戸田奈津子のスターこのひとこと:『アシスタント』
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アシスタント

■2023年6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマン
トラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:サンリスフィルム 

【STORY】
名門大学を卒業したジェーンは激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めるが…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 『アシスタント』で、有名エンターテインメント企業に就職した新人アシスタントのジェーンを演じたのはジュリア・ガーナー。この作品で初めて知りましたが、ハデな芝居はないけれど彼女がこの映画を一人で背負っていて、並々ならない実力を見せてくれます。こういう演技の基礎を身に付けた実力のある若手が次々に出てくるところに、ハリウッドの層の厚さを感じます。
 紹介するフレーズは、役に立つアシスタント・フレーズの数々。まず、月曜に出社したジェーンと同僚の会話。

ジェーン:How was your weekend?
男性の同僚:Amazing. Yours?
ジェーン:I was here.

ジェーン:週末、どうだった?
男性の同僚:最高。君は?
ジェーン:ここ“会社”に出ていたわ。

 と、ジェーンは悲しい週末を過ごしましたが、アメリカでは週末を大事にする習慣。週末前には「Have a nice weekend.」というのが決まり文句。週末が終わったら<How was your weekend?>と尋ねるのがほとんどの礼儀です。
 また、電話の相手とアポの相談。

ジェーン:Dose 6p.m. work for then?

午後6時ならいかがですか?

 もっと簡単に「Is 6 p.m. okay?」でもOKですが、誰もが「働く」と覚えている<work>は「都合がいい」「都合が悪い」の意味でも使われます。たとえば「Sunday works for me beautifully.」と言えば、「日曜日だったら、最高に都合がいいわ。」。けっして「日曜日が働く」の意味ではないですから、お間違えのないように!
 覚えておきたいメール表現もあります。

ジェーン:I’ll shoot you an email.

eメールを送るわ。

 <send( 送る)>よりも<shoot(撃つ、射る)>のほうがスピード感があっていい感じです。
 そのほか、ジェーンだけではなく先輩アシスタントもよく使っているフレーズが。

先輩アシスタント:Let me check on that and I’ll get back to you.

その件、調べて、折り返します。

 <call you back>でもいいですが、<get back to you>のほうがよく使われるフレーズです。
 本作で思い出したのが、『ワーキング・ガール』(’88年)。主人公の証券会社の新人秘書の仕事ぶりを見て、「ニューヨークのOLもけっこうお茶くみさせられているのねぇ!」とびっくりしたことがあります。あれから35年。本作はキティ・グリーン監督が多種多様な企業で働く多くの女性たちに取材をして書いた脚本を映画化。つまり今もなお、世界最先端のニューヨークにある大企業のみならず、多くのオフィスであんなパワハラがまかり通っているという現実に、改めて驚かされます。
 じつは、私も束の間のOL経験があります。大学を卒業した年に、とある生命保険会社の社長秘書として入社しました。英語関係の秘書ということで、私は何をするかというと、社長が時々やりとりする英語の手紙を週に何度か処理するだけ。それでも9時から5時までオフィスに居なければならないのですから退屈! すでに「字幕翻訳の仕事がしたい」という別のゴールがありましたから、「ここでグズグズしていられない」と1年半で退職。つくづく、組織に合わない性格なのだと自らを知りました。

▽恋とビジネスを賭けた女の闘いを描くロマンチックコメディ

『ワーキング・ガール』より

セリフは、主人公テス(メラニー・グリフィス)が女上司キャサリン(シガーニー・ウィーバー)と初めて出会う場面で。

キャサリン:Then why don’t you pour us a couple of coffee and come on inside? I’m light. No sugar.

じゃ、ちょっとコーヒーでも入れて、中へ入ってちょうだい。私はライトよ。お砂糖は入れないで。
Point

<I ’m light.>は、「私は光」「私は明るい」ではありません。「私はコーヒーをミルク入りで飲む」ということ。ミルクを入れないコーヒーは「ブラック」なのは誰でも知っていること。そのブラックにミルクを入れると色が白っぽくなる。つまり<light>になるわけで、「I’m light.」という英語的な表現が生まれたのです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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