イヤな読後感が残るミステリー=イヤミスの名手・真梨幸子の傑作小説を原作とする「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」。18年前の「女子高生両親殺害事件」をモチーフとする小説企画が出版社に持ち込まれたのをきっかけに、登場人物たちが抱える心の闇と事件の真相が暴かれていく衝撃作だ。今回、本作で編集者である主人公の橋本涼を演じた桐谷健太に、役への向き合い方や作品の見どころについて話を聞いた。
主人公の橋本涼の役づくりについて
「不気味さがある人物にしたいと意図して橋本の過去や人柄を作り込みました」
僕が演じた橋本は現実感が希薄で、何らかの悲しみや苦しみを抱えているものの、他人から見ると何を考えているか分からない、得体の知れない男性です。その本性や本音の部分が浮き彫りになっていく前に、彼をごく普通だと感じる人もいれば、少し違和感があるなと思う人もいる。そういう不気味さがある人物にしたいと意図しながら橋本の過去や人柄なんかを作り込みました。事前準備の段階で完全に橋本像は築き上げていて、現場ではほとんど何も考えずに“役を生きる”ことができたので、自分なりにですがそこはうまくハマったなという感じはしています。
役者としての心構えについて
「僕がその役をどれだけ一生懸命生きて楽しめるかを重要視しています」
役へのアプローチ方法は毎回違います。直感でその人物像を感じることもあれば、動物が浮かぶ時も(笑)。衣装合わせをした瞬間にポーンとイメージが入ってくる時もあって、それはたぶん自分にしかわからない感覚。でもそれを結構信じていて、そこに委ねているところはありますね。
演じる際に作品のテーマはあまり意識していません。例えば戦争映画に出演して、あまりに辛すぎて「何でこの役柄を演じてるんやろ」って思う瞬間はありますよ。楽しむためにこの世界に入ったのに、入り込みすぎて「むっちゃ辛い、何これ?」みたいな(笑)。でもその世界観の中でしっかりどっぷり生きて、いろんな人に見てもらった時に、「戦争は嫌やな」と感じてくれる人達や子供たちが増えるのであれば~ということを心の支えにして演じ切るみたいなことはあります。 でもこんなことを感じて欲しいとかはあまり思ったことがないです。“伝えよう”という想いが強すぎると、伝わらなかった時になんかやきもきしちゃうじゃないですか(笑)、伝わるかどうかはタイミングや観る時のコンディションもありますし。それよりも、僕がその役をどれだけ一生懸命生きて楽しめるかを重要視しています。自分というものが役柄の中に流れ込んでいれば、自ずと伝わるものがあると思うので。
共演者との共通認識について
「役者冥利に尽きる役柄だった気がします」
今回、共演した役者さんたちもきっと同じだと思いますが、勝手な意見ですけど、役者冥利に尽きる役柄だった気がします。演じるには心の奥にある黒い暗がりへの階段を降りていかないといけなかったと思うんですけど、それは人によっては結構しんどくて辛くもある作業。でもそこからでないと表現できない何かもあって、みなさんその暗がりから顔を出しながら演じてくれているような感触がありました。
本作の魅力について
「エンターテインメントとして楽しんでいただけたら嬉しい」
この作品の魅力は、心の闇を抱えている人たちの黒い渦がぶつかり合って巨大化していくことで、観ているこちら側にも波及しそうなスリリングな展開です。心の闇は悪い物って捉えがちですけど、人によっては安心感や親近感が湧く部分でもあったりします。共感したり、まったく共感できずに「気持ち悪い」と思ったりするのもそれはそれでアリだと思うので、エンターテインメントとして楽しんでいただけたら嬉しいですね。
KENTA KIRITANI
1980年2月4日生まれ。
ドラマ「九龍で会いましょう」(’02)で俳優ビュー。『ゲロッパ!』(’03)、ドラマ「ROOKIES」(’08)、『BECK』(’10)、『火花』(’17)、「ケイジとケンジ」シリーズ、『ラーゲリより愛を込めて』(’22)、『首』(’23)など多数の出演作を持つ。現在ドラマ「院内警察」が放映されているほか、CM、歌手、ナレーションと多方面で活躍中。
Photo:平野司 Text:足立美由紀 Styling:岡井雄介 Hair&Make:岩下倫之(Leinwand)
轟書房の編集者・橋本涼(桐谷健太)のもとに、新人作家の小椋沙奈(倉科カナ)が18年前の「女子高生両親殺害事件」をモチーフにした小説企画を出版社に持ち込んでくる。2人は小説の連載を実現すべく、事件の関係者たちの取材を始めるが…。
監督:村上正典
出演:桐谷健太、倉科カナ、橋本良亮、蓮佛美沙子、斉藤由貴ほか
(情報は公開時点のものです)