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フランス映画界の巨匠フランソワ・オゾン監督の最新作『Summer of 85』は、“少年同士の恋物語”だ。ただ、いわゆるBL(ボーイズ・ラブ)と呼ばれる作品に対して先入観のある人が持つ印象とは違う。監督自身が17歳の時に深く影響を受け、映画製作の原点となった青春小説を映画化した作品で、映画で舞台となっているのは1985年のフランス。初めて“心の友”を得、最も残酷な形でそれを失った少年の純真さ、そして混乱と再生を描いた。この映画が11月1日スターチャンネル1にて放送される。そこで今回は、『Summer of 85』で体感できる魅力をご紹介していこう。
原作で鑑賞する『Summer of 85』
映画『Summer of 85』の原作は、イギリスのYA(ヤングアダルト)文学作家エイダン・チェンバーズによる青春小説『おれの墓で踊れ(Dance on my Grave)』。1960年代に実際起こった事件をもとに、少年たちのひと夏の貴重な時間を描いている。青春小説というと若手作家の手で書かれる生々しさと粗削りな魅力のある作品も多いが、チェンバーズは英文学と演劇の教師・僧を経験したのちにこの小説を書いた。人生経験を積んだ上で瑞々しく“初恋”を書けたのは、作品中に登場する教師や社会福祉士のように主人公を見守り、その危うさと純粋さを懐かしく振り返るような想いがあったからなのかもしれない。
目で鑑賞する『Summer of 85』
この映画の魅力のひとつは、ロケ地となったフランスの風景や、80年代を感じさせる衣装をまとった登場人物たちの美しさ。デジタルではなく16ミリフィルム撮影という手法を用いることにより、ノスタルジックな淡く美しい映像となり、見る者を時代の空気・青春の思い出の中へ自然に包み込んでくる。
耳で鑑賞する『Summer of 85』
劇中に流れる音楽も、深く印象に残る。THE CUREの代表曲『In Between Days』、日本人でも耳にしたことのある人が多いだろうロッド・スチュワートの『Sailing』のほか、オゾン監督に「加工不要」と言わしめたジャン=ブノワ・ダンケルのメロディが、80年代の雰囲気とともに、青春の熱さ・せつなさを耳から染み込ませてくる。
心で鑑賞する『Summer of 85』
目から耳から自然と作品の空気の中に取り込まれているうちに、気付けば青春の刹那的な輝きに胸が締め付けられ、憧れやいとおしさを感じ、最後には温かさが残る。映画を見て未知の時代のレトロ感を楽しむ人も、少年たちの関係に違和感を持ちつつ現代社会の価値観を当てはめて納得しようとする人もいるだろう。だが、見終わる頃にはきっと、“青春”“恋”という、時代にも国にも性別にもとらわれない心の物語に、共感しているに違いない。
恋する喜びと痛みを知った少年のひと夏の物語
ヨットで一人沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐に見舞われ転覆してしまう。そこへ同じくヨットで近くを通りかかった18歳のダヴィド。運命の出会いを果たしたふたりは急速に惹かれ合い、友情を超えやがて恋愛感情で結ばれるようになる。アレックスにとってはこれが初めての恋だった。互いに深く想い合う中、ダヴィドの提案によって「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを立てるふたり。しかし、一人の女性の出現を機に気持ちはすれ違って…。
放送局:スターチャンネル1
放送日:2022年11月1日(火)
放送時間:[字] 午後9:00~11:00
再放送:2022年11月13日・25日
制作年/国:2020年/フランス
監督:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー、フィリッピーヌ・ヴェルジュ ほか
※PG12