戸田奈津子のスターこのひとこと:『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』
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ジュラシック・ワールド/新たなる支配者

■公開中
配給:東宝東和

【STORY】
恐竜たちが世界へと解き放たれてから4年。いまや地球上の各地に恐竜たちが棲みつくようになり、人類と恐竜とが混在する〈ジュラシック・ワールド〉がまさに始まろうとしていた…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 1993年に始まった『ジュラシック・パーク』から、“グランド・フィナーレ”と称される最新作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』まで、全6作の字幕を担当させていただきました。最初に『ジュラシック・パーク』を見た時の衝撃は、今でも忘れられません。しかも、ただの「恐竜を見せる映画」には終わらず、サスペンス要素を盛り上げる演出はさすがスティーヴン・スピルバーグ監督。
 セリフのほうは、科学的な説明や状況説明がややこしく、むずかしい。字幕が小さな子供にはむずかしすぎないかと心配していたのですが、スピルバーグ先生は「ハッキリ言って、この映画は13歳以下に見せないほうがいいと思うよ」と、おっしゃっていました。コンピューターや遺伝子について理解できる観客がターゲットの映画ということですね。
 さて、最新作のセリフ紹介は頻度多めで使われている、絶対にインプットして欲しい日常フレーズをピックアップします。
 本作には『ジュラシック・パーク』で活躍した3人の博士が登場。何年かぶりに古植物学者のエリ―が古生物学者アランを訪ねるシーンで、子供たちの成長ぶりなど近況を話し続けるエリーに、アランが。

アラン:You didn’t come here just to catch up, did you?

君は近況を交換するだけのために、ここに来たんじゃないんだろ?

 <catch up>は「遅れを取り戻す」の意味から「空白期間の情報をアップデートする」に。たとえば、ずっと会っていない友人に対して、「Let’s get together, we have so many things to catch up.(話したいことがいっぱいあるから、また会おうよ。)」。
 巨大イナゴの大量発生の原因を追うエリーとアランは、昔の仲間の数学者イアン・マルコムを訪ねます。その突然の訪問に驚いた彼が。

イアン:This is so trippy.

ヤクでトンでるみたい。

 <trip(トリップ)>は、「旅」のことですが、「トリップする」といえば、薬物で「トンでいる」こと。その形容詞が<trippy>。ここでは古い友人が突然訪ねてきたので「ヤクでトンでるみたい」「これは幻覚か」という意味。「現実とは思えない!」という状況などで使えば、ドンピシャの表現ということです。
 イアンのもとを訪ねようと提案したのはエリー。突然の申し出だったので、アランは驚いて。

アラン:He (Ian) just happened to invite you out of the blue?

彼(イアン)から突然、君に招待が来たってこと?

 偶然ですが、<out of the blue>は日本語にも「青天の霹靂」という、とてもよく似た表現があります。「霹靂」とは「雷」のこと。「晴れていたのに突然、雷が鳴る」、つまり「突然、思いがけないことが起こる」ということで、<out of the blue(晴天から〜)>も、同じ発想の意味です。
 シリーズ3作目から製作総指揮のスピルバーグ監督とは、『E.T.』(’82年)の頃からのお付き合い。当時いただいた『AMBLIN』(製作会社)のロゴ入り革製手帳は、いまでも愛用しています。オフィスにも伺ったこともあり、『A.I.』の字幕は秘密厳守のためにオフィスの一室に数週間軟禁されて作りました(笑)。その時、使い慣れない新品のノートパソコンを駆使していたのですが、すべての字幕を作り終えてホッとした瞬間、すべてが消えてしまって……パニック状態。ところがそんな私を見た若いスタッフが「No problem.」と言いながらチョイチョイといじって、全文を復元してくれたのです。さすがデジタル・エキスパートが集結する『AMBLIN』と、感心したり、感謝したり。デジタル音痴の私としては、いまでもヒヤッとする思い出ですね。

▽スティーヴン・スピルバーグ監督が、恐竜映画の歴史を変えた大ヒット作

『ジュラシック・パーク』より

バイオ技術で蘇った恐竜のテーマパークを舞台にアクション&アドベンチャーが展開。シーンは、凶暴な肉食恐竜に追われた弁護士が、一目散にトイレに逃げ込むのを見たアランが「一体どこへ行く気だ?」というと、イアンが。

イアン:When you gotta go, you gotta go.

行かなきゃならないときは、行かなきゃならないんだ。
Point

<When you gotta go, you gotta go.>は、トイレを我慢できない時の決り文句。くだいて訳せば、「我慢できないときは、しかたないだろ?」というようなニュアンスです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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