逆転。かつての自分と向き合うように不良少年たちと交流する。
不良少年たちの1人を、映画初出演となる名優・前田吟が演じているのも注目です。
シリーズ第10作『網走番外地 吹雪の斗争』 (1967年)
共演:菅原文太、梅宮辰夫、安藤昇
すっかり明るい作風のエンターテインメント路線が定着していたシリーズを、第1作のハードボイルドなアクション路線に戻した第10作目。
のちに『仁義なき戦い』で不動の地位を確立する菅原文太、『不良番長』で健さんとは別の路線で一時代を築いていた梅宮辰夫、そして本業のヤクザの組長から映画界に転身した孤高の俳優・安藤昇と、かつてない最強の共演陣が健さんと対決します。
まとめ
石井輝男監督による前半10作品は、第1作の思いがけない大ヒットをきっかけに、1年に3本、4本は当たり前という怒涛の量産体制で制作されました。
北は北海道、南は沖縄まで、全国で新作を待ち望む観客の声に応えて各地を放浪した健さんと土地との関係は、のちに日本を代表する長寿作となる「男はつらいよ」シリーズに似たものがあります。
しかし、人を撃ったり斬ったりしながら本数を重ねていればやがて限界が来てしまいます。第10作を最後に石井監督が降板し、一旦シリーズは終了。しばらくの休止期間を経て、「新網走番外地シリーズ」がスタートすることになります。
また、刑務所内のシーンでは、名脇役・関山耕二らが演じる、囚人と同じくらいコワモテの看守と緊張感のあるやりとりに加え、由利徹、砂塚秀夫といった昭和を代表する喜劇俳優から、健さんが行きつけのゲイバーからスカウトしたという伝説のゲイボーイ・吉野寿雄といった個性的な囚人仲間が健さんを囲んで騒動を起こすのもお決まりの流れ。
石井監督ならではのエンターテインメント精神に貫かれたシリーズになっています。