『ミッドナイトスワン』内田英治監督作の衝撃のヒューマンサスペンス『逆火』

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『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が完全オリジナル脚本で挑んだ意欲作『逆火』。“実話”と銘打たれた感動自伝小説の映画化現場で、ある違和感を覚えた助監督・野島は真相を追求。主人公である貧困のヤングケアラーでありながらも成功したARISAは果たして悲劇のヒロインか、犯罪者なのか…? 疑惑は広がり、野島の日常は家族をも巻き込んで崩壊し始める。本作で野島を演じた北村有起哉に作品への思いや演技のアプローチについて語ってもらった。

 内田監督の作品には3回も出させてもらったんですが、今回は主演にしていただいて本当に嬉しかったです。脚本を最初に読んだときは重いなって思いましたけど、切り口が非常に面白くて引き込まれました。
 大ヒット間違いないだろうと思われている感動作を作ってる映画製作の現場で、野島は小さな疑問を感じて念のために確かめようとします。どうやら良くない想像が当たっているようで、また疑惑が生まれてそれも当たっていて…と、どんどんと嫌な方向に進んでいってしまいます。はじめは足元にわずかにあった水が知らず知らずのうちに水かさが増えていって、気付いたときには胸のあたりまで来て身動きが取れ
ない、そんな状況になってしまうんです。
 野島は家庭での生活が満たされていれば、疑惑を追求しようとしなかったんじゃないかと思うんですよね。娘は家に居つかない生活をしていて心配事は多く、それでもきちんと娘と向き合わずに妻に任せていて、野島はせめて仕事ではまともでありたいと求めたんじゃないでしょうか。演じていて、ダメなやつだなって客観的に思っていました(笑)。
 ただ、完全にダメなやつとしてアプローチすることもできたんですが、それだと観客はこの主人公の野島から距離を置いちゃうと思うんです。だから観客が心を寄り添わせやすいように、「この人も大変そうだな」と思ってもらえればいいなと思って演じました。野島は開き直るようなことはしない、そんな彼から葛藤やもがきを感じたので、それをそのまま丁寧に演技に落とし込んでいきました。
 内田監督は絶妙なバランスで描いてます。何が良いとか悪いとかジャッジするのじゃなく、「あなたはどう思いますか?」というスタンスで。観る方にはいったいどんな結末になるんだろうってドキドキしながら味わっていただきたいです。観終わった後、何かモヤモヤとするかもしれません。でも、こういう映画もあっていいと思うんです。今の時代ってすぐに答えの出る、わかりやすいものを求めすぎてる気がします。「なんだこれ、美味しいのか不味いのか、塩辛いのか酸っぱいのかわからないな」ってなって、数日経っても「あれ、いったい何だったんだろうな?」とふと思い出すような作品にもぜひ触れて欲しいと思います。僕は自分が出演しているにも関わらず、この作品を気がついたら没入して観ていて…「これこそが映画の力だな」って思いました。ぜひ劇場で体験して欲しいです。みなさんがどう感じられるか、僕自身も楽しみにしています。

プロフィール

YUKIYA KITAMURA
1974年4月29日生まれ。『カンゾー先生』(1998年)で映画デビュー。数多くの映画やドラマ、舞台で活躍中。主な出演作に映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『キリエのうた』『愛にイナズマ』、ドラマ「おむすび」(2024年)「いつか、ヒーロー」(2025年)がある。

Photo:平野司/ Text:入江奈々/ Hair&Make:上地可紗/ Styling:吉田幸弘

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